兵庫県が起債許可団体となり、幹部会議で全庁一丸の改革と節約を呼びかける斎藤元彦知事=2026年8月28日(写真は筆者、以下も)


財政悪化に苦しむ兵庫県は、8月18日に県債発行に国の許可が必要な「起債許可団体」に転落した。斎藤元彦知事は、カラーコピーの原則廃止やペーパーレス化、出張費削減といった当面の経費節減策を示し、来年度からは公共投資の10%削減にも踏み切る方針だ。しかし、抜本的な改善にはほど遠く、県職員の人件費削減は避けられないとの見方も出ている。財政悪化の責任について斎藤は「前知事の負の遺産」とする。総務官僚出身で複数の自治体で財政課長を務めた経験から、“財政のプロ”とも称されてきた斎藤だが、2021年の初当選からはや5年。その間、何をしてきたのだろうか。

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前知事体制の「闇」を強調、自らは改革者を演じる

〈兵庫県は、震災により大きな借金を負いましたが、その後、過大な公共投資、分収造林事業や基金集約など、不透明な財政運営や不適切な財政手法を重ねてきました。(略)その象徴が、総務省から地方財政法違反を指摘された用先債の事案です〉

 県債の発行に国の許可が必要な「起債許可団体」となり、総務省に「公債費負担適正化計画」を提出した8月27日の夜、兵庫県の斎藤元彦知事はXにこう投稿した。翌28日に県庁で開いた幹部会議でも、全庁一丸の改革と節約を呼びかけた後、やはり用先債※1問題の検証と再発防止を強調した。

※1:公共用地先行取得等事業債。将来の事業に必要な用地を先行取得する目的で発行する地方債

 この問題は、井戸敏三前知事時代に行われた不適切な会計処理のこと。県は用先債490億円を発行して土地を取得。その後に生じた売却収入338億円を返済に充てるべきだったが、返さずに490億円全額を借り換えていた。その資金を将来の借金返済に備える「県債管理基金」に積み立て、実質公債費比率※2を実際よりもよく見せていた、というもの。毎日新聞の取材で今年7月に発覚。これを是正すると同基金の残高が減り、実質公債費比率が最大0.8ポイント悪化する。

※2:自治体の収入に対する借金返済の割合を示す財政指標。3年平均で18%以上になると「起債許可団体」、25%以上で破綻一歩手前の「早期健全化団体」となる。兵庫県は2025年度決算で19.2%

 兵庫県は、前知事時代の2007~11年度にも起債許可団体になっていた。その間の08年度から11年間にわたる大規模な行革を進め、職員3割削減、給与カット、公共投資や事務経費の抑制などを行った結果、実質公債費比率は改善した。だが、斎藤が就任した2021年度以降、再び悪化し続けている。

 斎藤は、その原因が過去の「負の遺産」にあると繰り返し主張し、用先債問題こそが前県政の「不透明な財政運営や不適切な財政手法」の象徴だとして追及姿勢を強める。井戸への聴取も辞さない構えだ。

 しかし実際は、用先債問題の財政への影響は限定的だ。それがなかったとしても、2032年度には実質公債費比率が25%を超え、破綻一歩手前の「早期健全化団体」になるという試算を県財政課が7月の県議会総務常任委員会で示している。当時は違法性の認識がなかったとも説明し、県の有識者会議も「過去の検証は一定必要だが、今後の行財政改革に重点を置くべき」と指摘する。つまり、不適切な処理があったにせよ、財政悪化の本質的要因ではないというわけだ。

 それを過大に取り上げ、前知事の責任を追及する斎藤の主張は論点のすり替えであり、責任転嫁だろう。20年にわたった前知事体制の「闇」を強調し、これを暴く改革者を演じることで、自らの5年間の財政運営を正当化する。そんな意図が透けて見える。

のしかかる震災復興の財政負担に金利上昇が直撃

 兵庫県が総務省に提出した計画の中で挙げた財政悪化の要因は4つあるが、そこには斎藤が「主な要因」と強調する用先債問題は入っていない。

①阪神・淡路大震災で生じた財政負担と、その影響による県債管理基金の積み立て不足
②財政規模の近い府県と比べて1.2倍に上っていた土木・建設などの公共投資
③長期金利の上昇による公債費(県債残高の利子負担)増加
④臨時財政対策債の償還差(交付税措置額)の縮小

