「自衛隊員」が少女に銃を発砲した--。衝撃的なはじまりをみせる社会派スリラー小説が、現代社会の「裏側」に迫る

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1955年に創設されて以来、東野圭吾さん『放課後』や、野宮有さん『殺し屋の営業術』など、数多くの名作を世に送り出してきた「江戸川乱歩賞」。

今年の受賞作は箕輪尊文さん『弾丸とヒマワリ』。元自衛隊員が二つの事件の「謎」に迫っていくノンストップ・サスペンスです。

発売して間もない期待の注目作を、はたして識者はどう読み解いたのか。

今回は瀧井朝世さんによる書評を紹介します。

箕輪尊文(みのわ・たかふみ)

1993年東京都生まれ。東京工業大学工学院経営系工学コース修士課程修了。第65回、第67回江戸川乱歩賞最終候補。2026年、第72回江戸川乱歩賞を受賞。

自衛隊員が少女に銃を発砲する、衝撃の序章

第七十二回江戸川乱歩賞受賞作である箕輪尊文の『弾丸とヒマワリ』(応募時のタイトルは「天使の負託 エンジェル・バレット」)は、衝撃的な序章で幕を開ける。

アフリカらしき茶色い大地での行軍中、土煙のなかから現れた少女に自動小銃を向けられた自衛隊員が反射的に銃を発砲し、少女を撃ち抜く--。

これは自衛隊が舞台のミステリなのかと思わせるが、本篇の舞台は日本である。自衛隊だけでなく、現代社会の表も裏も掬いあげて描かれ、もしカテゴライズされるなら、社会派ミステリもしくは、社会派スリラーといえるだろう。

東京の永福町にあるマンションの玄関先で、福田紬という女子高校生が射殺された。遺体の手には、状況にそぐわないものが握られていた。それは、国連平和維持活動に参加した自衛隊員に授与されるメダル。しかも刻印から、そのメダルはアフリカはサブサハラに位置する東キアノス共和国のPKO活動に従事した者のみに授与されるという限定的なもの、ということも判明する。

女子高校生が殺される直前、彼女の部屋にピザを届けた配達員の本庄絵梨香は、警察から聴取を受ける。本庄は、遺体が手にしていたメダルの写真を見せられて動揺。聴取を終えた彼女は、さっそく行動を開始する。

一方、クリーニング店で働きながら裏でドラッグの密売をしている野島武は、地下アイドルをしていたという少女、南川杏子から「エンジェル・バレット」を売ってほしいと持ち掛けられる。効き目は抜群だが死に至る可能性もあるそのドラッグを使って、人を殺したいと彼女はいう。だが、野島は彼女の噓を見抜くのだった。

本庄と野島には繋がりがある。彼らはかつて陸上自衛隊に所属し、東キアノス共和国にPKOとして同時期に派遣されていた。共和国内では政府軍とゲリラ軍の内紛が続いていたが、もちろん任務内容は戦闘に関わるわけでない。が、ある時彼らはゲリラに襲われた村に行き当たり、野島は自分に銃口を向けてきた少女に咄嗟に発砲、少女は眉間を撃ち抜かれて絶命した。

彼らがありのままの事実を報告した隊長は、隠蔽を指示。公式の書類上では、野島は「警告射撃」として実弾を一発撃った、ということにとどまっている。だが、帰国後もこの事件がトラウマとなり心身に影響が出たため、野島も本庄も結局はそれぞれ異なる時期に自衛隊を辞め、今の仕事に就いたのだった。以後、彼らは連絡を取り合ってはいない。

あらゆる人間にある、過ちを犯してしまう可能性

物語は本庄と野島、女子高校生射殺事件を追う刑事の藤岡の視点を交えながら進んでいく。東キアノスでの事件、永福町の事件、南川という少女の謎などと、まったくバラバラの謎が絡まり合うが、テンポよく状況を進行させる著者の筆さばきが冴えている。東キアノスという国の実情や、PKOの活動の様子なども緻密に作り込まれている印象。野島が仕事先にクリーニング店を選んだのも、自衛官時代にアイロンがけについて徹底的に教え込まれたからというのが、身だしなみにも厳しい自衛隊の内実が見えて面白い。

