富士山の閉山中の遭難事故が問題となっている(NISH/PIXTA)

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山梨県が、富士山の閉山期間中に登山した人が遭難し防災ヘリコプターで救助された場合に、その費用を有料化する制度を導入する方針であることが報じられた。料金については5分あたり約8000円とする案が検討されており、2027年から運用開始を目指しているという。

閉山期間中に滑落等の遭難事故が相次いで発生している状況を重く見てのことであり、危険を承知で山へ入った末の遭難であれば、費用は本人が負担すべき--。そう考える人も少なくないだろう。 

しかし、そもそも現行の法制度は、登山客が遭難して公的機関による救助活動が行われた場合、その原因を問わず、費用を自己負担させるしくみになっていない。また、今回検討されている制度も、対象は防災ヘリでの救助がなされたケースに限られており、閉山期間中の遭難者の救助活動すべてを対象とするものではない。

無謀な登山客に対し、救助費用を自己負担させる制度を設けることには、法的観点からどのような問題があるのか。

救助費用が原則「無料」のワケ

山で遭難した場合、消防の「山岳救助隊」、警察の「山岳警備隊」のほか、地元の消防団等が捜索・救助活動を担当する。そして、その費用については、基本的に遭難者ないしはその家族に請求されることはない。

その理由について、アウトドアスポーツ全般に造詣が深い荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)は、法治国家の根本原理とされる「法律による行政の原理」があると説明する。

荒川弁護士:「行政の活動は、国民を代表する国会議員によって構成される国会が定める法律によってコントロールされなければならないことになっています。

特に、国民の権利義務を制限するには、法律の根拠が必要です。なお、地方自治体の事務については、その自治体の議会が制定する『条例』も根拠になり得ます。これを『侵害留保原則』といいます。

消防ないしは消防団による救助活動は『消防法』、警察による救助活動は『警察官職務執行法』を根拠として行われます。

遭難した人がどれほど『けしからん人』だったとしても、救助活動を行うことは法律上定められた義務とされています。そして、救助活動の際に担当者の生命・身体の危険があることは、織り込み済みとされています。

したがって、救助活動の対象者に対し、救助にかかった費用を当然に請求できる仕組みにはなっていないのです」

それでもなお、救助活動の費用を対象者ないしはその家族に負担させるには、その旨の特別の規定が必要とされるということである。

無謀な登山者に費用負担させるため、クリアすべき要件は?

とはいえ、無謀な登山者が遭難するようなケースでは、危険な救助活動に従事する救助隊員の生命・身体を無駄に危険にさらすことになる。

そこで、無謀な登山を少しでも抑止するため、たとえば、閉山期間中に危険を承知であえて登山する人に対し、遭難した場合に一定の費用負担を求める制度を設けることが考えられる。今回、山梨県が示した方針も、この考え方によるものといえる。

その場合、どのような点が問題となるのか。

荒川弁護士:「閉山中の登山はそれ自体がきわめて危険であることは明らかであり、遭難した場合には本人の落ち度が著しいといえます。

また、閉山期間中、特に冬季の救助活動は担当者らの生命・身体を無駄に危険にさらすものであり、本来の業務の範囲を超え、過大な負担を与えるものといえます。

したがって、閉山期間中の遭難者に条例で救助費用を負担させるようにすることは、制度設計としてあり得ると考えられます。ましてや今回検討されている案は、災害用救助ヘリが出動した場合に限られており、住民の了解も得られやすいでしょう」

どのような「定め」が必要か

では、そのような制度を設計するにあたり、どのような事項について、どの程度の定めをおかなければならないのか。

荒川弁護士は、最低限、費用負担を求めることができる要件や、金銭を徴収する手続きについても明確かつ詳しく定めなければならないと説明する。

荒川弁護士:「特に、前述したように、遭難した人を救助することが行政の当然の法的義務であることに留意する必要があります。遭難者の悪性が乏しいケースまでひっくるめて本人に救助費用を負担させることには、慎重であるべきです」

参考となる事例として、埼玉県で2018年から施行されている「埼玉県防災航空隊の緊急運航業務に関する条例」を挙げる。

荒川弁護士:「この条例は、県内の一部の山岳地帯について、防災ヘリコプターが出動した場合に、手数料を負担させる旨を定めています。

手数料の額は知事が告示で定めることとしており、現在は飛行時間5分あたり8000円(1時間あたり9万6000円)です。

対象となる区域、手数料の金額のほか、適用が除外される事由、請求額の減免などについても、明確に定められています。また、手数料の徴収の手続きについても別途『埼玉県手数料条例』に定められています。

『けしからんから払わせろ』ではダメで、最低限、費用を請求できる要件や、金銭を徴収するための手続きに至るまで、明確かつ細かく定める必要があるのです」

山梨県の試みは、危険なシーズンに敢えて山行をして遭難した者に対し、費用負担という形で一定程度の「自己責任」を求めるものといえる。

当面は災害救助ヘリによる救助が行われた場合を念頭におかれると考えられるが、それ以外でも、遭難の原因が本人にあるケースは想定される。

今回の動きが、他の自治体ないしは国でのこれまでのルールのあり方にどのような影響を及ぼすことになるのか、注目される。