(※写真はイメージです/PIXTA)

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資産形成において「いつまでに〇〇万円」という目標を設定することは、投資を継続するモチベーションになります。実際、「運用に目標を定めましょう」といった投資のアドバイスは度々散見されます。しかし、その目標にとらわれすぎると、自分の投資スタイルを踏み外してしまうことも……。39歳男性の事例から、投資の失敗パターンを知り、投資の成功率を高めるポイントを紐解いていきましょう。

40歳目前、「目標の2,000万円に届かない」…営業課長の焦り

「ついにここまできたか……。けど、目標には少し足りないな」

ネット証券の画面を見ながらそう呟いたのは、中堅住宅販売メーカーで営業職を勤めるケイスケさん(仮名/39歳)。年収は750万円、パート勤務の妻と二人の子どもと一緒に暮らしています。目標数字を追いかける体育会系の、いわゆる「ゾス会社」とも揶揄される厳しい職場で、優秀な成績を収め、昨年課長へと昇進を果たしました。

彼が見ていた画面の口座残高は、約1,600万円を示しています。

最近は新NISAが話題ですが、ケイスケさんは2014年に始まった旧NISAをきっかけにインデックスファンドへの積み立て投資を始め、順調に資産を増やしてきました。

投資のお手本としたのは、長期・分散で積立投資を推奨する経済評論家の著書です。「この手法なら、本業が忙しい、投資初心者でも無理なく続けられそうだ」と考えたためでした。事前に相談した妻は、のんびり屋な性格もあり、投資に関心がなかったことから、運用はすべてケイスケさんに一任されています。

当初は明確な目標を定めず漠然と始めた投資でしたが、時期がよかったこともあり、資産は平均で年率10%以上のペースで増え続けました。そして数年後、老後2,000万円問題が話題となったとき、将来子どもの教育費が嵩んで投資に回せなくなる可能性を想定し、「40歳までに2,000万円」という目標を掲げたのです。

一度目標を設定すると、普段の仕事で数字を追う営業マンとしての本領が発揮されます。何通りものシミュレーションを作成し、目標から逆算して毎月の積立額を調整しながら資産を拡大させていきました。そうして迎えた今年、目標期限の40歳まであと1年というタイミングで、資産は投資資金の倍となる1,600万円にまで達したのです。

しかし、ここでケイスケさんは悩みます。

いまのペースでは、40歳までに目標の2,000万円へ到達するのはかなり難しそう状況でした。必ずしも40歳時点で目標額に届かなければ生活に困るというわけではありません。それでも、目標達成を信条とする営業魂がそれを許さなかったのです。仕事においては、これまでも数々の無理な目標を達成してきたという自負がありました。

(よく考えろ……。仕事と同じで、なんとか目標達成する方法があるはずだ)

確かに投資の世界には、FXや信用取引など短期間で大きく資産を増やす方法が存在します。悩んだ末にケイスケさんが選んだのは、いまの投資方法から個別株への投資に変更することでした。

この決断には理由があります。投資雑誌などでは「インデックス投資は初心者向け、経験を積んだら個別株投資を推奨」といった記事が目についたからです。インデックスファンドでは年率10%以上で増えましたが、個別株には同じ期間で数倍になったものも珍しくありません。それらを横目で見ているうちに、個別株であればより短期間で目標額に到達できると考えたケイスケさん。また、FXなどに比べればリスクは高くないように思えました。

こうして目を付けたのは、これからAIブームを支えると話題の業種でした。その中心と目されていた会社の株は、すでに割高感があったものの、さらなる値上がりに賭ける形でファンドを解約し、まずは資金の半額を投資したのです。

目標達成目前から一転…1ヵ月のあいだに起きた悲劇

買い付けから半月後、ケイスケさんの見立てに反して株価はズルズルと値を下げていきました。

少し不安になったものの、「一時的な調整に過ぎない」というネットの情報を信じ、下げ止まったタイミングで残りの全額を追加で投資しました。

ところが、それを待っていたかのように、株価はさらに勢いを増して下落をしていきます。下がり続ける画面を前に、ケイスケさんはどうしていいかわからなくなりました。インデックス投資のときも株価の下落は経験していましたが、ここまで急激な下げは初めてだったからです。

売るに売れず、ただ指を咥えて画面を眺める日々が続きました。彼が泣く泣く売却したのは、株価が半値になり、これまで10年間の投資で得た利益がすべて溶けたタイミングでした。

個別株に切り替えてから、わずか1ヵ月間の出来事です。

1ヵ月前には、目標額にあと一歩というところまで迫っていた資産。しかしいまや、資金はその半分となり、800万円へと減少しました。10年にわたって積み立ててきた元金と同等の水準まで戻ってしまったのです。そして皮肉にも、解約したインデックスファンドはその後も順調な値上がりを続けていました。

「くそぅ……。なんてバカなことをしたんだ……」

行き場のない想いを一人で抱え、仕事も手につかず、家庭でも暗い顔をしてふさぎ込むケイスケさん。妻が「最近元気がないけど……大丈夫?」と心配します。

黙っていようと思っていたものの、本気で案ずる妻に嘘はつけず、事の顛末をすべて打ち明けました。怒られ、呆れられると覚悟していましたが、妻から返ってきたのは意外な言葉だったのです。

「損したわけじゃないよね。それに、定年まであと何十年もあるじゃない」

妻は責めるどころか呆れることもありませんでした。それどころか、これまで運用をケイスケさん一人に任せていたことを詫び、深みにはまる前に手を引いた判断を感謝してくれました。

妻の言葉に救われたケイスケさんは、今回のことは「いい経験だった」と思いなおし、次第に元気を取り戻していきます。そして今回の件を機に、今度は夫婦二人で話し合い、新NISAを使って、最初に運用していたインデックスファンドへの長期投資を再開しました。

投資の「目標金額」や「達成時期」は目安程度に留めるべき理由

ケイスケさんは目標額と期間にとらわれるあまり、投資初心者が長期・分散で資産を増やすのに最適な投資スタイルを踏み外し、運の要素が強い短期投資に手を出して失敗しました。

投資を行う際、「老後資金の確保」などの目的を決めることは、継続のモチベーションになるため悪いことではありません。しかし目標金額や達成時期は目安程度に考えておいたほうが無難なのです。その理由は二つあります。

一つは目標額にとらわれ過ぎると、ケイスケさんのように焦って人気のテーマ株やあるいはレバレッジのかかった商品などに手を出し、帳尻を合わせようとしがちだからです。同じ投資でもインデックスへの投資と個別株、FXなどのハイリスク商品への投資に求められる投資スタイルは別物です。身丈に合わない手法へ急転換することは、大きな損失を招く要因となります。

二つ目は、インフレ下では長期で目標額の価値が下がるからです。仮に、インフレが毎年3%で進行すると、24年後の目標額の価値は半減してしまいます。目標額を達成しても価値が半減していれば老後資金が足りない、なんてことになりかねず、それが焦りや不安を招き、無理な投資に走る可能性を高めるでしょう。

焦りや不安といった感情は正確な判断力を奪い、誤った判断につながりかねません。失敗する確率が上がってしまいます。投資家はくれぐれも目標金額と到達時期に振り回されず、自身の知識や経験、スキルを踏まえた投資スタイルを継続することが成功の鍵であると考えます。

凡人投資家Gekko(ゲッコー)

サラリーマン兼業個人投資