「あなたの子だと思う。産むね」自由すぎる年上の妻とは別居婚…「人妻」「20歳年下」の2人の恋人がいる41歳夫、それでも心が満たされないワケ
【前後編の後編/前編を読む】「あんた、あのとき死んでいればよかったね」と言われて母を殴った…家を追われた僕を救った「スナックのママ」とその娘との恋
竹宮智紀さん(41歳・仮名)は、教育者の両親のもと、世間体と「きちんとした生き方」を強いられて育った。グレた妹は田舎の寺に預けられたが、生き生きと暮らすその姿を見て、初めて両親の価値観を疑ったものの、逆らうことはできない。高校時代には自殺を図り、第一志望の大学に落ちた智紀さんに、母は「あのとき死んでいればよかったね」と言い放った。それをきっかけに親子関係は決裂し、自立した彼は夜の仕事でさまざまな女性の生き方を知る。そんな彼が心を奪われたのが、人生の恩人となった恵理ママのひとり娘で、小劇場で活動する4歳年上の女優・玲香さんだった。結婚に向いていないと思っていたふたりの関係は、やがて思わぬ方向へ進んでいく。

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玲香さんと関係をもった智紀さんだが、玲香さんが他の男性と親しくしているのも知っていた。
「劇団の関係者とやけに仲がよくて、僕には見せない笑顔を見せていた。嫉妬しましたが、『私、智ちゃんとしかつきあわないなんて言ってないよね』と言われて撃沈しました。そういう価値観なのか、と。ただ、僕自身も、別に1対1でつきあうのが当然だと思っていたわけではない。それが“普通”だと思っていただけ。あ、それも自由でいいんだと考えたら楽になりました」
その後、智紀さんは就職し、仕事と職場の人間関係に忙殺されるようになった。自分の「コミュニケーション能力」や「他者との関係の築き方」が、やはりおかしいと思うような場面も多々あった。悩んだり落ち込んだりすると、恵理さんのスナックへ出向いた。
店で知り合った女性と、こっそり関係をもったこともあるのだが、智紀さんは「遊びのつもり」の一夜限りだと思い、相手は「また会えると思っていた」ために若干、トラブルになった。
「これは恵理ママに怒られました。相手も一夜限りに同意したのか、と。男女の関係なんて、その場の流れみたいなものがあるじゃないですか。でも、『あんたには、そういうことを判断できる能力は、まだない。もっと修業を積んでから言え』って。このときは少しだけストーカー化した女性を、恵理ママがうまくなだめてくれ、彼女は店に来なくなった。女にだってプライドはあるのよと言われました。自由に生きるのもむずかしいなと思いましたね」
突然の「産むね」
そんなとき、育った過去を振り返るまいと思っても、つい思い出してしまうと彼は言った。父親に殴られたこと、母親に信頼されていなかったこと。ある日ふと、「愛されていなかったんだ」と気づいた。
「そんなこと、さっさと気づけよという話なんですが、自覚がなかったんですよ。僕は愛されていなかった、そして愛されたかったんだとやっと気づいた。じゃあ、愛ってなんだという話になるから、ますます混沌としていくんですけどね。普通に愛されて育った人は、そういう疑問にとらわれないと思う。実際、玲香なんて、いつも自由にのびのびやりたいことをしている。彼女は他者に受け入れてもらえないのではないかとか、自分が常に自分の人生の傍観者であるようなモヤモヤ感はないと言ってましたからね。理屈ではわかっても、体と心がうまく反応できない。そういうことの連続でした」
27歳のとき、つかず離れずつきあっていた玲香さんが「妊娠した。あなたの子だと思う。産むね」と突然言った。え、そういう場合って結婚するんじゃないのと、智紀さんは素朴に返した。
「どっちでもいいけどと、玲香は淡々としていました。そもそも、あなたの子だと“思う”というのがすごいですよね。でも玲香に限っては、驚きませんでした。だいぶ彼女に慣れていたんだと思う。子どもの戸籍の父親欄が空欄なのはどうかな、と言ったら、『そんなこと、どうでもいいわよ。私の子であることに変わりはない』と。自由すぎてちょっとついていけない気もしたけど、それが彼女の人生観だから認めざるを得ない。僕は結婚については及び腰でしたけど、もし玲香が結婚するというなら、それもいいかもとは思いました」