他にも著者自身が自衛官出身なのかと思うくらい描写がリアルなのだが、プロフィールを見る限り、その経験はなさそうだ(著者は一九九三年生まれ、東京工業大学大学院修了で、現在会社員だという)。

複雑な謎を追ううちに浮かび上がってくるのは、誰もが過ちを犯し、後戻りできなくなる可能性がある、という粛然とした事実だ。野島は人を殺そうと思っていたわけではない。彼は罪の意識から心身に不調をきたし、ドラッグに手を出して自らも売人となった。本庄も、組織の隠蔽に加担するつもりだったわけではない。事件後彼女は広場恐怖症となり、閉じられた場所に長時間滞在することができなくなったため、バイクでの移動が主な業務であるピザ配達員となった。

細部がリアルに描かれるからこそ、自分だったらどうするだろう、と考える。もしも、少年兵(と思われる存在)が自分に銃口を向けてきたら? もしも大きな組織のなかで隠蔽を強いられたら? もしも、PTSDに苦しむこととなったら? 自分はどうやって生きていく道を選ぶだろうか、あるいは、生きていけるのだろうか。彼らの抱える葛藤が、読み手の心にものしかかってくる。

自分を救えなくても、誰かを救うことはできる

また、PKO部隊を題材にしているだけに、誰かの役に立とうとすること、誰かを守るとはどういうことかという問いを感じずにはいられないものも、本書の力である。誰だって、そこまで正義感が強くなくても、そこまで目的意識を持っていなくても、間違った行いをしたくないと思い、困っている人を助けたくなるのは、人間の自然な心(だと思いたい)ではないのか。なのに、物事はそんなにすんなり簡単に運んではくれない。

野島が出会う南川杏子も、ある出来事がきっかけに人生に絶望している。しつこくエンジェル・バレットを所望してくるこの少女を野島が邪険にしないのは、自分がかつて発砲してしまった少女と彼女が重なり、贖罪の気持ちが働いているからなのかもしれない。クリーニング店での二人のやりとりだけは、この物語のなかでちょっぴり微笑ましい思いで読める。だが、ここにこそ、「人生は再生できる」「人は誰かを助けることができる」という、大切なメッセージがこめられている、と思えないだろうか。

これは、思わぬことから陥ってしまった闇のなかで、光を探そうとあがく人間、あるいは誰かを光の方向へ導こうとする人間たちの物語でもあるのだ。道を踏み外した人間でも、立ち直ることはできる。もしもどうしても自分を救うことはできなくても、誰かを救うことはできる。そう信じさせてくれる。

すでに書き慣れている「水準」の高さ

はるかアフリカの大事のPKO部隊の活動から、自衛隊組織、ドラッグの密売、さらには芸能界の闇まで話を広げ、次第に膨らんで繋がっていく謎と、さらには不意打ちの仕掛けまで用意してくる本書。謎の積み重ね方、その種明かしのタイミングなど、非常に考え抜かれては構築されており、さらには場面場面の的確な描写、人物や事案の丁寧な造形、シンプルで分かりやすい文章、話運びのスピード感など美点が多々あり、すでに小説を書きなれている印象。

確認したところ著者は過去にも二度、江戸川乱歩賞の最終候補となっており、すでに一定水準の実力は身に着けているといえるだろう。あとは書き続けて、さらなる飛躍をしていくのみ。楽しみにしている。

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箕輪尊文『弾丸とヒマワリ』

女子高生が自宅で銃殺され、その手には国連平和維持活動(PKO)に参加した自衛隊員に授与された名誉のメダルが握られていた。自衛隊を退官し、ピザ屋の配達員として働く本庄恵梨香は重要参考人として警察にマークされる。一方、恵梨香と同じ戦地でのトラウマから退官し、クスリに手を出し売人にまで落ちぶれた野島武のもとへ、ある日「人を殺せるクスリを用意できないか」と元地下アイドルだという南川杏子が訪ねてきたーー。

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