自民党関係者「沖縄知事選、圧勝する空気」も…玉城デニー「2期8年の実績」vs古謝玄太「県民所得倍増」、どちらがマシなのか?
「沖縄の雰囲気は非常にいい。古謝玄太氏が圧勝する空気になりつつある」9月13日に投開票を迎える沖縄県知事選。自民党関係者がそう自信をのぞかせるように、情勢調査では新人の古謝玄太氏が現職の玉城デニー氏を先行するとの報道も出ている。玉城氏の2期8年で、沖縄県民の暮らしは本当に豊かになったのか。一方、「手取り2倍」「観光消費2倍」を掲げる古謝氏の経済政策にも、“補助金頼み”への懸念がつきまとう。基地問題だけでは見えてこない、沖縄県知事選の「もう一つの争点」を考える。
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自民に広がる「圧勝」の空気
沖縄県知事選の空気が大きく変わった。
先日、沖縄入りしたという自民党関係者は、かなり強い調子でこう語った。
「沖縄の雰囲気は非常にいい。古謝玄太氏が優勢で、圧勝する空気になりつつある」
「玉城デニー知事が就任してから何もしてこなかったことが、県民に少しずつばれてきた。最近の発信も陰謀論と相手の悪口ばかりだ」
今月上旬のQAB・沖縄タイムス・朝日新聞の合同調査では古謝氏が先行し、共同通信は横一線と伝えた。前者では約4割が投票態度を明らかにしていない。
「圧勝」を裏付ける数字はまだない。県民全体の評価とは分けて受け止める必要があるが、関係者の言葉から伝わるのは、自民党側の強い自信だ。
自民、公明が推した候補は2022年の県内7市長選をすべて制した。2024年の県議選では自民党公認の20人が全員当選し、玉城知事を支える県政与党は過半数を失った。
2026年2月の衆院選でも、自民党は県内4小選挙区すべてで勝利した。そして次に狙うのが知事の座である。
問われる玉城県政の「結果」と選挙戦の失点
2022年は市長選で連勝しながら、知事選では玉城氏に敗れた。私はこの違いに、基地問題が生む「国対沖縄」という構図の強さを見る。今回、もし古謝氏が勝てば、自民党にとって高かったその壁を破る選挙になる。
そんな中、私が玉城氏に問いたいのは、2期の県政で、どれだけ県民を豊かにし、全国との差をどれだけ縮めたのかである。
2023年度の1人当たり県民所得は231.5万円で、前年度の220.3万円から増えた。一方、1人当たり国民所得を100とした所得水準は65.7で、2021年度の70.7、2022年度の67.2から低下している。
つまり、沖縄の県民所得そのものは増えたものの、全国の伸びには追いつかず、相対的な所得格差はむしろ広がった。
同じ時期、日本全体でもコロナ後の経済活動や観光が回復している。沖縄の所得増にはそうした全国的な追い風も影響しているため、県民所得が増えたことだけをもって県政の成果と評価することはできない。
全国的な追い風もある中で、なぜこの差が残ったのか。県内で働く若者の所得をどう上げるのか。玉城氏には、施策の名前を並べるのでなく、結果で答えてほしい。
選挙運動にも看過できない問題が出た。
9月1日、玉城氏の公式Xアカウントに、自民党本部と立候補を取りやめた下地幹郎氏が「裏取引をした」とする投稿が掲載された。報道によると根拠は示されず、投稿は削除された。
玉城氏は担当者の「手違い」と説明して謝罪した。本人が書いたと決めつけるつもりはないが、公式アカウントから根拠が示されていない疑惑を流した責任は残る。県政の実績を問われる選挙で、こんな失点を重ねてどうするのか。
「辺野古容認」だけでは買えない行政能力
安全保障では、基地負担の軽減と周辺情勢への対応を同時に考えなければならない。
古謝氏は辺野古移設を容認し、国と連携して普天間飛行場の危険を取り除く立場を取る。しかし、辺野古容認という立場だけで、古謝氏の行政能力まで高く買う気にはなれない。
経済政策を読めば、別の不安が湧いてくる。「手取り2倍」「子育て支援2倍」「観光消費2倍」。
古謝氏は1人当たり県民所得を231.5万円から500万円へ、県こども未来部の予算を552億円から1000億円へ、観光収入を1兆747億円から2兆円へ増やす目標を掲げた。政策集には120項目が並ぶ。
「県民所得」の数字が語らないもの
県民所得は、県民雇用者報酬、利子や配当などの財産所得、企業所得などからなる。県も個人の給与や実収入を表す数字ではないと説明している。だから、この数字が増えても、各家庭の手取りが同じ割合で増えるとは限らない。
231.5万円を仮に10年で500万円にするなら、名目で年平均約8%の伸びが必要だ。物価上昇で数字だけ膨らむ分も区別しなければ、暮らしが豊かになったかどうかは分からない。
