JR東日本で盗撮被害「うちではよくある」と3か月放置…休職の女性社員が816万円の賠償求め提訴
「うちで盗撮はよくある。捕まっているだけ良い方」--。職場のトイレで盗撮被害に遭ったJR東日本(東日本旅客鉄道)の女性社員は、社内カウンセリングで産業医からそう告げられたと訴える。
加害者は、同じ職場の男性社員だった。ところが会社は事件の公表も、加害者側に回った社員の処分も拒み、女性が求めた異動は3か月放置されたという。
女性は18日、JR東日本が職場環境への配慮を怠ったとして、同社に対し、816万9360円の損害賠償を求めて提訴した。同日、代理人弁護士らが都内で会見し、被害の経緯を明らかにした。
訴状によると、発端は2024年8月5日。女性と同じ職場に勤めていた男性社員(訴状で「訴外A」とされる)が、別件の盗撮容疑で逮捕された。翌6日、この男性のスマートフォンから社内で撮影された盗撮データが多数見つかり、警察の捜査が入る。
女性が自らの被害を知ったのは、夏季休暇明けの同月19日だった。同僚から「盗撮の被害者と聞いたよ。大丈夫」「犯人は(同僚の)Aだよ」と伝えられたという。翌20日、警察でデータを確認して自分が写っていることを認識し、被害届を提出した。
被害社員は女性のほかにもう1人いたことも、後の捜査で判明している。加害者の男性社員は同年11月に有罪判決(執行猶予付き)を受け、判決前の同年9月、社内の盗撮行為を理由に懲戒解雇された。
加害者の妻が依頼した“証拠隠滅”女性を追い詰めたのは、盗撮そのものだけではなかった。訴状によれば、勾留中の男性社員は、面会に来た妻(社員)を通じて別の男性社員に「デスクやロッカーにある女性用の靴と使用済み生理用品を移動させてほしい」と依頼。
頼まれた社員は同月9日深夜11時ごろ、勤務時間外に社内へ入って荷物の移動を試みたが、夜勤中の社員に見とがめられて果たせなかった。女性側はこれを「証拠隠滅行為」と位置づける。
女性は8月20日、この経緯を会社に報告した。しかし会社は動かず、同22日、改めて関係者の名前を挙げて報告したと訴状は指摘する。会社が加害者のデスクを確認すると、使用済み生理用品と女性用スニーカーが見つかったとされる。
「かわいいと大変だね」女性側が問題視するのは、被害後の会社の対応だ。訴状では、職場環境配慮義務(労働契約法5条。会社が従業員に安全で働きやすい職場を保つべき義務)の違反として以下の5点を挙げている。
・証拠隠滅に動いた社員を処分しなかったこと・被害者が誰かを不必要に社内へ広めたこと
・心ない発言をした社員を指導しなかったこと
・公表と被害届の提出を拒んだこと
・異動を3か月放置したこと
列挙された社員らの発言は生々しい。
上司は「うちで盗撮はよくあること」と公表を拒み、別の社員は懇親会で「すごいことが起きた、来月には酒のサカナになっている」と語ったとされる。
責任者は「かわいいと大変だね」と述べ、産業医は「うちで盗撮はよくある。捕まっているだけ良い方」と告げたという。
女性を支える立場だった同僚社員も、「泣いて取り乱していたから言っちゃった」として、被害者が誰かを別の社員に漏らしたと訴状は記す。会社が開いた社員向けの説明会では、女性が「伝えないでほしい」と求めていた盗撮の手口までが説明された、とも主張している。
女性割合“2.6%”の職場への異動打診会社側の説明について、女性側は会見で反論した。
代理人や女性を支援するJR東労組によると、証拠隠滅に関与した社員を処分しなかった理由を、会社は「証拠隠滅は未遂で、処分できる行為がない」と説明したという。
また、異動が3か月かなわなかった点については「本人の希望に寄り添って進めていた」と回答したとされるが、JR東労組の田崎聡氏は「3か月の間、本人の希望は全く叶っていなかった」と指摘した。
実際に打診された異動先は、女性社員の割合が2.6%と5.6%の車両センターの事務職で、通勤には往復2~3時間を要したという。「被害時と同じ制服を着ない」「いずれ専門職に戻れる」「女性が多い」という女性の希望条件のいずれにも沿わないものだった、と訴状は主張する。
被害届を出さなかった理由についても、会社は「警察が受理しない見解を示した」と説明したが、女性が警察に確認すると「そのようなことはない」と告げられたという。
請求の内訳は、慰謝料400万円、休職による賃金の目減り分179万1360円、賞与の減額分163万5331円、弁護士費用74万2669円で、これに年3分の遅延損害金を加えた金額となっている。
「逃げ場がなかった」女性は急性ストレス障害などと診断され、2025年1月から休職。今年3月に労災認定を受けた。会見では衝立の向こうから「辞めさせても、休職させても、異動させてももらえず、逃げ場がなかった」と振り返り、「性犯罪の被害に遭っても声を上げられないという企業体質を変えたい」と語った。
なお、JR東日本は弁護士JPニュース編集部の取材に対し、「訴状が届いていないので、現時点でコメントできることはない」と回答した。

