〈33歳で脳梗塞〉「3週間、両目が見えなかった」東大中退ラッパーを襲った失明と4時間の眼球手術…健康診断嫌いだった男の後悔

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33歳で脳梗塞に倒れ、左目の視力を失ったラッパー・ダースレイダー。健康診断も病院も嫌いだった男が、突然の発症と失明、4時間の眼球手術を経て気づいた「自分の身体を知ること」の意味とは。

【画像】「カニ食べ行こう♪」4時間におよぶ眼球手術中に医師がセレクトしたまさかの曲

『セルフ透析はじめました』より一部抜粋・再構成してお届けする。

病院嫌いの僕を襲ったこと

2010年に僕は脳梗塞で倒れた。33歳の時だ。全く健康診断を受けていなかったため、脳梗塞の直接の原因はわからなかった。このことには結構な学びがあった。データがなければ正確な判断ができないという、当たり前の事実を僕は体験したのだ。

健康診断なんて子供の頃から嫌いだった。ぶくぶく太っていた子供の頃は、体重が増えたことを数値で突きつけられるのが嫌だった。身長が伸びるのは嬉しかったので、親に報告する際には「何センチ伸びたよ!」と自分にとって都合の良い数字だけを言っていた。

身長の伸びもおさまった二十歳以降は健康診断なんて面倒以外の何ものでもなく、病院の対応が原因で(だと僕は強く感じてしまった)父が他界してからは、病院施設そのものから足が遠のくようになった。だが、そんな態度で三十代まで来てしまった挙句に僕は脳梗塞で倒れ、自分の身体に何が起こっているのかもまるで把握できていなかったことがわかった。

病院では、最初は脳神経外科に入院したが途中から内科に移り、その後は糖尿病内科へ移ったが脳神経外科の受診も受け続けることになる。三角関係?四角関係?僕のことでみんな争わないで!僕の脳梗塞の原因は脳神経なのか?内科なのか?それとも糖尿病なのか?こんなところでねるとん気分を味わうことになるとは。

こうなったのも僕の健康データが存在しなかったためだ。僕は態度を改めることにした。さあデータを取ってください!採血もどうぞ!エコーも受けます。MRIもCTもガンガン行こうぜ!

すると、出るわ出るわのざっくざくで悪い数値が次から次に僕の前に突きつけられていく。食事制限は受け入れ、医師が提案する検査や治療も全て受け入れていく受け身スタイルで臨むことにした。これまで健康診断を拒否してきた自分の人生からの逆転の決意。まないたに自ら飛び乗る鯉。さあ、どうぞ。全部見てください!

眼球に血液を送る血管が詰まると何が起きるか

脳梗塞。僕の場合、小脳に繋がる血管が詰まってしまった。結果、三半規管に機能障害が起こりバランス感覚を失った。ぐるぐるぐるぐる。ずっと目が回り続ける。それは荒海の中を小さな船で漕ぎ続けるようなものだった。

毎日吐き続け、吐瀉物を入れるバケツを肌身離さず抱える。バケツは友達。なんとも困難な船出だ。だが人体はすごい。医師の説明によると三半規管は両耳の奥にあり、普段使っているほうが故障するともう一つに機能を移転するようできているという。

そのデータ移行に3週間。10年もののパソコンくらいの遅さでデータが移行されていくというのだ。僕は3週間荒波に揺られ、煽られ過ごし、そしてある日、急に空が晴れ渡り波は凪に変わり、吐き気はピタッと治った。人間すごい!

一気に視界良好。ぐるぐる目が回るのも治った。ところがどうもおかしい。左の視野がぐにゃっとしている。歪んでいる。あれ?

実は脳梗塞は細かく起こっていて眼球に血液を送る血管もいくつかダメになっていたのだ。兆候は以前からあったが、疲れ目なんだろうと自分で決めつけていた。「お前は医者なのか?」映画『レザボア・ドッグス』でハーヴェイ・カイテルがティム・ロスに言ったセリフだ。

僕は医者でもないのに自分の体調不良を都合良く診断していた。左目が見えづらいと思っていたのに、肩がずっと凝っていると思っていたのに、なんだかだるいと思っていたのに大丈夫だと診断していた。医者じゃないのに!

眼球に血液を送る血管が詰まると何が起きるか。これまた人体の不思議なのだが、血液を送るために身体が新しい血管を作るのだ。こうして作られた新生血管は、急拵えのためにすぐ破れてしまう。新生血管が破れるたびにあちこちで内出血が起こる。

この内出血が視神経を傷つけ、それによって左目の視野欠損が起きていたのだ。改めて眼科を受診した結果、僕は左目の中央の視野が欠損していて、現代の医療ではまだ治療できないことがわかった。

右目にも新生血管ができていたが、これはレーザー治療で焼き払うことで進行を止めることができた。このレーザー治療がレーシックの役割も果たしてくれたので、右目の視力はちょっとだけ回復した。ラッキー?

