中国の新型ロマンス詐欺(前編)“理想の人”はAI生成の幻…でも成立しなかったのは「自分のせい」
中国では最新のAI技術を使った犯罪が数多く行われている。今回は最近、話題になっている新たなロマンス詐欺を紹介したい。
ショート動画の画面をスクロールすると、ふと目を引く動画が流れてくる。街頭インタビューを受ける、身なりの整った独身男性だ。あるいは、あるライブ配信では美しい女性配信者が真剣にパートナーを探していると訴える。
こうした動画やライブ配信が、主要なショート動画プラットフォームで爆発的に増殖している。
伴侶を求める人々はコメント欄に「ぜひ一度話してみたい」「お互いのチャンスを探しませんか」と書き込む。
すると間もなく、見知らぬアカウントからメッセージが届く。相手は「仲人」を名乗り、相手との橋渡しができると持ちかけてくる。一度相手を連絡先に追加すれば、巧妙に仕組まれたわなが口を開く。
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中国の国営放送(CCTV)が暴いたこの手口は、最新のAI技術を悪用した新型のロマンス詐欺である。
動画や配信に登場している魅力的な男女は、その全員がAIによって生成された架空の人物にすぎない。20代の若者から、70代、80代の独居高齢者に至るまで、孤独を抱えるあらゆる世代が狩りの標的となっている。
マッチングサービス料を支払っても連絡つかず
仲人からは本格的な紹介に進むには、会員登録料の支払いや契約書の締結、個人情報の審査が必要だという、紹介の手順を提示される。
金銭の支払いにちゅうちょする当事者に対し、詐欺グループは信用させる証拠を次々と繰り出す。立派な表彰状や業界の許可証、会社資料を提示し、いかに自社が優良な仲介機関であるかを例示する。しかし、それらの公的書類に見える画像すら、すべてAIで偽造されたものだ。
さらに、仲人たちが忙しそうに働くオフィスの様子を収めた動画まで送られてくるが、これも事前に用意されたAI動画にすぎない。
信用した利用者の条件や好みに応じて、仲人は「ふさわしいお見合い相手」のプロフィルを送ってくるが、それらはどれも非の打ち所がない。国内外に複数の不動産を所有する実業家という男性。あるいは会社経営者だが長年連れ添った妻に先立たれ、ただ人生を穏やかに共に過ごせる伴侶を求めているという男性。送られてくる写真はどれも品格が漂い、容姿端麗である。
もし利用者が「写真の質感が不自然ではないか」と不信感を抱いても、仲人は平然と言い繕う。「これはアプリの美顔加工が強く入っているだけです。交際が成立すれば、もちろん直接会うことができます」。
利用者が心を動かされたのを見計らい、仲人は決定的な言葉を放つ。「お相手もあなたのプロフィールを見て好印象を持っています。マッチングサービス料さえ振り込んでいただければ、すぐに直接の連絡先をおつなぎします」。
利用者が数千元(数万円から十数万円)を支払い、手に入れた連絡先に電話をかけても一向につながらない。メッセージアプリで友だち申請を送っても、承認される気配はない。不審に思って仲人に連絡を試みるが、すでに音信不通となっている。
契約書に記載されていた結婚仲介会社を調べてみると、そもそも登記すら存在しないペーパーカンパニーであったことが判明し、渡した資金は海の藻くずと消える。
5分で量産される「完璧な恋人」
警察が摘発したある詐欺グループの事務所にはお見合い相手も、相談に乗る仲人も存在しなかった。人事も総務も経営責任者すらおらず、現場にいたのは「営業」「動画編集」「配信者」だけだった。
彼らのパソコン画面に映し出されていたのは、被害者が握りしめていた「理想の婚活相手」のAI画像だった。写真や動画、それらしい経歴や身の上話は、AIを使えば5分もかからずに生成できる。
一度作った素材は何度でも使い回すことができ、何百人、何千人ものターゲットへ同時にばらまくことができるため、仕入れコストはゼロに近い。あとは用意されたマニュアルに沿って、営業担当者が利用者を決済画面へ誘導するだけだ。
かつての悪質な結婚相談所であれば、どれほど粗雑であってもサクラを用意する必要があった。しかしAIの登場により、もはやサクラすら不要となった。すべてがAIによって作られた虚構であり、利用者が対峙(たいじ)していたのは、課金ボタンを押させる営業トークだった。
警察の調べによると、50人以上の被害者のうち、実際に通報へ踏み切ったのはごく一部にとどまる。自身が相手にしていたのがAIだと見抜けなかったことも理由の一つだが、多くの被害者が「自分が相手に選ばれなかった」「相性が合わずに破談になった」と失敗の原因を自分自身に求めてしまい、金をだまし取られたこと以上に自己否定や自責の念にさいなまれるという、心理的被害も広がっている。
こういったAIを悪用したロマンス詐欺には様々な手法が生まれている。後編では被害者に無限の課金を強いるケースを紹介する。
文/下川英馬 内外タイムス

