「ラブホからバスローブ姿、タバコ…」でオンライン会見の秋田県課長、懲戒処分を避けられた「4つの分岐点」とは【弁護士解説】
“リラックスした服装だから”。そう言ってカメラをオフにしていた秋田県の課長級職員(55)は、同僚に「可能なら」と促され、カメラをオンに…。
その一操作が、懲戒処分への引き金になる。映し出されたのは、白いバスローブ姿の本人。タバコをくゆらせる様子まであらわになってしまった。
8月6日午後、AIデータセンター誘致をめぐる報道向けのオンライン会見でのことだ。背後の古風なアラベスク柄の壁を見たネットユーザーは「ラブホテルの客室では」とざわめいた。秋田県は14日、この職員を停職6か月と2階級降任の懲戒処分にしたと発表した。
ただ、この“悲劇”には、いくつもの引き返せる場面があった。急な会議に呼ばれ、カメラのオンを促される--その状況は、多くの業務で遠隔での対応が可能になっている今日、多くの人にとって決して縁遠くない。労働問題に詳しい宮寺翔人弁護士に、職員が処分を避けられた分岐点を、会社員の視点も交えて聞いた。
分岐点① 直帰した日、その会議は断れたか?職員は出張から当日午前に帰任し、職場に寄らず直帰していた。その日はもう働くつもりがなかったところに、急きょ会見への出席を求められた。ここで欠席していれば、その後の一切は起きていない。
宮寺弁護士は、「労働者も正当な理由がある場合には残業命令を拒否できる」と指摘。法律や就業規則に反する命令、従えば大きな不利益を受ける命令など、合理性のないものには従う義務がないとした。
そのうえで、本件については「課長職であり、会議出席への要請は強いものだった」との見方を示しつつ、宮寺弁護士はこう続けた。
「急な出席を求められており、参加できない理由を説明した上で、それに正当な理由が認められることであれば、必ずしも会議への出席に応じなければならない義務まではなかった可能性はあります」(宮寺弁護士)
この時点で、正当な理由を告げて出席を断る余地があり、ここが最初の分岐点といえる。
分岐点② バスローブ姿なら、参加を見送るべきだったオンライン会見に出席するとしても、バスローブ姿で臨む必要はなかった。
宮寺弁護士は、服装や髪型は本来「従業員の人格や個人的自由に属する事項」であり、雇用主が規制するには事業遂行上の必要性と、労働者の自由を過度に侵害しない合理的な内容が必要だと解説する。
オンライン会議の服装そのものに法的ルールはない。ただし社内規程に定めがなくても、会議が対外的か社内か、参加者や視聴者、職位、服装が会社の信用に与える影響などを踏まえて是非が問われるという。
宮寺弁護士は「一般的には、社内のオンライン会議であれば服装の規定は緩やかと思われますが、本件は報道向けのオンライン会見であり、バスローブ姿は不適切だったと言えます」と指摘。
「着替える時間的余裕がなかったとしても、本件の状況なら服装を理由に参加自体を拒むか、カメラをオフにし続けるべきだった」との見解を示した。
分岐点③ カメラはオフのままにできたか?露見の直接の引き金は、カメラだった。
本人は「リラックスした服装だから」とオフにしていたが、別の職員に「可能なら」と促され、オンにした。この操作を踏みとどまれていれば、少なくとも映像による炎上は避けられた。
業務中、オンライン会議でカメラをオンにするよう命じられた場合について、宮寺弁護士は「使用者の指示が業務遂行に必要なもので、労働契約・就業規則の枠内にあり、内容が合理的かつ相当であれば、業務命令として従う義務が認められ得る」と解説。
「カメラをオンにするよう促された場面で、これを断るかどうか、業務命令を拒否できるかは会議の性質によると思われます。
たとえば、会議の内容が外部へ漏れてはならないものであれば、第三者の立ち合いがないことを証明する必要があるので、カメラをオンにするのを拒否するのは許されないと考えられます。
しかし、本件の場合は、外部向けの会見であり、バスローブ姿で映ることが不適切で、問題が生じかねませんので、拒否することには正当な理由があったと考えられます」(宮寺弁護士)
最大の分岐点は「嘘」だっただが、宮寺弁護士の解説が示す最大の分岐点は、映像でも服装でもない。その後の調査で職員がついた“嘘”だ。職員は当初「休暇で自宅にいる」とし、聞き取りにも「隣にいた女性は妻」と説明。しかし後の調査で、場所はラブホテル、同席者は不倫相手の女性だったと認めた。
県は職員の処分理由について、虚偽の説明を行ったことなどを挙げているが、正直に言っていれば、処分は軽く済んだのか--。
宮寺弁護士は「懲戒処分の内容は、非違行為の態様・結果、故意または過失、職責、他の職員や社会への影響、過去の行為、日頃の勤務態度、非違行為後の対応等が総合的に考慮される」としたうえで、次のように述べた。
「事実関係が認定され、就業規則等の懲戒事由に該当することを前提とすれば、正直に不適切さを認めた場合と、虚偽説明をした場合とで、非違行為後の態度や調査への対応が異なる事情として量定上考慮される可能性はあります。
もちろん不倫など、職務と直接関係のない職場外の行為であっても、会社の円滑な運営に支障を来すおそれがある場合や、社会的評価に重大な悪影響を与える場合には、懲戒理由となり得ます。
ですが、本件では上記のように、業務に関連する不適切な状況について虚偽の説明を行った点に懲戒事由があると判断されたため、あえて私生活上の行為についてまで踏み込まなかった可能性があります」
直帰後の会議、脱げなかったバスローブ、促されてオンにしたカメラ、そして最後についた嘘。
宮寺弁護士の解説をたどれば、引き返せる分岐点はいくつもあった。急な会議に呼ばれ、カメラのオンを促される場面は、在宅で働く多くの人にとって縁遠いものではない。あなたなら、どこで引き返せるだろうか。