観光や建設が県内の主要な雇用部門であることは承知している。気になるのは、県外のホテル運営会社や予約サイトも使う観光の仕組みの中で、県内企業の利益や従業員の賃金をどう増やすのかだ。
客数や工事額だけを追っても、この問いには答えられない。地元への発注額や働く人の所得まで追う必要がある。
古謝氏の政策集にはAI、量子技術、海洋産業、起業支援もあり、民間投資や観光の質の向上、教育、規制改革にも触れている。私の問題意識と重なる項目もある。問題は、個々の政策の費用と所得への効果を結び付けた試算は、公開された政策集では確認できないことだ。
古謝氏を応援する自民党の小林鷹之政調会長の産業政策に、私は反対する。
小林氏は2025年12月の党のインタビューで、民間企業が自発的にイノベーションや投資に取り組む形を理想としつつ、半導体などについては民間に任せすぎたと主張し、「投資額を超える税収が見込まれるような戦略的な財政出動」を求めた。私は、これは政府が重点産業を選び、公的資金で成長を後押しする発想だと考える。
税金を足し続ける負担に終わりはない
政府のAI・半導体支援は、2030年度までの7年間で10兆円以上という計画だ。小林氏は南鳥島沖のレアアース開発にも、Xで「大胆な投資」を求めた。
海外に頼るものがあるたびに、工場にも原料にも税金を足していけば、国民の負担には終わりがない。国産化のために、費用を度外視してよい理由はない。経済安全保障という名で、産業育成への巨額支出を正当化することに反対する。
私が問題にするのは、政府が選んだ企業には税金を付け、他の企業には自力で競わせる仕組みだ。競争条件が役所の判断で変わり、判断が外れた損失は納税者にも及ぶ。
企業の将来を役所が見通せるという前提にも、私は立たない。顧客に売る力より国の予算を取る力がものをいう経済にしたくない。
中国の産業政策を調べた研究は、支援先の拡大が国全体の稼ぐ力を高めるとは限らないことを示している。
IMF(国際通貨基金)が公表したワーキングペーパーで、ガルシア=マシアらは、補助金や税の優遇など、中国の支援を金額に換算すると、2011~2023年の年平均でGDP(経済の大きさ)の約4%に上るとした。
さらに、支援によって資本や労働の配分がゆがむことで、中国経済全体の総要素生産性(TFP)が、産業政策がない場合に比べ約1.2%低下すると推計した。
もちろん、中国を対象にした研究結果をそのまま日本や沖縄に当てはめることはできない。それでも、公的支援が必ず国全体の生産性を高めるわけではないという警告は重い。
支援先を育てれば強い経済になるという、小林氏の論理の飛躍には賛成できない。政府が選んだ産業へ税金を注ぐ成長論を、沖縄に持ち込むのはやめてもらいたい。
税金を注ぐ成長論を沖縄に持ち込むな
沖縄にはシンガポールから学んでほしい。あの国も企業に補助金を出しているが、私が取り入れたいのは、働く人の力を育て、海外の会社も仕事を始めやすくする取り組みだ。
学校では語学や数学を学ぶ機会を広げ、家庭にお金がないために、進学や仕事のための勉強を諦めずに済むようにする。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究を、県内企業の商品や仕事につなげる人も育てたい。
国の規制が妨げなら、地域を限って規制を緩める特区制度を使い、見直しを求める。働く人や事業を始める人の困りごとから予算を組むべきだ。
観光では、地元の食材や商品をホテルが買いやすいよう、品質をそろえ、必要な量を届けられる仕組みを整える。客のお金のうち、いくらが地元企業の利益や従業員の給料になり、いくらが県外への支払いに回ったか。
知事を代えるだけでは足りない
観光収入2兆円を目指すなら、県民の暮らしがどれだけよくなるかまで示すべきだ。
私は両陣営を手放しで褒める気にはなれない。補助金で企業を呼び、工場や観光施設を増やす産業振興に、沖縄を豊かにする答えはないと考える。誘致先の売上増を、県民の豊かさと取り違えてはならない。
古謝氏が勝っても、小林氏の国主導の産業育成論に乗れば、沖縄はまた国の予算を当てにする従来型の経済になる。県民が技能を身に付け、自分で稼げる条件を整えるべきだ。知事を代えるだけでは改革は完結しない。経済政策まで変えて、初めて沖縄は変わる。
知事を選ぶ一票は、基地をめぐる「国対沖縄」の構図だけで測れるものではない。誰が知事に就くにせよ、県民が自ら稼ぐ力を身に付け、補助金に頼らずとも立てる経済をどう描くか――。その設計図を候補が示せるかどうかこそ、有権者が見極めるべき一点だろう。看板政策の華やかさではなく、暮らしを変える中身を問いたい。
文/小倉健一
