ソフトバンクGの株価は本当に割安か…「孫ディスカウント」で資産が”半値”に、42兆円の機会損失を生んだ1社

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2026年6月、ソフトバンクグループ(SBG)の時価総額が一時トヨタ自動車を上回り、日本企業の首位に立ちました。AI関連株への期待が高まる中、Armを傘下に持ち、OpenAIにも巨額投資を続けるSBGは、日本を代表する「AI銘柄」の一つと見られています。

ところが同じ6月末、SBG自身が示すNAV(純資産価値)は72兆円。市場が付けた値段は34兆円で、ほぼ半値でした。保有資産を半分で買えるお買い得な株なのでしょうか。

本記事では、なぜSBGがNAVより安く評価されてきたのかを、孫正義氏の投資歴史から考えます。

72兆円を保有していても市場評価は「34兆円」

企業の株価が割高か割安かを見るとき、一般にはPER(株価収益率)がよく使われます。利益に対して株価が何倍まで買われているかを見る指標ですが、SBGはこれだけでは実態を捉えにくい会社です。自ら「戦略的投資持株会社」と位置づけており、Armや国内通信会社のソフトバンク、OpenAIをはじめ、多くの企業の株式を保有しているからです。

そこでSBGが重視しているのがNAVです。考え方は難しくなく、「保有している株式などの価値から純負債を差し引いたもの」と考えれば十分です。2026年6月末時点では、保有株式価値83.1兆円から純負債10.8兆円を引き、NAVは72.3兆円と計算されています。

同じ6月末のSBG株価は5963円でした。会社がNAV計算に用いる自己株式控除後の株式数で計算すると、時価総額は約34兆円です。つまり、その時点では72兆円ほどの純資産価値に対して、株式市場では34兆円ほどの値段しか付いていませんでした。数字だけを見れば、確かに「半値」です。

*ただし、この72.3兆円は6月末時点の数字です。SBG自身、8月6日の決算説明会で、株価と為替を8月5日時点に置き換えたNAVを58.3兆円と示しました。NAVは保有株の値段がそのまま映る指標で、株価が動けば同じだけ動きます。

市場評価を半減させる「孫ディスカウント」とは?

なぜ、これほど大きな差が生まれるのでしょうか。

一つの理由として考えられるのが、いわば「孫ディスカウント」です。SBGの価値は、いま持っている資産だけでなく、その資産を孫正義氏が次にどう使うかによって大きく変わります。

孫氏の投資歴史には、誰もが認める大成功があります。2006年にはボーダフォン日本法人を約1.75兆円の株式価値で買収し、その後の通信事業の基盤を築きました。中国のアリババにはまだ小さかった時期から投資し、SBGに巨額の利益をもたらしました。2016年に約3.3兆円で買収したArmも、現在ではSBG最大の資産です。

こうした実績を見ると、孫氏には大きな技術変化を早い段階で見つける力があると言えます。

問題は、優れた投資先を見つけることと、その成果を最後まで株主価値として残すことは、同じではないという点です。

WeWorkの失敗と、NVIDIAを手放した「42兆円の機会損失」

その象徴がWeWorkです。SBGはWeWorkの将来性を高く評価して巨額の資金を投じましたが、2019年に上場計画が頓挫しました。SBGは同年、WeWork関連で4977億円の株式評価損を計上し、その後も支援を続けました。2023年3月期にも、財務支援に関連して2611億円の損失を計上しています。投資判断が外れたとき、損失額もまた大きくなりやすいことを市場に印象づけた事例です。

また、一時期多くの株を保有していたNVIDIAを手放したことは、「巨額の機会損失」になりました。SBGはAIブームが本格化するはるか前、2016年末からNVIDIA株を取得し、最終的に約4.9%の大株主になりました。

しかし、2019年1月には保有株をすべて処分しました。この売却には、単なる「先行きに弱気になった」という説明だけでは片づけられない事情がありました。当時資金繰りが苦しくなっていたビジョン・ファンドの出資者への返済のため、NVIDIA株を借入金の返済に充てています。

そのまま保有していた場合を現在の株価で計算すると、失った上昇余地は巨大です。2026年9月2日時点のNVIDIAの時価総額は約5.3兆ドルで、仮に4.9%という持分比率をそのまま維持できていたと単純化すると、その価値は約2600億ドル、現在の為替水準でおよそ42兆円になります。

AI時代を先取りする銘柄を見つけながら、資金面の制約もあって本格上昇の前に手放したという事実は、SBGの投資会社としての難しさをよく表しています。

もしSBGが「5年後に解散する」と決めたらどうなるか

ここで極端な思考実験をしてみます。もしSBGが「5年後にすべての資産を売り、借金を返し、残ったお金を株主に配って会社を解散する」と宣言したらどうでしょうか。実際には税金や売却時の価格変動があるためNAVの全額が返ってくるわけではありませんが、現在のような大きなディスカウントは縮まりやすくなるはずです。その場合は株主が「孫氏が次に何を買うのか」を考えなくてよくなるからです。

ところが実際のSBGは、保有資産から得た資金を次の投資へ回し続けることを前提としています。孫氏は2026年のレポートで、現在70兆円台のNAVを2042年に1000兆円へ増やす目標を掲げています。

つまりSBG株を買うということは、現在の資産だけを買うのではありません。その資産を使って孫氏がこれから行う投資まで引き受けることになります。この不確実性が、NAVに対する恒常的な割安の一因だと考えるのは自然でしょう。

ただし、今回あらためてSBGを調べてみると、問題は「孫ディスカウント」だけではありませんでした。 NAVの中身そのものにも、かなり大きな期待が織り込まれていたのです。詳しくは後編記事〈3か月で20兆円が消えたソフトバンクG…孫正義の「AIへの賭け」を左右する"PER200倍"の1社〉でお伝えします。

栫井駿介

つばめ投資顧問代表、長期投資YouTuber

1986年鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業、豪BOND大学MBA修了。大手証券会社に勤務した後、2016年、つばめ投資顧問設立。延べ2000名以上の個人投資家を相手に、堅実かつ実践的な長期投資のアドバイスを実施。YouTuberとしても活動し、登録者は20万人超。ひとりでも多くの人に長期投資のよさを広め、実践してもらうことを夢見て発信を続けている。著書に『年率10%を達成する! プロの「株」勉強法』『1社15分で本質をつかむ プロの企業分析』(ともに、クロスメディア・パブリッシング)『買った株が急落してます!売った方がいいですか? 株で利益を出す人の考え方』(ダイヤモンド社)、共著として『株式VS不動産 投資するならどっち?』(筑摩書房)がある。

公式YouTube:つばめ投資顧問の長期投資研究所

公式サイト:つばめ投資顧問ウェブサイト

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