女性に多い難病「多発性硬化症の初期症状」はご存じですか?受診の目安も医師が解説!
多発性硬化症は、脳や脊髄、視神経などの中枢神経の髄鞘(ずいしょう)が炎症で壊れる指定難病で、20~30歳代を中心に発症しやすい病気です。初期症状は片目の見えにくさや手足のしびれなど幅広く、数週間で自然に軽くなることも多いため、疲れのせいだと思われがちです。この記事は、初期症状の現れ方と再発の特徴、受診の目安、間違えやすい病気を解説します。
この記事のまとめ
多発性硬化症の初期症状は脱髄が起きた場所によって異なり、視神経炎による視力低下、脊髄障害によるしびれや運動麻痺、脳幹・小脳の障害による複視や歩行障害などがみられます。症状が軽く数週間で自然に軽快することも多いため見逃されやすく、片目の見えにくさに目の奥の痛みを伴う、しびれや脱力が24時間以上続くなどの場合は脳神経内科の受診が勧められます。再発を重ねるごとに後遺症が蓄積するため、診断後は早期に再発予防の治療薬を始めることが大切です。
監修廣瀬 正和
京都大学医学部を卒業後、大学病院勤務を経て市中病院で脳神経内科医として5年間従事しました。専門医取得後、母校大学院で研究を続けています。
【資格、専門医等】
日本神経学会神経内科専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、日本脳神経超音波学会超音波検査士
【診療科目】脳神経内科、一般内科※
一般内科には呼吸器、消化器、循環器、膠原病、アレルギー、腎臓、血液、内分泌、神経、救急の領域、また一部の皮膚科や耳鼻科や泌尿器科の疾患などを含みます
多発性硬化症の初期症状

多発性硬化症の初期症状は、脱髄が起きた場所によって大きく変わります。病気の成り立ちと、よくみられる症状を解説します。
多発性硬化症とは
神経線維は電線と似た構造で、軸索(じくさく)と呼ばれる芯のまわりを髄鞘という膜が絶縁体のように覆っています。多発性硬化症は、脳・脊髄・視神経でこの髄鞘が壊れる脱髄(だつずい)が起こり、神経の情報伝達がうまくいかなくなる病気です。国内の患者数は約2万人、平均発病年齢は30歳前後で、男女比はおよそ1対2~3と女性に多くみられます。
初期に現れやすい症状
初期症状は、病巣ができる場所によって大きく異なります。視神経なら視力低下や視野の欠け、脊髄なら胸・腹・手足のしびれや運動麻痺、排尿・排便のトラブルが現れます。脳幹の障害では物が二重に見える(複視)、顔がしびれる、小脳の障害ではまっすぐ歩けない、手がふるえるなどの症状が出て、多くは数日から数週間かけて悪化します。
視力障害(視神経炎)の特徴
初期症状として多いのが視神経炎です。片目が暗い、かすむ、見えない場所があるといった変化が数日かけて進みます。多くは片眼だけに起こりますが、ときに両眼同時に生じます。また、症状が出る前や出ている間に、目を動かすと目の奥が痛むこともよくあります。
感覚障害や運動障害の現れ方
感覚の症状は手足のしびれ、胸や腹を帯で締めつけられる感覚として出現します。また、運動の症状は力が入りにくい、歩きにくいという形で自覚されることが多いです。
入浴などで体温が上がると一時的に症状が悪化するウートフ現象、首を前に曲げると背中から手足に電気が走るレルミット徴候も、多発性硬化症でよくみられます。
多発性硬化症の再発と寛解の特徴

多発性硬化症の多くは、症状が現れる再発と、落ち着く寛解を繰り返しながら慢性に経過します。どのような経過をたどるのかを解説します。
再発寛解型がたどる経過
医学的な再発とは、中枢神経の急性の炎症性脱髄によると考えられる症状が24時間以上続く急な悪化で、発熱や感染症を伴わないものを指します。数日で悪化した後、自然に軽くなる経過が多く、この型を再発寛解型と呼びます。
再発寛解型の約半数は、発症後15~20年で、再発がなくても障害がゆっくり進む二次性進行型へ移行するとされています。
再発の回数と症状の進み方
再発の頻度は個人差が大きく、年に3~4回の方から数年に1回の方までさまざまです。一般に発症後の数年に集中し、経過が長くなるほど年間の再発率は減っていきます。
病初期の再発は回復しやすいものの、再発を重ねるうちに、少しずつ後遺症が残るようになります。
多発性硬化症の初期症状が見逃されやすい理由

