誰がために国はある

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党大会を欠席する候補者たち

 米国で中間選挙に向けた戦いが本格的に始まった。

 米共和党全国委員会は8月25日、9月9~10日に南部テキサス州ダラスで開催する党大会の概要を発表した。党大会は4年に1度の大統領選挙が実施される年に実施されるのが通常であり、中間選挙の年に開くのは極めて異例のことだ。バンス副大統領が9日、トランプ大統領が10日に基調演説をする予定だ。

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 中間選挙に対する共和党指導部の真剣ぶりが伝わってくるが、「笛吹けど踊らず」の感が否めない。

 米メディアによれば、地元での選挙活動を理由に党大会を欠席する予定の候補者が少なくないという。不人気のトランプ氏と一緒にされては困るというのが候補者の本音なのかもしれない。

誰がために国はある

カナダの貿易摩擦は選挙に逆風

 トランプ氏の最近の言動が共和党に不利に働いているのはたしかだ。

 共同通信は8月30日、米国とカナダの貿易摩擦が、中間選挙で激戦となっている州の共和党候補に逆風となっていると報じた。カナダと国境を接して結びつきが強い州が多く、関税の応酬は地元経済に打撃を与えるリスクが高いからだ。

 だが、トランプ氏のカナダへの攻撃が止まる気配がない。27日に五大湖の一つであるオンタリオ湖の名称をアメリカ湖に変更する大統領令に署名した。

 米国政府は昨年1月、メキシコ湾をアメリカ湾に改称したが、米国民の約3分の2が反対している。今回の措置も国民の支持が得られることはないだろう。

データセンターとAIへの懸念

 人工知能(AI)データセンターに関するトランプ氏の肯定的な態度も問題だ。

 今年3月に実施されたギャラップの世論調査(結果公表は5月)で、米国民の71%が自分たちの地元へのデータセンター建設に「どちらかと言えば反対」または「強く反対」と回答した。データセンター建設により周辺地域の電気・水道料金が上がり、騒音に悩まされるというのが理由だ。

 このような状況を踏まえ、データセンター建設に反対姿勢を示す共和党議員が増加する中、トランプ氏は、大きくて力強く、素晴らしいマネーマシンだと賞賛し、支持を続ける姿勢を堅持している。

 米国でAI恐怖症が広がりつつあるとの指摘も出ている。特にその傾向が強いのが若年層だ。ピュー・リサーチ・センターが8月18日に公表した世論調査の結果によれば、30歳未満の成人の55%が、AIに対して期待よりも懸念を抱いていると回答した。全体でも52%と、2021年の37%を大きく上回った。大規模な雇用喪失につながるとの懸念が背景にある。

イラン戦争と物価高対策に国民の反感

 イラン戦争も共和党にとって悩みの種だ。

 戦争に反対するとのトランプ氏の政治信条は、同氏の人気の中核をなしていた。だが、開戦から半年が経過した今、トランプ氏は中間選挙まで戦争を続けると警告している。

 極め付きは物価高対応だ。

 8月26日に発表された7月の米個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比で3.7%上昇した。上昇幅は6月と同じだった。イラン戦争に起因するガソリン価格の高止まりなどインフレ圧力が根強いことが示された形だ。

 ロイター/イプソスが8月25日に発表した世論調査で、生活費高騰への対応について野党・民主党の取り組みを支持すると回答した有権者は36%と、共和党を支持するとの回答(28%)を上回った。8ポイント差は、昨年10月にこの質問を開始して以来、民主党の最大のリードだ。

過去の政治スタイルを捨て去った?

 国民に不人気な政策をとりつづけるトランプ氏に対し、米メディアは同氏の政治スタイルの変化に注目している。

 米ニュースチャンネルCNNの日本語版は8月26日、「トランプ氏、国民が望むことにはもはや興味なし 支持率は過去最低の33%」と題する論説記事を翻訳掲載した(タイトルは日本版のもの)。

 トランプ氏が2016年に大統領に就任した際、その台頭ぶりはポピュリスト的と評された。だが、それから10年を経て、同氏はこうした政治スタイルをほぼ完全に捨て去り、自身の気まぐれや欲望、さらには個人的な利益や栄誉を優先するようになったというのがCNNの見立てだ。

 大統領が国民の望みを実行しようとしなくなれば、選挙でお灸を据えられるのが世の常だ。だが、トランプ氏の言動に変化の兆しは見えていない。なぜだろうか。

国家非常事態宣言という秘策

 注目すべきは、トランプ氏が秘策を胸に秘めているとの憶測が流れていることだ。

 8月上旬、米保守系YouTubeチャンネルの電話取材に応じたトランプ氏は、司会の男性から「SAVE America Act(連邦選挙改革法案)が成立しなければ、あなたには選挙に関して国家安全保障上の非常事態を宣言する権利がある」との指摘を受けた。そこでの返答が「世の中にはもっと奇妙なことも起きてきたとだけ言わせてもらおう」だったことから、CNNは「選挙をコントロールするために国家安全保障上の非常事態を宣言する可能性を否定しなかった」と報じた。

 この流れを受けて英紙ガーディアンは8月23日、米国社会は懸念と期待が入り交じる状況にあると報じた。

 米国の国家非常事態は、国家的危機などが発生したと判断した場合、1976年に制定された国家非常事態法に定められた権限を大統領が発動する制度だ。歴代の大統領はさまざまな理由で国家非常事態を宣言した。トランプ氏は1期目にメキシコ国境との壁建設や新型コロナウイルス感染拡大への対応のため、2期目も南部国境や貿易赤字、違法薬物などについてこの制度を活用している。

 ガーディアン紙は、トランプ政権は何らかの理由で国家非常事態を宣言して、中間選挙の管理を連邦政府に移管しようとしているとする専門家の指摘を伝えている。ただ、選挙管理の確保の目的で国家非常事態を宣言した前例はない。トランプ氏が共和党勝利のためにこの制度を悪用すれば、米国の民主主義は大混乱に陥ってしまうのではないだろうか。

 同盟国である米国の今後の動向は日本の行く末を大きく左右する。引き続き高い関心を持って注視すべきだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。2026年3月末日で経産省を退職。

デイリー新潮編集部