(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

定年退職を機に新潟県・苗場のリゾートマンションを購入した男性。「東京の狭いアパートで一生を終えたくない」と、約50平米の“広い住まい”をわずか28万円で手に入れました。雪も不便もある程度わかっていたつもりでしたが、実際に暮らしてみてわかった現実と、「生活が合わなければ売ればいい」という考えの“まさかの誤算”とは?

20平米の都内アパートから50平米の苗場マンションへ

「買う前から不便なことは、ある程度わかっていました。でも、それ以上に、東京の狭いアパートで一生を終えるのが嫌だったんです」

都内の印刷会社を定年退職した今野さん(仮名・68歳)は独身で、年金月14万円、貯金は800万円ほどです。65歳で会社を退職した当時も、長年暮らしてきた賃貸アパートで生活していました。

家賃は月6万円。年金で足りない分を貯金から取り崩すことも多かったといいます。

「仕事をしているときは、家賃を払うのも当たり前だと思っていました。でも、年金暮らしになってみると、毎月6万円が出ていくのは大きい。しかも、こんな古くて狭い部屋で……むなしい気持ちでした」

そんなときに見つけたのが、新潟県・苗場エリアにあるリゾートマンションでした。バブル期の物件で、販売価格は28万円、約50平米の1LDKです。

「28万円なら、仮に合わなかったとしても大きな損にはならないだろうって。築年数は古いですが、東京の20平米のアパートよりずっと広い。それだけでも魅力でした。それに、苗場には昔から憧れもありました。『山のそばで暮らすのも悪くないな』ってね」

雪が多いことも、車がなければ生活しづらいことも、ある程度はわかっていました。

「冬は大雪になる。買い物も東京みたいにはいかない。でも、私はもう65歳を過ぎています。毎日朝から晩まで外を出歩くわけじゃない。春や夏は普通に過ごせるし、車を買えばいい。数は少ないけれどバスもありますし、『まあ、何とかなるだろう』って思ったんですよ」

こうして今野さんは、28万円の“夢のマイホーム”を購入。管理費や修繕積立金、固定資産税などが年48万円ほどかかることを考慮しても今の暮らしよりはいいと考え、苗場での新生活を始めました。

「こんなに大変だとは…」想像を超えた冬の日々

引っ越したのは、雪のない時期でした。春から夏にかけては、山の緑に囲まれた環境が心地よく、多少の不便さはあったものの「ここを選んで正解だった」と感じていたといいます。

朝、窓の外を見ると、駐車場も道路も雪に覆われています。移住するときに購入した軽自動車も、雪に覆われ、すぐに出発できる状態ではありません。

「雪が降ることは分かっていました。でも、実際に暮らしてみると、想像していた以上でした。車を出そうと思っても、まず雪をどかさなければいけない。しかも、それが何日も続く。車は諦めてバス停までなんとか歩いても、遅延や運休も少なくありません」

厳しい寒さも想像以上でした。健康には自信がありましたが、室内で暖房を使っていても、骨から染みるような冷え込みに布団にいる時間が長くなりました。体調が悪くなっても、病院まで雪の中で行くのは厳しい……そんな不安が募りました。

「買い物も、ちょっと甘く見ていました。今はネットで何でも買えるじゃないですか。だから、買い物についても、そこまで心配していなかったんです。でもね……」

東京で暮らしていたときとは勝手が違い、注文すれば翌日に届くという感覚で生活することはできません。雪の状況によっては配送に時間がかかることもあり、注文するにしても、届くまでの日数を考えて、早めに買っておかないといけません。

さらに、車を維持するためのガソリン代や冬用タイヤ、部屋の暖房費なども家計に重くのしかかりました。

総務省の「家計調査」によると、2025年の65歳以上の単身無職世帯では、消費支出が月14万8,445円。税や社会保険料などの非消費支出も月1万2,990円かかっています。年金月14万円の今野さんにとって、車や暖房、住宅の維持費が加われば、家賃がなくなったからといって決して安心できる状況ではありません。

「冬を越してみて、思ったんです。『これ、70代、80代になっても続けられる生活なのかな』って。考えが甘かった、というのが正直なところでした」

「東京に帰りたい」でも、売れない

最初の冬を越したころから、今野さんは東京に戻ることを考えるようになりました。しかし、ここで大きな問題が立ちはだかります。購入時に28万円だったマンションは、いくら価格を下げても買い手がつきません。

「最初は、『28万円で買ったんだから、10万円くらいで売れればいいかな』と思っていました。でも、問い合わせすらないんです。じゃあ5万円ならどうだ、もっと安くしたらどうだ、と考えても、そもそも買ってくれる人がいない」

所有している限り、管理費や修繕積立金、固定資産税などの負担は続きます。マンションをそのままにして自分だけ東京へ戻れば、住んでいない家のために費用を払い続けることになります。

「東京に戻りたいのに、家が売れない。じゃあ、どうすればいいのか……」

格安で手に入れたはずのマンションが、今度は今野さんを苗場につなぎ止める“重し”になってしまったのです。

「安いから買う」前に考えるべきこと

老後、年金暮らしになれば、「家賃を払い続けるのが不安」「広い部屋で暮らしたい」と考えるのは自然なことです。

実際、苗場のリゾートマンションには、約50平米の物件が10万円程度で売り出されるケースもあり、都市部では考えられないほど安価に購入できる物件があります。しかし、価格が安いことだけを理由に、「合わなければ売ればいい」と考えるのは危険です。

購入前には、管理費や修繕積立金、固定資産税など、年間でどの程度の維持費がかかるのかを確認する必要があります。また、築年数や建物の管理状況、大規模修繕の予定なども確認しておきたいところです。

そして、もう一つ忘れてはいけないのが、自分自身の「老い」です。購入したときは65歳だった今野さんも、現在は68歳。今は車を運転し、雪道を歩くことができても、70代、80代になって同じ生活ができるとは限りません。

「買ったときは、28万円でこんなに広い家が持てるんだから、いい買い物をしたと思っていました。でも今は……東京に帰りたいです。そのためには、この家をどうにかしないといけない。まさか、手放すのがこれほど難しいとは思いませんでした」

重要なのは、いくらで買えるかだけではなく、いくらで維持できるか。そして、いざというときに手放せるかまで考えることです。「安いから」「広いから」--。そんな魅力に惹かれて手に入れた住まいが、老後の生活を縛ることもある。そのリスクを、今野さんのケースは教えてくれます。