こうして左目の視力を失った僕は眼帯を身につけることになる。左目の中央が真っ白になってしまったため、両目開けていると全体がぼやけてしまう。そこで左目を物理的に隠すことにしたのだ。

どうせ眼帯をつけるならかっこいいほうが良い!と思ったが市販のものはどれも医療用とか海賊コスプレアイテムだ。それなら自分で作ってしまえ!と自分の眼帯ブランドOGK(Original Guntie King)を立ち上げた。

手術中のBGMはPUFFYの名曲

日常的に身につけるアイテムなのでTPOに合わせてコーディネートできたほうが良い。僕のような状況に陥ってしまった人にも役立つかもしれない。史実にも漫画や映画にも眼帯キャラは登場する。眼帯をしているだけでこの人物には何やら過酷な歴史があるぞと感じさせるのだ。三国志の夏侯惇、戦国の伊達政宗、剣客・柳生十兵衛、キャプテンハーロック、刃牙の愚地独歩、エヴァのアスカ。僕も仲間入りだ。深みも含みもある人生も悪くない。

脳梗塞になった翌年には右目も結局出血してしまい、3週間ほど両目が見えない時期を過ごした。左目は白、右目は赤。なかなかめでたくない紅白だ。出血が治らず手術することになったが、脳梗塞を経験しているため全身麻酔は危険だと言われた。眼球に部分麻酔をかけるという。

医師がボールペンを持つ。「ボールペンの先端を見ていてください。決して!決して下を見てはいけません!」。そう言ってボールペンを斜め上の位置に掲げる。瞳を傷つけないように視線を斜め上に向けている隙に下から麻酔針を刺すのだ。わかっている。

わかっているんだけどダメだと言われると見たくなっちゃう。でも見ちゃだめ!きゃー!こんなところで黄泉の国に下ったオルフェウスの心境を味わうとは。心の中で葛藤しながら斜め上を見続けている間に麻酔針を刺してもらえた。

そこから4時間。意識がある状態で眼球の手術が行われた。「おい、そこ水出てるぞ」医師が言う。目から水が出てるのかな?と思ったが患者に意識がある時の隠語だと気づいた。血が出ているのだろう。手術は医師の好みの音楽が流れる中で進んでいく。PUFFYだった。「カニ食べ行こう」と誘われながら僕はずっと横になっている。

顔には布を被せられての4時間の旅だ。手術は無事に成功。視界が開けて久しぶりに鏡で自分の顔を見ることができた。「お、そんな顔してたんだな。久しぶり!」、両目見えていない間は慣れた家の中を移動するのも大変だった。ごはんは妻が全部丼にして前に置いてくれたものを食べた。

一回コンビニに行こうと玄関を出たが、前を通り過ぎる車の音がものすごい轟音で恐怖のため一歩も動けなかった。スティーヴィー・ワンダーとレイ・チャールズを聴いてなんとか勇気をもらった。

文/ダースレイダー

『セルフ透析はじめました』(KADOKAWA)

ダースレイダー

2026年8月20日

2090円(税込)

240ページ

ISBN: 978-4046080189

「受ける」治療から「自ら行う」治療へ。近年注目!セルフ透析のすべて

脳梗塞、糖尿病、腎不全、片目の失明etc.常に病と共に生きてきたラッパーが綴る。
近年話題、「セルフ透析」の記録をまとめたノンフィクション!

2025年9月、週3回・1回4時間の人工透析生活が始まったラッパー・ダースレイダー。
多くの人が「失われる時間」と捉える透析の4時間を、彼は「思考し、創造するためのスタジオ」へと変えていく。
その転機となったのが、自ら治療に主体的に関わる「セルフ透析」という選択だった。

本書は単なる闘病記ではない。
透析導入を先延ばしにしてきた葛藤、初めて「病人」になった実感、セルフ透析の習得に悪戦苦闘する日々、
出張透析でライブを続ける挑戦、そして家族との食卓や仕事との両立まで、リアルな日常を率直に綴るドキュメントである。
医師や看護師、長期透析患者らとの対話を通して、透析医療の現状や可能性も、ラッパーらしいカジュアルな筆致で伝える。

また、セルフ透析の第一人者・櫻堂 渉氏、田端透析クリニック院長・小杉氏、
ダース氏の先輩であり透析歴15年を超えるグレート義太夫氏など、有識者との対談も収録。

人生のモードを「アウトドア」から「インドア」へ。
制約を受け入れるのではなく、制約をハックして新しい自由をつくる―。
本書は、透析患者や家族だけでなく、病気や障害、仕事や介護など、
さまざまな「不自由」とともに生きるすべての人への、新しいライフスタイルを提唱する一冊である。