多発性硬化症は、症状そのものが軽い場合、また自覚症状がなく画像でしか異常がみつからない場合に、診断まで長い時間がかかってしまうことがあります。
症状が軽く回復しやすい
多発性硬化症の初期の症状は数週間から数ヶ月で自然に軽快することが珍しくありません。そのため片目の見えにくさは疲れ目、手足のしびれは寝ちがえのせいと解釈され、受診しないまま放置されてしまうことがあります。
軽くても数日以上続いた症状は、治まった後も、いつ、どこに、どのくらい続いたのかを記録しておくとよいでしょう。
MRIでしか見つからない病巣もある
脱髄が起きた場所によっては、まったく自覚症状が出ないことがあります。MRI検査では、症状の原因となっている病巣に加えて、こうした無症候性の病巣までみつけられます。
初めて症状が出た段階は臨床的孤発症候群(CIS)と呼ばれます。この時点で脳のMRIにある病巣の数が多いほど、その後に多発性硬化症へ進む可能性が高いと報告されています。
多発性硬化症の初期症状に気付いたときの対応

気になる症状が出たとき、いつ、どの科に相談すればよいのかを解説します。
受診を検討すべきサイン
片目の見えにくさに目の奥の痛みを伴う、手足のしびれや脱力が24時間以上続くといった症状は、中枢神経の障害を疑うサインです。物が二重に見える、まっすぐ歩けないなども同じです。
多発性硬化症を専門的に診察しているのは脳神経内科です。近くにない場合は、かかりつけの医師から紹介が必要になる場合もあります。過去に似た症状が出て自然に治まったことがあれば、その時期と内容も伝えるようにしましょう。
早期に治療を始める意義
多発性硬化症は、診断がついたらできるだけ早く再発予防の治療薬を始めることがすすめられています。後遺症は再発のたびに積み重なるため、蓄積する前に治療を始められるかが、その後の身体機能を左右します。
再発時にはステロイドを大量に点滴するステロイドパルス療法、寛解期には疾患修飾薬(DMD)を用い、ライフステージに応じて薬を選びます。
多発性硬化症と間違えやすい病気

多発性硬化症は、初期症状が似ていて、しかも治療方針が大きく異なる病気があります。いくつか代表例を挙げます。
視神経脊髄炎(NMOSD)との違い
視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)は、主に視神経と脊髄を中心に炎症が起こる脱髄疾患であり、血液中の抗アクアポリン(AQP)4抗体が発症に関わっています。視力の低下や手足の麻痺、しびれを、再発を繰り返しながら起こします。国内の患者さんは約6,500人と、多発性硬化症より少なく、女性に多い病気です。
同じ症状でも、NMOSDは再発したときの症状が多発性硬化症より重くなりがちです。再発予防の薬も異なり、誤った治療が再発を招くこともあるため、正しく見分ける必要があります。
似た症状を示すほかの病気
抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(MOG)抗体関連疾患も視神経炎や脊髄炎で発症し、男性や小児にも起こります。また、しびれや歩きにくさ、視力の低下は、脳梗塞や脳腫瘍、頸椎の病気などでも生じます。
そのため多発性硬化症の診断は、まず別の病気ではないと確かめたうえで、MRIや血液検査、脳脊髄液検査、誘発電位検査を組み合わせて総合的に判断します。
多発性硬化症の初期症状についてよくある質問
ここまで多発性硬化症の特徴や初期症状などを紹介しました。ここでは多発性硬化症の初期症状についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
多発性硬化症は若い女性に多いのですか?
廣瀬 正和医師
若い成人の発症が多く、平均発病年齢は30歳前後、男女比は1対2~3と女性に多い病気です。なかでも20~30歳代の女性で特に発症しやすいことが知られています。ただし女性だけの病気ではありません。15歳未満の小児に発症することもあり、若い頃に発症して年をとってから再発する場合もあります。
初期症状が出てもすぐに診断がつくのですか?
廣瀬 正和医師
すぐに確定する場合もあれば、時間がかかる場合もあります。診断には、脱髄が異なる時期に起こる時間的多発と、複数の部位に生じる空間的多発の両方を示すことが必要だからです。
初回の症状だけでもMRIで両者が証明できれば診断できますが、できない場合はCISとして経過をみます。診断がはっきりしないあいだも通院を続けていれば、必要になったときにすぐ治療を始められます。
編集部まとめ

多発性硬化症の初期症状は、片目の見えにくさや目の奥の痛み、手足のしびれ、ふらつきなど、脱髄が起きた場所によってさまざまです。数週間で自然に軽くなることが多く、無症候性の病巣もあるため、初期は気付かれにくい病気です。再発を繰り返すうちに後遺症が積み重なるため、早く治療を始めることがすすめられています。気になる症状が数日以上続いたときや、過去に似た経験があるときは、脳神経内科への受診を検討しましょう。
多発性硬化症と関連する病気
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する病気
視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)
抗MOG抗体関連疾患
急性散在性脳脊髄炎(ADEM)
神経サルコイドーシス
多発性硬化症と関連する症状
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する症状
視力低下視野障害
目の奥の痛み
物が二重に見える(複視)
手足のしびれ
筋力低下
歩行障害
排尿障害
疲労感
参考文献
『多発性硬化症/視神経脊髄炎(指定難病13)』(難病情報センター)
『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』第6章 検査(日本神経学会)
『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』第7章 診断(日本神経学会)
『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』第8章 経過・予後(日本神経学会)
