「朝のごみ出し」がない街…福岡市が全国で唯一行う「夜間収集」が他都市で導入できない理由
ごみ出しといえば朝の家事。そんな、多くの地域での常識が通用しないのが、政令指定都市で唯一、夜間のごみ収集をしている福岡市だ。
福岡市では、ごみは決められた日の日没から夜12時までに出すことになっている。これによって、朝の忙しさが軽減され、ごみ収集車が夜間走ることで日中の渋滞緩和にもつながっている。
東京に16年住んで、数年前に地元福岡に戻ってきた筆者も、朝のごみ出しがないありがたさを噛み締めているところだ。
前編『政令指定都市で唯一、夜に「ごみ収集」を行う福岡市に聞いた意外なメリット…「騒音苦情」はあるが』では、市に運営上のメリットとデメリットを聞いた。
では、なぜ福岡市では夜間収集が定着したのか?
他の自治体に大きく広がらない事情は? そこには、70年近く前の社会情勢と、長い時間をかけて定着してきた歴史があった。
「朝にごみを出す」は当たり前じゃない? 福岡市の夜間収集、その始まり
現在福岡市は、政令指定都市で唯一、全市域(離島を除く)で夜間にごみ収集が行われている。これにより、次のような声が寄せられていると福岡市環境局の収集管理課・課長の千綿啓介氏は言う。
「市民の方からは『寝る前にごみを出すことができ、朝には収集が終わっている』『忙しい朝にごみを出さずに済むので便利』という声をいただいています」(福岡市環境局・千綿氏。以下同じ)
この他にも、ごみ収集車が日中走行しないことによる渋滞の緩和もメリットとして挙げられる。
また、ごみを昼間に収集する地域では、カラスがごみをあさり、周辺にごみが散らばって悪臭が広がっている光景も多いだろう。
夜間収集ならば、カラスの活動が始まる早朝より前にごみを収集してしまうため、街の美観維持にも一役買っているのだ。
福岡のごみ収集は市制施行以前から? 「朝の収集」だった意外な歴史
福岡市の夜間ごみ収集への本格的な移行が始まったのは、今から70年前の1957年(昭和32年)頃。しかし、当地のごみ収集の歴史は市制が施行される1889年(明治22年)以前に遡るという。
「この地域でのごみ収集は、市制施行以前から民間の担い手によって行われており、専門の業者ではなく農家の方や他に本業を持つ方による兼業での実施でした。当時は、農作業が始まる前、朝の時間での収集だったようです」
農家などが中心となって収集されたごみは、肥料や家畜の飼料として使われていたという。その後、1891年(明治24年)に福岡市は「掃除定則」を制定。市として正式にごみの収集を民間に委託する制度が始まった。
東京23区が本格的に民間に委託を始めたのが、2000年(平成12年)以降であるように、ごみ収集は自治体が直営で行うことが、近年まで一般的だったのだ。
それを鑑みると、福岡市は夜間収集だけでなく、収集の形態も先進的であったと言えるだろう。
なぜ「朝」から「夜」へ? 自動車と人口増加が変えたごみ収集
では、収集の時間帯が夜間に移行したのはいつ、どのような背景だったのだろうか。そこには、社会情勢の変化に対応する自治体の考えがあった。
「1950年代に入ると、自動車の普及率が上がり人口も増加しました。それに伴って、交通量とごみの排出量も増えたことから、交通への影響を避け、効率的に収集するため、収集時間を早朝から夜間へ徐々に移行していきました」
なお、それまではごみ収集に馬車が用いられることも多かったが、まだ街灯の設置もままならない時代、闇夜に馬を走らせるのは現実的ではなかった。
それが、この時代になってオート三輪車が使われるようになってきたことも夜間収集への移行の後押しになったのだ。
市民にとっては便利な「夜のごみ出し」だが、その始まりは市民の利便性向上というより、増え続ける交通量とごみへの対応だった。
なぜ福岡では続いた? 夜間ごみ収集が定着した「もう一つの理由」
自治体にとっても市民にとってもメリットの多い夜間のごみ収集。他の地域に広がりを見せてもいいように感じるが。
障壁となっている一つは、前編の通り「夜間の勤務体制での人材確保」。しかし、そのほかにも導入のハードルはあるようだ。
「福岡市では、夜間収集へ『徐々に』移行してきた経緯があります。その結果、夜間収集が市民及び収集業者に定着しています。こうした経緯も、夜間収集を継続できている重要な要素だと思います」
こうしたことも踏まえ、他の自治体では既存の収集体制の大きな変更は難しいと考えているケースが多いようだ。
福岡市の夜間ごみ収集は、最初から市民の利便性を目的に始まったわけではない。人口やごみの増加、交通事情の変化に対応するため、1950年代から徐々に夜間へと移行してきたものだ。
その後、長い時間をかけて市民生活に定着したことで、現在では「夜にごみを出す」ことが福岡の当たり前になっている。その歴史を振り返ると、福岡の街が変化するたびに、ごみ収集のあり方もまた変わってきたことがわかる。
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