恵理ママは、「ふたりで考えて」とあえて意見を言わない。ふたりはいろいろ話し合った。その結果、「お互いに自由に生きる権利は放棄しない。だがふたりとも、子どものために自分のできる限りのことはする」という条件つきで、玲香さんから結婚しようと言われた。智紀さんも納得し、ふたりは婚姻届を提出した。これまで通り、別居のままだ。
「同居のどの字も出なかったですね。次の更新時期に、僕は少しだけ玲香の自宅に近いところに越しました。子どもが生まれたら、僕だって世話したいし。そう言ったら、玲香もそうねと納得していた」
「のけ者にされたくない」 気持ちを伝えると…
臨月になっても彼女は、喫茶店の営業を続けていた。早く芝居の稽古がしたいなあと言いながら。そんな玲香さんを、智紀さんは「あまりにたくましくて、まぶしく見ているだけ」という状態だった。
「オレはもしかしたら玲香に頼られたいのかもしれないと感じました。人に頼られて、何かしてあげてその人の笑顔を見たい。そう思っているんじゃなかろうか、と。これまた一般的には普通のことなんでしょうけど。人として成長していなかったんですよね、きっと」
出産が近づいたらすぐに連絡してと、繰り返し玲香さんに頼んだ。放っておいたらひとりで病院に行って、ひとりで産んでしまいそうだったからだ。「のけ者にされたくない」と強烈に思い、その気持ちを玲香さんに伝えた。
「玲香は、やけに真剣な顔をして『わかった』と僕を抱きしめました。自覚しないまま、心の中に大きな穴を抱えて生きてきたあなたが、とてもかわいそうで愛しかったと、あとで玲香は言っていましたね」
出産時、智紀さんは玲香さんの手を握って見守り励ました。生まれたばかりの娘は、光り輝いて見えたという。命を生み出した玲香さんもまた、まぶしかった。
玲香さんとの生活は「苦痛」
退院時には智紀さんもつきそい、玲香さんの自宅に泊まり込んだ。ところが1ヶ月間、同じ場所で生活しているうちに、お互いのイライラが募っていった。
「娘の世話はまったく苦じゃなかった。夜泣きされてもかわいかった。でも玲香との生活は苦痛でしたね。食べ物の好みも合わないし、洗濯や掃除のしかたとか、お互いに違いすぎてそのつど、どうしてそんなことするのと言い合うような感じになった。1ヶ月たって、『今後は通いにして。私たち、同居するのは無理だよ』と言われたので、そうだねと共感しました」
生後2ヶ月になると、玲香さんは喫茶店営業を始め、時間があれば夜は芝居の稽古に戻った。3ヶ月後の舞台に復帰するという。智紀さんは全面協力すると約束したが、「え、別にあなたはあなたの好きなようにしていいよ」と言われてしまう。
「頼られたかった願望は、ものの見事に蹴散らかされました。どんなときでも、玲香は人に頼るタイプではなかった。人の親切は受け入れるけど、自分からは頼らない。それが彼女の生き方だった」
性依存症に…「スポーツみたいな感じで」
寂しかったのだろうか、彼は職場以外で知り合った女性とすぐに寝るような生活をしはじめた。一時期は「かなりの性依存症だった」と自分でわかっていた。
「スポーツみたいな感じでしたね。出会って口説いて、どのくらいの時間でベッドに持ち込めるか。ろくに話もせず、体だけ重ねて別れていく。その潔さみたいなものが好きだったんですよ、当時は。たぶん、玲香と同居して親しくなりすぎて、人疲れしちゃったんだと思う。セックスが好きだったというより、自分を受け入れてくれる人を常に求めていたのかもしれません。まだ愛情とか恋愛については考えられなかった」
そんな智紀さんの行動に、玲香さんが気づかないはずはなかった。玲香さんは実に鋭い感性の持ち主だった。
「娘を抱きしめていたら、玲香に『智ちゃん、大丈夫?』と言われたんです。何がと言ったら、『満たされてない感じがするから』って。ま、人間なんてそう簡単に満たされるものじゃないけどさと、玲香は冗談のように言っていた。満たされていない感覚は僕の中になかったので、意外でした」
突然の「勧誘」
娘が小学校に入ったころ、仕事で意外な展開があった。勤務先から独立して起業した先輩が、彼に協力を呼びかけたのだ。今と同じ給料を出すという条件だった。
