『君の好きは無敵』©TBS

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 王子様が野獣に戻るまで、そう時間はかからなかった。

参考:『君の好きは無敵』の“かわいい”世界観はどう生まれた? 美術チームが語る制作の舞台裏

 キャラクターデザイナーを引退する祖母・門戸鞠子(白石加代子)から贈られた「好きを貫き、大事なものは自分の手で守り抜け」という言葉に背中を押され、杏奈(松本若菜)にプロポーズした瀬尾(佐野勇斗)。『君の好きは無敵』(TBS系)第8話では、そんな瀬尾のまっすぐすぎる思いが、大三島(本郷奏多)に利用されることとなった。

 全日本キャラクターグランプリで好成績を収めたチュエラは、ぬいぐるみの生産が追いつかないほどの人気者に。2035年開催の動物万博の招致アンバサダー候補にも挙がる一方、SNSでは心ないコメントも増え、それに反論しようとする瀬尾に杏奈たちは気が気でない。そんな彼の危うさに目をつけたのが、大三島だった。

 数々の失態によって悪化したMERRYの業績をV字回復させるため、大三島はある大計画に打って出る。記者会見を開き、自らの過ちを認めた上で、MERRYの看板キャラクター・シニカルモルコを幸せにするために、その権利を公開コンペで譲渡すると発表した。

 だが、あの大三島が素直に反省するはずもない。彼の狙いは公開コンペで注目を集め、MERRYの求心力を取り戻すこと。しかも、選ばれた企業が手にする権利には、シニカルモルコの原型である瀬尾の「まんぷくモル子」も含まれる。大三島は、キャラクターへの愛を餌に瀬尾を生放送の舞台へ引きずり出し、さらに彼の“最大の弱点”を突くことで、デザイン瀬尾を蹴落とそうとしていたのだ。大三島の思惑は透けて見えていたが、権利譲渡を「身売りみたいでかわいそう」と憤る瀬尾に杏奈も共感し、2人はシニカルモルコと、まんぷくモル子を救うため、コンペへの参加を決める。

 とはいえ、チュエラが動物万博の招致アンバサダー候補に挙がっている以上、炎上は絶対に避けなければならない。偉そうで敬語が使えず、挑発にもすぐ乗る瀬尾は、いわば制御不能の野獣だ。そこで杏奈たちは、なぜかキッチン迫田の店主・勉(高嶋政伸)まで巻き込み、彼の暴走を防ぐための「瀬尾の補完計画」を始動する。

 最初は乗り気でなかった瀬尾も、杏奈から「補完計画がすべての大前提」と言われ、成功すれば結婚もあり得るのかと、がぜんやる気に。慣れない敬語を覚え、挑発されても怒りを抑える特訓に励む。それでも当日、失敗を怖がる瀬尾に、杏奈は「そしたら私がなんとかします。だから、今日もいつも通りでいいんです」と声をかけた。何があっても自分がなんとかすると言い切る杏奈の頼もしさは、瀬尾にとって何より心強かったに違いない。

 こうして迎えた「シニカルモルコ・プロポーズコンペ」。バチェラーさながらの華やかな演出の中、瀬尾は少女漫画から飛び出してきた王子様のような姿で登場し、普段とは別人のように敬語を使いこなす。

 そんな中、最後の参加者として現れたのが、シニカルモルコのメインデザイナー・川崎玲奈(白本彩奈)だ。「キャラクターは道具ではない」と訴え、権利を経営側から作り手の手に取り戻すために参加したと語る川崎。一見、瀬尾と同じ志を持つように思えたが、「鳴かず飛ばず」と彼を挑発し、まんぷくモル子を邪険に扱う。それでも瀬尾は、杏奈との約束を守るため、ぐっと怒りをこらえていた。

 最終プレゼンでは、業界2位のピースプラスが、300億円を投じてシニカルモルコのアミューズメント施設を世界各地に展開するプランを披露。対する瀬尾は、「我々は、モルコの権利独占を放棄します」と宣言する。それは、補完計画で覚えた「くださる」「たまわる」「いたしかねる」という3つの敬語をもとに、杏奈が練り上げた秘策だった。

 デザイン瀬尾が提案したのは、モルコを必要とする人々に開放する「みんなのモルコ財産化」。自分たちは権利者ではなく“保護者代表”となり、誰かを幸せにするための利用は無料、ビジネス利用ではモルコに“お給料”を支払ってもらう。その収益もすべてモルコの成長に使い、みんなで守り育てていく。それが、デザイン瀬尾の答えだった。

 会場が拍手喝采に包まれる中、川崎だけは「そんなきれい事は信用できない」と反対する。その矛先が向けられたのは、瀬尾ではなく杏奈だった。

 川崎は、杏奈がキッチン迫田を成功させる一方で夫婦を離婚に追いやったと暴露し、彼女には「数字とお金しかない」「キャラクターを愛する心なんてない」と断じる。確かに、当時の杏奈は売り上げを伸ばすことだけを成功と捉え、自分の物差しでキッチン迫田を変えてしまった。店は繁盛したものの、勉が本当に大切にしていたのは、夫婦で一緒に店を切り盛りする日々そのもの。その形を失い、離婚に至った以上、数字の上での成功が2人にとっての幸せだったとは言えない。

 だが、杏奈はその過ちを反省し、チュエラと瀬尾に出会ったことで、数字では測れない「好き」の価値を知った。何を成功とするかは外側の人間が決めるものではなく、本人が大切にする形や思いを守ることもコンサルの仕事なのだ。それでも、過去の失敗が事実である以上、生放送で杏奈の信用を失墜させるには十分だった。

 大三島が見抜いていた瀬尾の“最大の弱点”。それは、ほかでもない杏奈だった。ここまでどれだけ挑発されても必死に耐えていた瀬尾だが、杏奈を傷つけられた瞬間、「おコンを傷つけるやつは絶対に許さない!」と怒りを爆発させる。

 これも、大三島の筋書きどおりなのだろう。おそらく彼は最初からモルコを手放すつもりなどなく、川崎に権利を勝ち取らせ、最終的には「最もモルコを愛するMERRYが守る」という結論に着地させるつもりだった。その過程でデザイン瀬尾まで蹴落とせれば一石二鳥。会社の危機さえも復活のショーに変える大三島の不敵さを、本郷奏多が悪役然とした芝居で際立たせている。

 王子様の仮面は、あっけなく剥がれてしまった。それでも、自分のためではなく、傷つけられた杏奈のために怒れる瀬尾は、やっぱり王子様なのかもしれない。果たして彼は、大三島の罠から“お姫様”を救い出せるのだろうか。(文=苫とり子)