仕事を振ったら「できません」「無理です」と即答…〈やる気のない部下〉を責めればパワハラ、見捨てることもできない、中間管理職の悲哀
新しい業務を依頼した瞬間、「できません」「無理です」と返してくる部下--。「やる前から諦めるな」と指導したい気持ちを抑え、強く責めれば「パワハラだ」と訴えられかねない現代。かといって「じゃあいいよ」と見捨てたり、他のメンバーに仕事を振り替えたりすれば、今度はチーム全体から不満が噴き出してしまいます。本記事では、吉田直実氏の著書『中間管理職の生存戦略 自分の「思い込み」に気づき最適解を見つける本』(ごきげんビジネス出版)より、「できません」の裏に隠れた部下の“サイン”と、上司が取るべき対応のヒントを探ります。
開口一番「できません」「無理です」と返す部下
新しい業務や少し難易度の高いタスクを依頼すると、開口一番「できません」「無理です」と返してくる部下がいます。理由を聞いても、「時間がありません」「スキルが足りません」などと、決まり文句のような説明しか返ってこない。上司としては、「やる前からあきらめるな」「考えようとすらしていない」と苛立ちを覚えつつも、強く押せば押すほど、さらに後ろ向きになっていく気配も感じる。
一方で、「じゃあ仕方ないか」とほかのメンバーに振ってばかりいると、その人たちから別の不満が噴き出してくる。部下の「できません」の裏に、リソース不足など現実的な制約もあれば、失敗への恐れや自己評価の低さなど心理的な要因もあるでしょう。
安易に「甘え」と切り捨てることもできず、かといって、言われるがままに引き下がるわけにもいかない。すぐに無理と言う部下をどう扱うかは、簡単なようでいて、なかなか明快な答えが出ないテーマではないでしょうか。さあ、あなたなら、どうする!?
理由を詳しく聞く、あえて任せない…上司が取れる「5つ」の選択肢
1.「なぜ無理なのか」を具体的に聞き出す(背景傾聴型)
メリット:表面的な「無理」の裏にある本当の障壁(スキル・時間・感情)を把握できる。
デメリット:丁寧に聞かないと、単なる愚痴大会になりかねない。
注意点:「それは無理だよね」と同調しすぎず、「どうすればハードルが下がるか」を一緒に言語化する流れを意識する。
2.タスクを細かく分解し、一歩目だけを一緒に決める(タスク分解型)
メリット:漠然とした不安を、小さな行動に変換しやすく、着手のハードルを下げられる。
デメリット:上司の工数がかかりすぎると、上司に依存する関係になりやすい。
注意点:最初は一緒に分解しつつ、徐々に「次は自分で分解してみて」と、自走を促すステップを組む。
3.「まずはやってみる」を前提に条件交渉をする(条件交渉型)
メリット:「絶対無理」という思考から、「こうならできるかも」へのシフトを促せる。
デメリット:交渉ばかりがクセになり、「毎回値切る人」になるリスクがある。
注意点:「やること」は固定し、「期限」「優先順位」「サポート内容」といった交渉可能な要素を明確にして話す。
4.小さな成功体験を意図的に積ませる(自己効力感強化型)
メリット:「やればできた」という実感が「とりあえずやってみる」マインドを育てる。
デメリット:短期的には、あえて簡単な仕事を多く割り振る必要があり、ほかのメンバーの負担感を生む場合がある。
注意点:成功したポイントをその都度、言語化して伝え、「自分でもできる」が本人の言葉になるよう支援する。
5.あえて任せない・機会を渡さないことで気づかせる(機会コスト可視化型)
メリット:「無理と言い続けると、任されるチャンスが減る」という現実を体感させられる。
デメリット:放置と紙一重で、そのまま本当に埋もれてしまう危険がある。
注意点:単に外すのではなく、「今回は〇〇さんに任せる。次、似た案件があれば任せたいので、そのときは『やります』と言えるように準備しておいてね」と、意図と期待を言葉にしていく。
時間がかかっても、できる一歩を模索する
1.「背景傾聴型」と4.「自己効力感強化型」を組み合わせてみるのはどうでしょうか。「できません」「無理です」と言われたとき、その言葉を正面から論破しようとするのではなく、「そう感じるのには、どんな理由があるのか」と、穏やかに背景を聞きます。
時間なのか、スキルなのか、過去の失敗経験なのか、あるいは単に手順をイメージできないだけなのか、ここを曖昧にしたまま「いや、できるでしょ」と押し返すほど、部下は心の中でますます「やっぱり無理だ」と固まっていきます。
背景が見えてきたら、「全部を完璧にやるのは、たしかに難しいね。じゃあ、まずここだけ一緒にやってみようか」と、達成可能な一歩を切り出します。その一歩をやり切れたら、「あのとき〇〇を工夫していたね。そこがうまくいった理由だと思うよ」と、行動と結果をセットで具体的に承認します。
この小さな成功体験を積み重ねると、「できません」が「条件が整えばできるかも」に変わり、やがて「まずやってみて、無理なら相談しよう」というスタンスに変化していきます。大事な点は、「できないと言うな」と禁止するのではなく、「どうすればできる側に近づけるか」を一緒に考えるパートナーとして関わることです。
上司の役割は、「無理」を叱りつけて消すことではなく、「できるかもしれない」に変換するプロセスを支えることだと考えます。
部下がすぐに「無理」と言う本当の理由
「できません」とは、なんでしょうか。それは「失敗したくない」「傷つきたくない」という不安を、「先回りして封じ込めようとする、ひとつの自己防衛行動」ではないかと思うのです。
多くの上司は、「すぐに無理と言う部下」を見ると、「やる気がない」「根性が足りない」というラベルを貼りたくなります。しかし、その瞬間、私たち自身もまた、「この人は変わらない」という別の意味での「無理だ」を心の中で宣言してはいないでしょうか。
認知行動療法の視点で見ると、「できません」は事実ではなく、その部下の「思い込み(解釈)」にすぎません。「今の自分には荷が重い」「失敗したとき責められそうだ」「前に似たことでうまくいかなかった」といった記憶や不安が混ざり合い、「できません」という一言に凝縮されていることが多いです。
上司側としても「どうせあの部下はいつも無理だと言う」という見方も、同じように偏った認知かもしれません。本当は、「十分な説明を受けていない」「優先順位が不明瞭」「過去にがんばったのに評価されなかった」など、上司が気づいていない要因があるのかもしれません。
つまり「部下の無理」とは、部下だけの問題ではなく、「部下の不安」と「上司の期待」が複雑に絡み合ったメッセージとも捉えられるのではないでしょうか。
今一度、自らに問い直したい。自分は部下の「できません」の裏にある理由を本当に知ろうとしているだろうか。それとも、その一言だけを聞いて、「やる気のない人」という、自分にとって都合のいいラベルを貼り、実は自分の「無理です」を正当化していないだろうか。
吉田 直実
なおみ税理士事務所 代表
元国税職員/一般社団法人日本推進カウンセラー協会認定 認知行動療法士

