【矢作 芳人】「大統領まで様々なルートを探った」フォーエバーヤング米国遠征の舞台裏…矢作芳人が「日本馬だけ不利なルール」を変えるために動いた理由
ブリーダーズカップを目前に新たな挑戦
9月18日、フォーエバーヤングが米国のGIレース、ジョッキークラブゴールドカップ(ベルモントパーク競馬場・ダート2000m)に出走する。連覇のかかったブリーダーズカップクラシックの前哨戦である。調整だけを考えたら、昨年同様、国内のレースを使って、ブリーダーズカップに挑むほうが楽なことは間違いない。しかし、これまで常に挑戦してきた厩舎として、米国の前哨戦を使ってブリーダーズカップに向かう新たなチャレンジを選択した。
ジョッキークラブゴールドカップには、昨年、米国の年度代表馬の座をフォーエバーヤングと争ったソヴリンティも出走を表明している。昨年、ケンタッキーダービーとベルモントSの2冠を達成。ブリーダーズカップクラシックへの参戦も予定していたが、直前に出走回避し、フォーエバーヤングとの直接対決は実現しなかった。
その後、ソヴリンティは米国、フォーエバーヤングは日本の年度代表馬に選ばれたが、今回はその2頭が初めて直接対決する。しかも、新装したベルモントパーク競馬場(ニューヨーク州)のこけら落としとして行われるレースとあって、世界中の競馬ファンが注目している。本番はブリーダーズカップなので100%の状態でレースに臨むことはないが、それはソヴリンティも同じ。ソヴリンティを管理するW・モット調教師とは親交があり、お互いに楽しみにしている。
カギは6週間の調整をどう行うか
もしジョッキークラブゴールドカップとブリーダーズカップクラシックを連勝できれば、今年こそ米国の年度代表馬に選ばれる可能性がある。その肝となるのは、ジョッキークラブゴールドカップからブリーダーズカップまでの6週間の調整だ。フォーエバーヤングは2年続けてサウジカップで勝ち、ドバイワールドカップで敗れた。
その敗因の一つとして、「馬が飽きて競馬の気分になっていない」ということがあったと考えている。サウジカップからドバイワールドカップまでのレース間隔も6週間だが、サウジではレースが終わるとすぐに競馬場から出て行かなくてはいけない。下手をするとレースの翌日、遅くとも2日後にはドバイに輸送される。すると、6週間メイダン競馬場のダートコースだけで調教しなくてはいけない。これがきつかった。
そこで今回は10月20日までベルモントパーク競馬場に滞在して調教を行い、レースの11日前にブリーダーズカップが行われるキーンランド競馬場に移動することに決めた。場所を移すことで馬にレースが近づいていることを教える作戦だ。
じつをいうと別のプランもあった。事前に調べて視察も行い、マサチューセッツ州に最高の施設があることを確認していた。そこで調整してキーンランド競馬場に移動するのが最善策と考えていたのだ。しかし、それには大きな障壁があった。検疫の問題である。
日本馬だけ不利な移動ルールを変えるため…
馬伝染性子宮炎(CEM)という病気がある。不受胎の原因となるウマ特有の性感染症で、届出伝染病に指定されている。このCEMの関係で、日本の馬は米国内では必ず開催競馬場の検疫厩舎に滞在しなくてはいけないルールになっているのだ。欧州の馬は事前に3回の検査を受けると、米国内を自由に移動することができる。ところが、日本の馬に関しては、そういう制度もない。
JRAは9月から海外の馬券発売対象レースを従来の32競走から116競走に拡大した。今後、日本馬が海外のレースに参戦するたびに日本でも馬券が売られることになる。にもかかわらず、日本馬だけ米国内での移動を制限される状況が続くのはいかがなものだろう。
そこで今回、僕は動いた。このルールを変えるため、米国の実力者から大統領まで様々なルートを探り地道なロビー活動を続けてきた。外務省、農水省、日本大使館にもお力添えをいただいた。フォーエバーヤングという切り札を持っているときに変えない限り、このルールは変わらないと思ったからだ。
残念ながら、今すぐのルール変更は難しい状況だ。でも、今後のために一石を投じることはできた、と自負している。
矢作芳人(やはぎ・よしと)/調教師。'61年東京都生まれ、開成高校卒。'05年に厩舎を開業し、無敗の三冠馬コントレイルや年度代表馬のフォーエバーヤングなど名馬を多数輩出。海外遠征で多くの実績を残していることから「世界のYAHAGI」と呼ばれる
「週刊現代」2026年9月28日号より
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