「僕はその先輩と特に親しかったわけでもないので、会って聞いたんですよ。どうして僕なんかを誘ってくれたのか、と。すると『昔から、きみの一匹狼的なところが好きだったんだよ。上に媚びない、下にもおもねらない。かといって、輪を乱すわけでもない。不思議な存在だと思っていた』って。場所や環境が変われば、きみはもっと実力を発揮できるんじゃないかとも言ってくれて。そんなふうに僕を認めてくれる人がいるんだとびっくりしたんです。でも一方で『何か騙そうとしているのではないか』と懐疑的にもなった」
何度も先輩に会い、会社を見せてもらい、今後の展開をじっくり聞いた。聞いているうちに「それはこうしたほうがいいのではないか」とアイデアも生まれ、話してみると「やはりきみに来てほしい。そのアイデアを使って、事業を一緒にやってみないか」と先輩は言った。一度きりの人生だから、賭けてみるのもおもしろいかもしれないと智紀さんは思った。このまま「満たされない」より、変化を求めたほうが満たされる可能性は高いだろうと判断した。
35歳で転職した智紀さんは、新たな仕事や人間関係に苦労もしたが、先輩の細やかな配慮も功を奏し、徐々に実力を発揮していった。
「今もまだ、道半ばですけど、会社も少しだけ大きくなってきました。べたつきがちだった人間関係も、ひとり昔ながらのやり方に固執する方がやめてからは、あっさりしています。とはいえ、たまにはみんなで飲みに行くこともありますし、いざというときは一丸となって仕事をすることもある。人間としてようやく青年くらいに達した僕には、ちょうどいい距離感なんです」
ふたりのガールフレンド
仕事にも慣れてきた2年ほど前から、彼にはガールフレンドがふたりできた。ひとりは同世代で、彼に「世間」を教えてくれる。もうひとりは20歳年下で、ひたすら彼を頼ってくれるかわいい女性だ。
「これが恋愛かどうかはわからないんですが、同世代の彼女は落ち着いた人妻です。2人の子どもがいる。『子どもは私の宝だけど、それと恋愛は違う』というタイプ。彼女は夫とも仲よしなんですよ。夫を立ててかわいい妻を演じてると言っていたから、結局、夫婦ってそういう枠にはまった関係のほうがうまくいくのかなと考えさせられたりもしますね。20歳年下の彼女は、おそらく精神的に僕と同じくらい自信がなくて、自分に価値を見いだせずに苦しんでいる。僕自身がずっとそうだったから、彼女の気持ちが痛いほどわかるし、今でもたいして変わらないから一緒に成長していけるような気がしています」
玲香さんは、もちろんそういう女性たちの存在を知らないが、知る気もないだろうと彼は言う。妻が望んでいるのは、どこまでも自由で対等な関係なのだ。ただ、智紀さんは、そうなるまでにまだ時間が必要だと感じている。
「ただ、僕自身が本当にそういう自由を望んでいるのかどうか、最近、自信がなくなってきました。人妻彼女のように、なんとなくお互いに束縛しあいながら夫婦をやるのも楽しいんじゃないかと思うところもありますね。玲香とはなぜか心の底でつながっている気がするから、僕から離れることはないと思うけど」
結局、いまだに僕は「幼いころに否定され続けた自分」から脱することはできていない。だからといって親を恨む気はもはやない。自分で自分を立て直すために今後、どうしたらいいのだろうと彼は頭を抱える。
「ふだんはそんなに苦しくないんですが、突きつめて考えると、いつもそこに思い至るんです」
ただ愚痴っただけみたいで申し訳ない。彼は話をしたあとに、必ずそういうメールを送ってくる。複雑でさまざまな人間の心を、彼はひとりですべて抱え込んでいるように見えた。この先の彼はどう変わっていくのだろうか。
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妻、娘、そして2人のガールフレンドとの間で、自分が望む「自由」を見失いつつある智紀さん。記事前編では、彼が両親と決別して自立し、玲香さんと出会うまでを紹介している。
亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部
