「勝手に施設でも入ってくれ」預金3,000万円・75歳父の介護を拒絶した48歳息子…親不孝のウラにあった〈悲痛な過去〉【弁護士が解説】
親が特定の子どもに対して「自分の財産を一切相続させない」とする手続きを「相続廃除(はいじょ)」と呼びますが、単なる「親不孝」だけでは認められません。本記事では、弁護士法人山村法律事務所の代表弁護士・山村暢彦氏が、親の介護を拒否した息子と、その息子から「相続権」を奪おうとする父親の事例から、相続廃除について解説します。
48歳息子が介護を拒絶…相続権を奪おうとする〈預金3,000万円〉75歳父
関東地方の郊外で一人暮らしをするシュウゾウさん(仮名・75歳)。主な資産は、約3,000万円の預金と現在住んでいる持ち家です。
数年前に妻を亡くして以来、体調を崩しがちになり、日常生活にも少しずつ支障が出るようになっていました。
シュウゾウさんには、都内に住む一人息子のタカオさん(仮名・48歳)がいます。シュウゾウさんは、タカオさんに実家へ戻って同居し、自分の面倒を見るよう何度も要求しました。
しかし、タカオさんは「親の面倒なんか絶対に見ない。自分の金で勝手に施設でも入ってくれ」と突き放しました。それどころか、お盆や正月にすら実家に顔を見せなくなってしまいました。
「一人息子なのに、親の老後を見捨てるなんて薄情なやつだ。あんな親不孝者に、俺の財産は渡さん!」
怒りからシュウゾウさんは、タカオさんから相続権を剥奪する方法を調べると、そこで「相続人の廃除(はいじょ)」という制度を知りました。
「親の介護を放棄し、長年音信不通にするのは『著しい非行』にあたるはずだ」
しかし、タカオさんが親と距離を置くようになった背景には、父親が語る「親不孝な息子」という主張とはまったく異なる、悲痛な過去が隠されていたのです。
「俺が育ててやったんだ」…長年モラハラを続けた75歳父親の主張
タカオさんは幼いころから、シュウゾウさんによる日常的な言葉の暴力を受けて育ってきました。
シュウゾウさんは自分の思い通りにならないとすぐに怒鳴りつけ、「お前は本当に出来が悪い」「誰のおかげで飯が食えてると思ってるんだ」といった侮辱的な言葉を、タカオさんや亡くなった母親に対して、日常的に浴びせ続けていたのです。
タカオさんが実家を離れたのは、親不孝や薄情だからではなく、長年にわたる父親のモラハラから自分自身の心を守るためでした。
シュウゾウさんがタカオさんに介護を要求してきたときも、「俺が育ててやったんだから、お前が面倒を見るのが義務だろ、この恩知らずが」と暴言を吐いていました。
親の介護を拒否したという理由だけで、長年モラハラを続けてきた父親からの「相続廃除」の申立ては認められるのでしょうか。
【弁護士が解説】単なる親不孝では認められない…「相続廃除」の高いハードル
相続人の「廃除」は、親が「この子には財産を渡したくない」と考えれば簡単に認められる制度ではありません。民法上、虐待や重大な侮辱、その他の「著しい非行」が必要とされ、そのハードルはかなり高いといえます。
実際に廃除が認められた裁判例を見ると、父親に繰り返し暴行して骨折などの傷害を負わせたケース、親の預貯金を数千万円単位で無断取得したケース、犯罪を繰り返して親に長期間の経済的・精神的負担を負わせたケースなど、相当深刻な事情が認められています。また、身体的暴力だけでなく、病気の配偶者への苛烈な言動などが「虐待」と評価された例もあります。
そのため、本件のように「親と同居しない」「介護を拒否した」「長期間連絡を取っていない」という事情だけで、直ちに廃除が認められるとは考えにくいでしょう。まして、その背景に父親からの長年の暴言やモラハラがあり、息子が自分を守るために距離を置いていたのであれば、その経緯も含めて判断されます。
相続廃除は、単なる親子不和ではなく、相続権を奪うほど重大な事情があるかを慎重に判断する制度であり、非常にハードルの高い制度だといえるでしょう。
山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士