 まず、31年前の震災で復旧・復興のために1.3兆円もの県債を発行した影響という構造的問題が大きい。東日本大震災では国が全額負担したが、阪神・淡路の当時は自治体の負担となっていた。現在の震災関連県債残高は853億円。その返済などのために県債管理基金を取り崩してきた結果、慢性的な積み立て不足となり、不足額は約4000億円に上っている。

 井戸は県債管理基金に他の基金を集約し、実質公債費比率を抑制していた。県民サービスを保つための「テクニック」「やりくり」とも言われるが、斎藤は「財政の見える化」を掲げて、これを取りやめた。さらに、長らく破綻状態だった「分収造林事業」などを一気に清算し、その処理にも巨額を要した。その結果、基金残高が一気に減り、財政指標が悪化したわけだ。

 そこへ長期金利の上昇が拍車をかけた。斎藤が就任した2021年は0.093%だった10年国債金利は25年には1.495%に上がった。それに伴い県債の発行利率も上昇。「多額の県債残高を抱える本県は、今後、多額の利子負担が発生する見込み」と県の資料は説明する。

 一方、斎藤県政の5年間を通じて県税等の収入は過去最高を更新し続け、25年度決算では1兆280億円と初めて1兆円を超えた。実質収支も黒字が続く。県はこの黒字分を「財政調整基金」※3に積み、21年度の33億円から最大236億円まで増やした。これは、新型コロナ禍の中で就任した斎藤の公約であり、24年の出直し選では財政改善の証しだと盛んにアピールした。

※3:年度間で生じる財源の不均衡や災害などの臨時的支出に備えて、積み立てておく基金。いわば「自治体の貯金」

 だが、県税収入の伸びは企業業績の好調が主な要因であり、斎藤の財政運営の成果ばかりではない。ここでも用先債の件と同じく、本質から目先を逸らそうとしている。

 兵庫県財政を家計にたとえるなら、緊急時に備える貯金は多少増えたものの、ローン返済用の資金が大幅に不足し、中長期的に破産のリスクを抱えている、ということになる。

県立大無償化、万博…肝いり事業には多額を投入

 こうした構造的な問題は斎藤も当然認識していた。最初に就任して4カ月後の2021年12月には「行財政運営方針の見直し」の記者会見を開き、こう述べている。

「一番強調したいのが実質公債費比率。令和3年度からどんどん上がっていく状況にあり、18%を超える水準にあと数年で到達してしまう。ややもすれば若干上振れしただけで、(早期健全化団体となる)25%を超えるリスクも顕在化してくる」

「県債管理基金の残高が、思っていた以上に不足していた。まずは(公約した)財政調整基金よりも、県債管理基金の残高を復元していくために、少しずつ積み立てを計画的にやっていく」

 財政指標が悪化しても、「県民の皆さんにリアルな姿で示す」情報開示を進めると言い、それは「20年ぶりに着任した知事として、今しかできない判断」だと誇った。だが、前知事の手法を否定することはできても、その先の抜本的な財政改革が進んだかと言えば、成果は乏しい。

初出馬時の政策発表記者会見。「県民目線の行財政改革」の文字がある=2021年6月、兵庫県庁


 計画的に積み増すはずだった県債管理基金は就任時より減少し、先述の通り、深刻な積み立て不足となっている。一方で県立大学無償化(今年度で20.65億円)、万博関連事業(3カ年で45.6億円)など、大阪の維新府政と歩調を合わせて事あるごとにアピールしてきた肝いり事業には、多額の予算を投じながら、まともな事業評価も行わない。

 万博関連事業については、私も会見で繰り返し問うた。

 集客目標に遠く及ばないイベント、期間中むしろ減少した県内観光客、お手盛りの検証報告……。指摘しても、斎藤は一切省みない。「評価はそれぞれ。ご指摘は真摯に受け止める」とテンプレ回答で受け流し、「万博のレガシーをつなぐため観光振興に未来志向で取り組む」と責任を先送りするばかりだ。

維新の推薦を受けた2021年7月の兵庫県知事選では、コロナ禍の吉村洋文・大阪府知事の人気が斎藤の追い風になった


「財政のプロ」だったはずの斎藤は、結果として財政の悪化に手を打てず、今も改善への具体策は示せていない。8月19日の会見では、就任当初を知る関西テレビ記者から厳しい声が飛んだ。

