「隣り合った複数の土地」は「一体の土地」として評価できるか?相続人が主張する“特別の事情”を審判所が退けたワケ【税理士が事例解説】
通常の相続税評価の場面では、たとえ土地自体が隣り合っていても、それぞれの使用用途が異なる場合、評価単位も分かれます。今回は、隣接する3筆の土地を、まとめて「一体の土地」として評価すべきだと主張する相続人と税務署が争った事例を紹介します。
相続税評価における「隣接する複数の土地」の扱い
相続財産のなかには、隣り合う複数の土地が含まれていることがあります。
自宅の敷地の隣に畑がある、貸家の敷地が並んでいるなどのように、隣り合った土地の用途が異なることも珍しくありませんが、相続税では、隣り合っている土地でも、使われ方によって別々に評価することがあります。
自宅の敷地、その隣の畑、さらに貸家の敷地が並んでいた場合、これらは全部まとめて一つの土地として評価できるのでしょうか。
事例の概要:隣り合う3筆の土地は、一体の土地として評価できるか
Aさんは、父親が所有していた3筆の土地を相続しました。
その3筆の内訳は、
土地1:父親の自宅と農業用倉庫が建っていた宅地
土地2:以前は畑として使われていたが相続開始時にはほぼ休耕地となっていた農地
土地3:3棟の家屋が建つ宅地(うち2棟は第三者に賃貸、1棟は親族が無償で使用)
となっています。
Aさんは相続税の申告にあたり、いったんは土地1と土地2をそれぞれ1つの評価単位として、土地3については建っている家屋の敷地ごとに3つに分けて評価しました。
その後、「これらの3筆の土地は一体として評価すべきものであり、それを前提とした鑑定評価額を採用すべきだ」として、更正の請求を行いましたが、税務署がこれを認めなかったため、Aさんは国税不服審判所で争うこととしました。
争点:例外的な評価方法を用いる「特別の事情」があるか
本件の争点は下記のとおりです。
① 一体の土地として評価すべき「特別の事情」があるか
② 評価通達に基づいた評価額ではなく鑑定評価額を採用することは可能か
相続税における土地評価では、原則として国税庁の定める評価通達に基づいて地目や利用状況ごとに評価単位を分け、評価します。
登記上は別々の土地であっても、実際に一体として使われていればまとめて評価することがありますし、反対に隣り合っていても、使われ方が違えば別々に評価することがあるわけです。
こういった画一的な評価方法が採られているのは、個々の事情を考慮すると評価する人によって金額がぶれ、納税者間の公平が保てなくなるためです。
ただし、通達どおりに評価したのでは実際の価額を適切に算定できないと認められる「特別の事情」がある場合には、例外的に鑑定評価などの評価方法を用いることが認められています。
◆相続人(Aさん)らの主張
Aさんは、これら3筆を一体の土地として扱い、まとめて評価すべきだと主張しました。
その理由は、この土地全体の最も有効な使い方は一体で開発した上で戸建住宅用地として分譲することであり、この「最有効使用」を基準に鑑定評価額で評価すべきだというものでした。
◆税務署の主張
これに対し税務署は、相続開始時点での現況に着目しました。
土地1は自宅と農業用倉庫の敷地として、土地2は畑として、土地3は賃貸中の貸家の敷地と、親族が無償で使う家屋の敷地として、それぞれ別々に利用されており、一体として利用されている実態は見当たりません。
あくまで現況優先で評価すべきであり、一体で開発すれば合理的だという理由だけで一体として評価することは認められないという立場です。
また、Aさんが提出した鑑定評価書は、土地全体を将来「宅地見込地」(=将来的に宅地への転用が見込まれる土地)として転用・造成した後の価格を前提に算定されたものであり、相続開始時点の現況をもとに算定すべき時価とは、そもそも前提が異なるとも指摘しています。
審判所は「3筆に分けて評価した額が妥当である」と判断
まず争点①の一体評価の可否については、「相続税法上の時価は、現況に基づかない仮定の最有効使用ではなく、相続開始時点の利用状況を前提に算定されるべきである」という考え方を示しました。
そのうえで、3筆の土地が一体として利用されていた事実は認められないこと、土地3の一部は第三者への賃貸によって利用が制限されていることから、3筆の土地が1つの利用単位を形成しているとはいえないと判断しました。
争点②の鑑定評価額の採用可否についても、審判所はこれを認めませんでした。この鑑定書が取引事例を比較する方法ではなく開発を前提とした価格算定の方法のみによって評価額を出していたことを問題視し、その手法を採った理由の説明もないこと、鑑定評価額の算定方法自体に合理性の疑いがあることなどを指摘しています。
これらを踏まえ、通達どおりの評価によらない「特別の事情」はいずれも認められないと結論づけ、3筆に分けて評価した額が妥当であると判断しました。
まとめ:現況が評価の基準になる
この事例では、相続税の土地評価が「まとめて開発すればもっと有効に使えるはずだ」という将来の可能性ではなく、あくまで相続開始時点でその土地がどう使われていたかという現況が基準となるという原則が示されています。
隣り合っていても、自宅・畑・貸家というように使われ方が違えば、評価単位は分かれるわけです。登記上の一体性や地理的な隣接性だけでは、一体評価の根拠にはなりません。
将来こう使いたいという希望と、いま実際にどう使われているかという現況は、相続税の評価の場面では別物であることは覚えておきたいところです。
高橋 創
税理士

