議長を巡る“悪しき慣習”は福岡県議会だけじゃなかった…山梨県議会に根付く「馴れ合い人事」の実態
車検切れの車で当て逃げ事故
「福岡県議会の議長・副議長ポストを巡る金銭授受問題が注目を集めていますが、山梨県では自民党現職県議の悪質な法令違反が起こっています。車検切れ・無保険の自車で当て逃げし、警察へも通報していませんでした。
書類送検までされたのに、県議会は厳重注意相当の『訓告』止まり。報道が鎮静化していることもあってか、県議本人は来年の県議選出馬の噂さえ出ています。許されることではありません。同じ山梨県民として恥ずかしい限りです」
こう語るのは、山梨県政の関係者だ。福岡県と並び保守王国と称される山梨県で、自民党現職県議の起こした交通事故巡り、県民の間にやり場のないような怒りの声が広がっているという。
キッカケとなった“交通事故”を起こしたのは寺田義彦県議(46)だ。寺田県議は、宮川典子元衆議員の秘書などを経て甲府市議を2期務め、’23年の県議選で無投票初当選を果たした1期生県議である。
報道されている事故の内容はこうだ。寺田県議は今年1月14日未明、甲府市内の県道を走行中に交差点内で前方車両に低速で追突。被害車両の運転手の首に軽傷を負わせた。しかし、警察には通報せずその場から走り去り、被害車両の運転手が車で追いかけて寺田県議と話し合いがもたれたというが、それでも寺田県議は警察に通報しなかったという。最終的に被害車両の同乗者の通報で警察の知るところとなっている。
警察の任意の取り調べで、寺田議員が乗っていた車は3ヵ月も車検が切れており、自賠責保険も切れていたことが発覚。寺田議員本人も「事故後の捜査で指摘され気が付いた。本当に失念していた」と、その事実を認めている。
「法令」を率先して守るべき立場にある県議が、車検切れの車で追突事故を起こし、被害者が通報するまで報告を怠っていたのだ。地元紙の報道で事故が発覚したのは3月下旬。寺田県議は、報道後の3月下旬の定例県議会で事故の事実を認め陳謝したが、それまでは「だんまり」を決め込んでいたのである。
7月10日、山梨県警は自動車運転処罰法違反(過失運転致傷)と道交法違反(事故不申告)容疑で寺田県議を書類送検しているが、起訴を求める「厳重処分」の意見を付けており、このことからも寺田県議の事故の「悪質性」がうかがえるだろう。
議長ポストがたらい回しに
寺田議員の書類送検を受け、宮本秀憲県議会議長(47)は7月10日付で厳重注意の訓告としているが、戒告など県議会として議決が必要な懲罰処分は行っていない。自民党山梨県連の森屋宏会長(69)も、「出処進退は政治家として本人が決めること」という見解を表明。この「懲罰処分もせず、出所進退は事故を起こした本人次第」という対応が、県民感情に火を付けつつあるのだ。
冒頭の告白をした関係者は、「県民の中にも不透明な対応へ憤っている人が少なくない。『もし寺田県議が来年出馬するようなことがあれば自民党員をやめる』という支持者が何人もいます」としたうえで続ける。
「書類送検以前に、当て逃げ・不申告の事実が確認された時点で、民間企業なら懲戒解雇になってもおかしくありません。それが、いまだに辞職勧告決議を求める動きすらありません。情けない話ですが、山梨県議会には『議長ポストのたらい回し』という悪しき慣習が根付いています。その中にどっぷりつかっている県議会の体質が、このような無責任ともいえる対応を生んだのではないか。今回の社会常識のなさを見て、そう思わざるを得ません」
どういうことだろうか。
「山梨県議会では最大会派に所属さえしていれば、いずれは議長ポストが回ってくるという馴れ合い人事が常態化しています。そこには実績は関係ない。あくまでも最大会派に3期、初当選が補選だった場合は4期いれば、自動的に議長ポストが回ってきます。月額77万円の議員報酬が議長報酬の91万円に跳ね上がる。何より議長経験者というキャリアは、議員引退後も“箔付け”として利用価値が大きいのです。
‘24年、当時の議長が就任わずか10ヵ月で議長を辞任したことが話題になりました。理由の『一身上の都合』とは名ばかり。県議の任期は4年ですから、一人1年議長をすると、仮に3期生が5人いれば1人あぶれてしまう。そのために短い期間でポストを譲ったと言われています」
山梨県議会には、福岡の藏内勇夫前議長(72)のような“ドン”はいないという。その代わりに、「何をしなくても議長になれることで、身内贔屓の仲良しクラブになっている」と前出の関係者は非難する。今回事件を起こした寺田県議も最大会派の所属だ。
県議会の内情に精通している別の県政関係者が続ける。
「今の最大会派は長崎幸太郎県知事を支援する県議が主流です。つい最近まで議長だった県議はかつて『反長崎知事派』として有名でしたが、最大会派入りしたことで議長ポストに就いた。政治家としての信条も何もないと言わざるを得ない。『3回当選すれば議長ポスト』という身内の論理にどっぷりつかった県議会の体質が、社会の常識さえ見失わせているのではないでしょうか」
寺田県議は地元メディアの取材に、「事故のお相手に心からお詫び申し上げる。(進退については)司法判断(起訴の有無)を待って説明する」と話している。本誌は改めて「なぜ警察に通報しなかったのか」「車検切れを隠す意図があったのか」「来年の県議選への出馬の意向」について、寺田県議に質問状を送ったところ、次のような回答があった。
「現在刑事手続きが進行中のため、ご照会の点について回答を差し控えさせていただきます」
3ヵ月もの車検切れを知らなかったと主張し、「当て逃げ」を通報しなかった寺田県議に、公職に留まる資格はあるのか--。月額77万円の議員報酬は、今も支払われ続けているのである。問われているのは、自民党山梨県議会の自浄作用でもあるのだ。
