「橋本病」で処方される「チラーヂン」を飲み始める目安はご存知ですか?【医師監修】

橋本病は、免疫の異常によって甲状腺に慢性的な炎症が起こる自己免疫疾患です。甲状腺機能が正常な場合は治療を必要としませんが、甲状腺ホルモンが不足すると、倦怠感や寒がり、むくみ、便秘、体重増加などの症状が現れることがあります。

甲状腺機能低下症に対して処方される代表的な薬が、甲状腺ホルモン製剤のチラーヂンSです。

本記事は、橋本病とチラーヂンSの関係、薬の働きや服用方法、飲み合わせの注意点、服用中に受ける検査について解説します。

監修医師:
林 良典(医師)

【出身大学】
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医・指導医、日本緩和医療学会認定登録医、禁煙サポーター

橋本病とチラーヂンSによる治療

橋本病とはどのような病気か教えてください

橋本病は、免疫の異常によって甲状腺に慢性的な炎症が起こる自己免疫疾患です。慢性甲状腺炎とも呼ばれ、甲状腺機能低下症の主な原因の一つです。

診断では、甲状腺の腫れや超音波検査の所見に加え、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)や抗サイログロブリン抗体(TgAb)などを確認します。ただし、橋本病と診断されても、すぐに甲状腺機能が低下するとは限りません。

甲状腺機能が低下すると、疲れやすい、寒がりになる、体重が増える、便秘、むくみ、動作が遅くなる、記憶力が低下するなどの症状が現れることがあります。

橋本病になると必ずチラーヂンSが必要になりますか?

橋本病と診断されたすべての方に、チラーヂンSが必要になるわけではありません。甲状腺ホルモンの値が正常で、甲状腺機能低下症を認めない場合は、薬を使用せずに定期的な血液検査で経過を観察することがあります。

チラーヂンSによる治療が必要になるのは、主に橋本病によって甲状腺ホルモンが不足している場合です。

一時的に甲状腺機能が低下するケースもあるため、1回の検査結果だけで判断せず、TSHやFT4の推移、症状、年齢、妊娠の有無などを踏まえて治療方針を決めます。

チラーヂンSにはどのような働きがありますか?

チラーヂンSは、レボチロキシンナトリウム水和物を有効成分とする甲状腺ホルモン製剤です。

体内で不足している甲状腺ホルモンの一種であるT4を補い、甲状腺機能を正常な状態に近づける働きがあります。甲状腺機能低下症による倦怠感、寒がり、むくみ、便秘などの改善が期待できます。

服用量は、血液検査でTSHやFT4を確認しながら調整します。必要量には個人差があり、年齢や体重、心臓病などの持病も考慮されるため、自己判断による増量・減量や中止は避けましょう。

チラーヂンSを飲み始める目安を教えてください

チラーヂンSを開始するかどうかは、主にTSHとFT4の検査結果、症状、年齢、基礎疾患などから判断します。

FT4が低く、TSHが高い顕性甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモン補充療法が必要になることが一般的です。

FT4は正常でもTSHだけが高い潜在性甲状腺機能低下症では、ただちに治療を始めるとは限りません。TSHが10μU/mL以上の場合は甲状腺ホルモン補充を検討し、10μU/mL未満の場合は年齢や基礎疾患などを含めて総合的に判断するとされています。

参照:
『医療用医薬品情報 医療関係者向け』(PMDA)
『橋本病(慢性甲状腺炎)』(日本内分泌学会)

橋本病|チラーヂンSの正しい飲み方と飲み合わせ

チラーヂンSはどのように服用しますか?

チラーヂンSは、通常1日1回、医師から指示された量を服用します。成人の投与量は年齢や症状、血液検査の結果などによって調整されるため、自己判断で量を増減したり、服用を中止したりしないことが大切です。

甲状腺機能低下症の治療は、少量から開始し、TSHやFT4などの値を確認しながら徐々に増量する場合があります。服用する時間帯や食事との間隔について指示がある場合は、毎日できるだけ同じ条件で服用しましょう。

チラーヂンSを飲み忘れたときはどうすればよいですか?

