資源管理が奏功し豊漁となっている近海の本マグロ(魚市場関係者提供)

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 秋の味覚・サンマは歴史的な不漁によって、同じくスルメイカやアキサケも漁獲不振の影響で高値が続いている。温暖化に伴う海水温の上昇など、日本近海の魚が品薄高となっているのは仕方がない面もある。しかし、本マグロ(クロマグロ)は近年、各地で獲れ過ぎて漁師が網から逃がすほど豊漁だ。たくさん獲れるなら安く食べられるはずだが……。果たして、国産、天然、それも生の本マグロを気軽に食べられる人はそれほど多くないはず。それは一体なぜか。現状をリポートする。【川本大吾/時事通信社水産部長】

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 太平洋における本マグロの資源管理策について話し合う国際会議が8月18日、オンラインで開催された。そして、来年、再来年の大型本マグロ(30キロ以上)の漁獲枠(TAC)を現行より25%拡大することで合意に至った。これに伴い日本の漁獲枠も今後、増枠が予想される。

資源管理が奏功し豊漁となっている近海の本マグロ(魚市場関係者提供)

 太平洋の本マグロについては、かつて乱獲によって資源が悪化。マグロを増やそうと日本をはじめ関係漁業国は2015年から、先行きの資源動向に重要な小型魚(30キロ未満)の漁獲枠を半減させる規制策を導入し、資源を回復させてきた経緯がある。この管理策が奏功し、今、日本海を含む太平洋の本マグロ資源は、増大傾向にあるとみられている。

天然マグロの漁獲量は“10年で2倍”に

 良好な本マグロ資源を反映し、実際の漁獲高も順調に推移している。農林水産省がまとめた海面漁業・養殖業生産量によると、太平洋をはじめとした日本の天然マグロ漁獲量は、2025年が約1万5000トンで10年前(15年の約7600トン)に比べほぼ倍増。7年連続で前年水準を上回っている。

 ただ、このところの本マグロの豊漁は、各地の漁師を悩ませる状況にもつながっている。厳しく漁業管理が敷かれている現状で、本マグロを狙って漁獲する一本釣りや延縄、巻き網漁については、他の魚を獲るよう漁場を変えたり、操業を控えたりすることで漁獲上限を超えないよう調整が可能だ。ところが、特定の漁場に網を設置し、多魚種を迎え入れる定置網は、本マグロだけを避けることはできない。

 これまで新潟県の漁業関係者は「TACを超えてしまうため本マグロは獲りたくないが、網に入ってしまうため、海に逃がさなければならない。その間、別の魚も網から出てしまうことがあり困っている」と嘆いていた。

 本マグロの豊漁が、他魚種の漁獲にも影響を与えている状況は、他にもある。青森県のイカ漁師は、「近海のマグロが増えて餌にされているため、まったくスルメイカが獲れなくなった」と、本マグロの捕食がスルメイカの不漁につながっているとの見方を示す。

 本マグロの豊漁は、今や人気の海洋レジャー「マグロ釣り」にも影響をもたらし、ここ数年、釣りができる期間や採捕制限、罰則などが次第に強化されている。

豊漁でも流通に乗りにくい理由

 近海本マグロの資源がV字回復の傾向を示し、各地で豊漁となっているのなら、その恩恵が広く消費者に行き渡っていいはずだ。ところが、実際にはそうならない事情がある。

 かつて遠洋マグロの漁師として活躍し、今は築地場外市場の鮮魚店「まぐろのみやこ」を営む石村為則社長は、「どこかの定置網や巻き網で本マグロがたくさん水揚げされても、安定供給を求める都市部のスーパーなどの流通には乗りにくい」と指摘する。

 地方の漁港で近海の本マグロが大量に水揚げされれば、地元の寿司店をはじめとした料理店、あるいは鮮魚店が仕入れて提供されるものの、すべてを消費できないケースもある。となれば、需要が見込める東京など大都市へ送り、大量消費といきたいところだが、大手をはじめスーパーのマグロといえば、遠洋漁場で獲られ漁船で凍結処理された「冷凍メバチマグロ」(冷バチ)である。

 国産・天然・生の本マグロでは、青森県大間産などが高級マグロの代名詞となっているが、そうしたブランド力が高いマグロは、主に一本釣りで水揚げした直後から、漁船上で丁寧に血抜きなどの鮮度を保つ処理がなされ、東京など大都市の魚市場へ出荷される。これに対し、巻き網や定置網で大量に水揚げされる本マグロは、水揚げ前に漁網の中でマグロ同士がぶつかって劣化してしまう。

 数百本もの生の本マグロが水揚げされれば、漁船上はもとより漁港でも1本1本丁寧な処理ができない。石村社長は、「本マグロと言っても、どのような状態で運び込まれるか、到着してみなければ分からない」と指摘する。

「冷バチ」品薄高で「戻りガツオ」に脚光

 こうした大量の国産本マグロに比べ、スーパーが主に取引する冷バチは、遠洋漁場で漁獲され、漁船に搭載されたマイナス60度の超低温冷凍庫に入れられ、鮮度が維持される。帰港後、静岡県の焼津や清水港、さらに神奈川県の三崎港で取引され、冷凍庫に移されるため、鮮度が保たれるだけでなく、生のマグロと違って必要な時期に出荷できる。

 安定的な仕入れ・販売が可能で、解凍して店頭に並べられ、新鮮なマグロとして提供できるため、スーパーのマグロは、冷バチ一択となるわけだ。

 ところが冷バチは今、かなりの高値となっている。時事通信社の調査によると、東京・豊洲市場における冷バチのうち、スーパーの扱いが多い「中バチ」(主に40キロ未満)の今年8月下旬の中心値(卸値)は、1キロ当たりおよそ1300円。昨年(同約1050円)、一昨年(同約750円)と、次第に値を上げている。

 高値の要因は、「燃油高により遠洋漁船の操業が控えられているため、数が減って相場は上げ基調」と、マグロ団体幹部。厳しい仕入れ状況から、「スーパーでは流通価格がメバチよりも安いキハダを探すケースもある」と、魚の流通に詳しい水産アドバイザーは指摘する。

 本マグロが豊漁でも広域的な流通は期待できず、さらに普及品の冷バチが高値となっているだけに、「今は比較的カツオが安くて狙い目」(水産アドバイザー)という。美味しい刺し身が食べたくなったら、マグロよりも秋の「戻りガツオ」を試してみるのもいいかもしれない。

川本大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長。1967年、東京生まれ。専修大学を卒業後、91年に時事通信社に入社。長年にわたって、水産部で旧築地市場、豊洲市場の取引を取材し続けている。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)。『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文藝春秋)。最新刊に『国産の魚はどこへ消えたか?』(講談社+α新書)がある。

デイリー新潮編集部