「歳入歳出全般にわたる改革を検討と言うが、何をやるのかという質問には、これからこれからと繰り返す。5年間何をされてきたのか」

県議会議長の呼びかけにも「会いたくない」

「本当に財政のプロなら、議会や市町や職員、多くの意見を聞いて道筋を描いてほしい」

 そう語るのは、今年6月まで県議会議長を務めた自民党の山口晋平県議である。

 自民党県議団が分裂した2021年知事選で、会派を離脱して斎藤を担いだ11人の一人。斎藤とは同い年の親近感もあり、期待したがゆえに厳しい意見も伝えてきた。県議団幹事長だった23年秋には知事室を訪ね、「友人として」苦言を呈したという。

「過去の県政を『負の遺産』と呼ぶのはよくない、と伝えました。県政というのは、知事が代わっても連続している。井戸さん時代の事業も引き継ぎ、財政事情も織り込み済みで知事になったんだから、そんなこと言うべきじゃない、と。知事は『わかりました』と、しばらく言わなくなりましたよ。当時はまだ苦言も聞いてくれた」

 翌24年3月、山口自身にも届いた告発文書の波紋が広がってゆく。パワハラや「おねだり」報道が過熱していた時期、斎藤から「ご心配かけてすみません」と電話があった。山口は、謝罪するよう進言した。「兵庫に対する思いが強すぎて時に職員に強く当たってしまった、申し訳なかったと頭を下げたら、みんな理解してくれる」と。

 しかし、斎藤は頑なに謝罪を拒んだ。「謝ったら負け」という思考回路があるのだろうと山口は推察する。

県議会で答弁する斎藤知事を後ろから見つめる山口晋平議長=2026年2月、兵庫県議会


 斎藤の失職と再選を経て疎遠になったが、25年6月に山口は県議会議長に就任。再度、腹を割って対話しようと会食や面会を打診した。斎藤の支援者を通じて複数回働きかけたが、人づてに返ってくる答えは「会わないと言っている」。理由は「会えば謝るように言われるから」とのことだった。

 それが念頭にあったのか、斎藤は同年9月の記者会見で県議会との関係改善について問われ、「私はあまり会食に行く方ではない。代表質問や一般質問など議会の場でのコミュニケーションが大事」と述べた。ところが実際は、議会でも不都合な質問には正面から答えず、はぐらかし続けた。

 9月県議会の閉会挨拶で、山口が議長の立場から「一部議論が深まらなかった。議会として決して本意ではない」と斎藤に異例の苦言を呈した背景には、そんなやり取りがあった。

他自治体や民間企業への転職者が絶えない…県職員の嘆き

「失敗を恐れず、前例主義にとらわれず、どんどん挑戦してほしい。責任は必ず私がすべて持つ」

 2021年8月2日の知事就任式で斎藤が呼びかけたこの言葉に期待した職員は多い。

 井戸は県政を知り尽くし、県全域に顔が広かった。予算査定は「係長査定」と揶揄されるほど細部まで長時間をかけた。一方で、それが「知事には物が言えない」という閉塞感も生んでいた。井戸の後継ではない若い知事の下で、これまでとは異なる新たな県政になれば、と。

 しかし、期待はすぐ失望へ変わった。5年を経た今では、「財政の健全性」と「知事に対する信頼」が県職員の満足度のワースト1、2位を占め、他自治体や民間企業への転職者が絶えない。

 8月28日の幹部会議で斎藤は、カラーコピーの原則廃止やペーパーレス化、出張2割削減といった当面の経費節減策を示した。自身が予定していたインド出張を取りやめることで、800万円を節約できるという。だが、これらは来年度当初予算で見込まれる約150億円の収支不足をわずかに補うことはできても、最も重要な実質公債費比率には関係がない。

カラーコピー廃止などを含む経費節減策の発表資料。白黒で印刷されていた=2026年8月28日


「実質公債費比率を改善するには、来年度から始める公共投資の10%減だけではとても足りない。結局は職員給与に手を付けざるを得ないだろう。そうなると、また人材流出が進む」と見るのは、財政問題を追及してきた県議の一人だ。

 5年前、斎藤の就任挨拶に期待したというベテラン職員に、こうした状況をどう受け止めているか聞くと、こう漏らした。

「あの“政権交代”は失敗だった。『失われた5年』だったと感じる。それが今後も続くのか」

筆者:松本 創