朝ドラの恋バナ、「りくりゅう婚約」すら批判の的に…日本人が恋愛や結婚を”ノイズ”と嫌うようになったワケ
恋愛ドラマが流行らなくなった。という印象を抱いている人は少なくないだろう。いまや「月9」も「火10」も恋愛ドラマから遠ざかり、ヒット作が生まれにくくなった。
そんななか、明治期の看護婦を描くNHK朝ドラ『風、薫る』は、ふたりのヒロインの恋模様を丁寧に織り込んでいる。これは看護をめぐる重いエピソードを中和する仕掛けでもあるが、なかにはこの恋愛要素を「無味乾燥な恋バナ」と切り捨て、「社会の意識を変える気迫がない」と嘆く識者の声も上がった。恋愛を物語の"雑音"とみなす感覚は、いつからどのように広がったのか。
後編では、恋愛が敬遠されるようになった時代の変化について掘り下げる。
前編記事『朝ドラ『風、薫る』の恋バナ展開にアレルギー続出?日本で「恋愛ドラマ」が全くウケなくなった理由』より続く。
「りくりゅう婚約」へのアンチ的反応
ノイズとはすなわち雑音で、よけいなもの、ということだろう。折りしも先日、フィギュアスケートの日本人ペア「りくりゅう」こと三浦璃来と木原龍一が婚約を発表。それに対する反応が祝福だけではなかったことが話題になった。
アンチ的な反応のなかには「純粋なスポーツとして楽しんでいたのに」とか「イチャイチャを見せつけられていたみたいでモヤる」みたいな声が目立つ。
あと、アイドルの恋愛や結婚、あるいはすでに子供がいました的な事例にも「推していたのに裏切られた気分」といった不満が出たりする。こちらはいつの世でもあることだが、昔なら、なんだかんだ言っておめでたいことだからと、最後は肯定的に受け止めるということがもっぱらだったはずだ。
要するに、恋愛や結婚、出産の価値が下がってしまったのだろう。そこに価値を見いださない人にとって、そういうものは現実にせよフィクションにせよ「ノイズ」のようにしか感じられない、というわけだ。
“恋愛や結婚”が必修科目から選択科目になった
ドラマについていえば、半世紀以上前に大ヒットした『ありがとう』(TBS系)シリーズというものがある。全部で4作品が放送され、最高視聴率は50%を超えたというホームドラマの金字塔だ。
ただ、このシリーズ、じつは恋愛ドラマでもあった。4作中3作は、水前寺清子と石坂浩二が扮する男女が、想いを寄せ合いつつもすれ違いを繰り返しながら最後に結ばれる。回数は1作目が30、2作目が52、3作目が53であり、最近のドラマの3~5倍もの期間、視聴者はふたりの恋愛の成就を見守り続けることになる。
それも、繰り広げられる恋愛はひとつではない。登場人物の多くが誰かのことを好きで、くっついたり離れたり、そうこうするうち、最終回近くには結婚が相次いだりする。
なぜそうなるかというと、当時、家族と恋愛、結婚、出産は密接につながっていたからだ。自然な恋愛が無理なら、見合いをして、そこから恋愛や結婚、出産にこぎつけていく、というのが当時の常識であり、倫理ですらあった。それゆえ、ホームドラマと恋愛ドラマが両立するのもむしろ必然だったわけだ。
しかし、今はそこまで家族にこだわらなくても生きていけるし、恋愛や結婚、出産を強制しないことが常識かつ倫理になっている。いわば、必修科目から選択科目に変わったようなものなので、興味がなければパスできるわけだ。
そんな時代に恋愛ドラマを作っても、大ヒットは望めない。需要が縮小したぶん、王道をやってもかつての王道のような数字はついてこないし、過激な方向に走れば王道を期待する層が逃げてしまう。そもそも、ドラマのようなフィクションは疑似体験の場でもあるが、将来やるつもりがないことを疑似体験したい人は少ないはずだ。
恋愛に不向きな善悪二元論
また、筆者の体感として、最近は物事を善悪で考えたい人が増えた気がする。政治家や芸能人のスキャンダルをめぐる反応に顕著な傾向だが、恋愛は本来そういう善悪の二元論ではわりきれないものだ。そういえば、前出の識者による『風、薫る』批判(「このドラマで社会の意識を変えてやろうという気迫を受け取れない」)にも、物事を善悪で考えたい姿勢が見て取れる。そんな姿勢と恋愛は相性がよくないのだろう。
ただ『風、薫る』がそうであるように、現代が舞台でなければ恋愛も案外描きやすいのかもしれない。
昨年、話題になった『波うららかに、めおと日和 』(フジテレビ系)も昭和初期の話だったし、もっと言えば大河ドラマも恋愛に積極的だ。
今年の『豊臣兄弟!』では、主人公の豊臣秀長をめぐる異性関係にも力点が置かれている。最初の結婚では、幼なじみとの純愛と悲劇的な別れが、二度目の結婚では、心に傷を持つ相手との衝突と相互理解が、どちらも深い印象をもたらすことに。また、8月30日放送の第33話では、柴田勝家と市の夫婦心中のような最期が視聴者をざわつかせた。
これは過去設定のほうが自由にやれる、ということかもしれない。ただ、少子高齢化現象の歯止めのためにも、現代モノの恋愛ドラマの巻き返しに期待したいところだ。
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