「アイドルに向いていなかった」バズる振付師・槙田紗子がぱすぽ☆時代に気づいた自分の本当の才能、叶えられなかった夢を違う形で叶えるセカンドキャリア
FRUITS ZIPPERの「わたしの一番かわいいところ」をはじめ、TikTokを中心にバズる楽曲の振り付けを多数手がける槙田紗子。今や人気振付師として活躍する彼女だが、そのキャリアの出発点はアイドルグループだった。自らの「アイドルとしての限界」と向き合った日々、そして「裏方」としての喜びに目覚めた瞬間。振付師としてアイドルたちに馳せる思いやりとは。(前後編の後編)
【画像】「え!? あの曲もやってるの?」元アイドルで振付師の槙田紗子が1年で手がけた楽曲
槙田紗子が振り付けに込める想い「ダンスを嫌いにならないでほしい」
FRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」、CUTIE STREET「かわいいだけじゃだめですか?」、M!LK「好きすぎて滅!」…。
TikTokを中心にバズる楽曲の振り付けを多数手がける槙田紗子は、もともと10人組女性アイドルグループ「ぱすぽ☆」のメンバーとして、芸能界でのキャリアをスタートした。アイドル時代の経験が、槙田さんが考える振り付け、そして活動そのものに大きな影響を与えている。
「アイドル時代に、セルフプロデュースをする時期があったんです。衣装デザインをするメンバー、歌詞を書くメンバーと、それぞれが得意なことをやることになったんですが、私は小さい時からダンスを習っていたので、“じゃあ、サコは振り付けや演出の方でなにかやってみたら”みたいな感じで。
実際に、演出をやってみたらめちゃくちゃ楽しかったんですよ。自分がパフォーマンスするよりも、自分が考えたことをメンバーがやってくれているのを見てすごく興奮しちゃったというか(笑)。
そのときに、“あ、(私は)こっちだったんだ”って気が付いたんです。本気でアイドルをやっていたし、アイドルで本当に売れたかったんですけど、“ちょっと向いてないかも”と薄々気づいていたんです。
華があったり、瞬発力がすごかったりと、アイドルとしての才能がある子がたくさんいて、その子たちを目の当たりにしてたから。でも、それに目をつぶっていた自分がいたというか。
幼い頃から、韓国の少女時代さんがすごく好きだったのですが、仲宗根梨乃さんが少女時代さんの振り付けをずっとやっていて、さらにライブの演出もされていたんです。
そんな仲宗根さんを見て、“振付師になって、グループから信頼を得たら演出もやらせてくれるんだ”みたいに単純に考えて、じゃあ振付師になろうと思ったのがきっかけです」
アイドルとしてステージ上で歌と踊りに取り組んでいた槙田だからこそ、今、振り付けを考える際にはアイドルの気持ちを大事にしているという。
「まず“ダンスを嫌いにならないでほしい”という思いはすごく強いです。歌と比べると、ダンスは苦手意識を持つ子が多いんです。
みんな、やりたくてアイドルをしてるし、やっていて楽しいとは思うんですけど、どうしても気持ちがすり減ることがあると思います。忙しくて時間がない中で、“なんでこんな難しいの…”みたいなダンスが来たら、もうめっちゃ心折れる気がして。
その難しさに意図があればいいんです。“作品の意図としてこういうことをやります”とわかったらみんな頑張ると思うんですけど、他にも選択肢あったよねといったダンスだと、1歩間違えるとダンス自体を嫌いになっちゃう可能性もあると思って。
なので、“サコの振りは楽しい”だとか、“覚えやすくて、練習が苦じゃない”みたいな感じで言ってもらえたらなっていう気持ちがあります」
アイドルの頃の夢が「別の形で叶っている」
近年、槙田が手掛けるジャンルは広がっている。2024年放送のドラマ『素晴らしき哉、先生!』(ABCテレビ・テレビ朝日系)ではオープニング・タイトルバックの振付、Netflixにて配信されたアニメーション映画「超かぐや姫!」では劇中歌「私は、わたしの事が好き。」のダンスを担当。また、数多くのCMの振り付けやポージングにも携わっている。
「振り付けをすることで、昔の自分を救ってるみたいな感覚もあって。例えば、アイドルとして単独公演で武道館に立ちたかったけど立てなかった。でも武道館の演出をやらせていただいたり、学園ドラマに出てみたかったけど、学園ドラマのオープニングに振り付けをさせていただいたり…。あの頃の夢が、別の形で叶っているって思うことが多いんです。
お仕事を依頼してくれるクライアントに対しても、握手会みたいな気持ちで、“この人たちを喜ばせたい”“求められることに忠実にやりたい”と思います」
順調に振付師としてのキャリアを重ねる槙田だが、「流行りは変わっていくもの」と冷静に現状を分析する。今後の歩み方をどのように考えているのだろうか。
「まずは、振付師として長く続けていくためにも、流行りは変わってくので順応していかなきゃなと思いますね。今はたまたま縦動画の時代で、みんなが真似するっていうこと=売れるとなっているので、自分もそれに合わせてものづくりをしているんですけど、こういう時代が終わってもちゃんと振付師として機能していきたいです。
演出やトータルプロデュースといったところは求めていただけるならやりたいですが、振り付け以外というよりも、海外のアーティストなど別のジャンルでも振り付けをしたいという気持ちが大きいです。
特にミュージカルなどの舞台に挑戦したくて。舞台は、何か月と長い時間をかけて作り上げていくじゃないですか。なので、いくらでもブラッシュアップができる。
楽曲の振り付けって、意見をすり合わせて良くしていくっていう作業ができないんですよ。1日か2日で振り入れをしたら、その後は基本的には修正ができないことがほとんどで。
長い時間をかけて作り上げる場所なら、それこそ、一人一人の個性をピックアップすることもできるかもしれないですよね。そんな風に、自分は振付師として独立した存在でありながらも、いろんなセクションの人と関わって、1つのものを作り上げていくことをやりたいなと思っています」
「なくても生きていけるんですけど、あったら嬉しいもの」
情熱を持って、振付師という道を邁進する槙田。最後に、槙田にとって振り付けとは何かを聞いた。
「私にとってというよりは、世間の皆さんにとって、日常が明るくなるものだと思っています。例えば“このダンスをしてるアイドルを見て、推しになりました”と伝えてくれる方がいたり、“保育園で毎日子どもが踊ってます”と親御さんに言われたり。
ダンスって、日常で必ず必要なものではないと思うんです。なくても生きていけるんですけど、あったら嬉しいもの。私はそれを提供したいという気持ちがあって。
自分が音楽を解釈して、最適と思える振り付けをつけることによって、みなさんの日常が楽しくなったり、推しと出会って人生が変わったりというきっかけになればいいなと思っています」
アイドルとしての葛藤や挫折を経て、自らの「天職」を見出した槙田紗子。彼女が創り出すキャッチーで愛される振り付けの根底には、踊り手であるアイドルへの「ダンスを嫌いにならないでほしい」という深い思いやりと、それを受け取る人々の「日常を少しでも明るく、楽しくしたい」という温かい祈りが込められている。
かつて夢見たステージとは異なる形であっても、槙田は人を喜ばせることを諦めない。彼女のセカンドキャリアという名の「一番かわいい挑戦」は、まだ始まったばかりだ。
取材・文/羽田健治
(撮影/山田智絵)