飲み忘れに気付いた時点で、1回分を服用します。ただし、次に服用する時間が近い場合は、忘れた分を飛ばし、次の服用時間に通常の1回分を服用してください。

一度に2回分を服用してはいけません。飲み忘れが続いた場合や、誤って多く服用した場合は、医師または薬剤師に相談しましょう。

チラーヂンSと飲み合わせに注意が必要な薬や食品はありますか?

チラーヂンSには、作用を強めたり、吸収を妨げたりする薬があります。

特に、鉄剤、炭酸カルシウム、アルミニウムを含む制酸剤、一部の高リン血症治療薬や高コレステロール血症治療薬などは、チラーヂンSの吸収を低下させる可能性があります。併用する場合は、服用時間をできる限りあける必要があります。

このほか、ワルファリンなどの抗凝固薬、インスリンや血糖降下薬、ジゴキシン、アミオダロン、経口エストロゲン製剤、抗てんかん薬なども注意が必要です。市販薬やサプリメントに鉄・カルシウム・アルミニウムが含まれている場合もあるため、使用前に医師または薬剤師へ伝えてください。

特定の食品が一律に禁止されているわけではありませんが、食事やサプリメントによって吸収に影響が出る可能性があります。服用方法を自己判断で変更せず、処方時の指示に従いましょう。

参照:『医療用医薬品情報 医療関係者向け』(PMDA)

橋本病とチラーヂンSに関するよくある質問

チラーヂンSは一生飲み続ける必要がありますか?

必ずしもすべての方が一生飲み続けるわけではありません。服用期間は、甲状腺機能低下症の原因や経過によって異なります。

橋本病によって甲状腺ホルモンを十分に作れない状態が続いている場合は、長期的または生涯にわたって服用することがあります。一方、出産後の甲状腺炎やヨウ素・薬剤などの影響による一過性の甲状腺機能低下症は、甲状腺機能が回復し、服用を中止できる場合があります。

潜在性甲状腺機能低下症に対して試験的に服用している場合も、症状や検査値の変化を確認したうえで中止を検討することがあります。服用をやめられるかどうかは血液検査による評価が必要なため、自己判断で減量・中止してはいけません。

チラーヂンSの服用中に受ける検査について教えてください

チラーヂンSの服用中は、主に血液検査でTSHとFT4を測定します。TSHは甲状腺ホルモンが不足または過剰になっていないかを判断する指標で、FT4は血液中の甲状腺ホルモン量を示します。必要に応じてFT3も確認します。

治療開始後や服用量を変更した後は、薬の効果が検査値に反映されるまで時間がかかるため、一定期間を空けて再検査します。成人は、TSHが安定するまで約3ヶ月ごとに検査し、安定後は年1回程度確認する方法が一つの目安です。症状が続く場合は、TSHに加えてFT4を測定することがあります。

動悸、手の震え、発汗、体重減少などが現れた場合は服用量が多い可能性があり、反対に倦怠感、寒がり、便秘、むくみなどが続く場合は量が不足している可能性があります。症状がある場合は、次回の定期検査を待たずに医師へ相談しましょう。

妊娠中は必要な服用量が変わることがあるため、通常より短い間隔で甲状腺機能を確認します。妊娠がわかった場合や妊娠を希望する場合は、早めに主治医へ伝えてください。

参照:『医療用医薬品情報 医療関係者向け』(PMDA)

編集部まとめ

橋本病と診断されても、甲状腺機能が正常に保たれていれば、必ずしもチラーヂンSを服用する必要はありません。甲状腺ホルモンが不足している場合は、TSHやFT4などの検査結果、症状、年齢、妊娠の有無などをもとに治療を検討します。

チラーヂンSは、不足した甲状腺ホルモンを補うための薬です。必要な服用量や治療期間には個人差があり、長期にわたる服用が必要な場合もあれば、甲状腺機能の回復後に中止できる場合もあります。自己判断で増減や中止をせず、定期的な血液検査を受けながら、医師の指示どおりに服用しましょう。

参考文献

『医療用医薬品情報 医療関係者向け』(PMDA)

『橋本病(慢性甲状腺炎)』(日本内分泌学会)