『ラストノート』20歳差の恋に立ちはだかる現実 “澄晴”寺西拓人の「自分を信じて」が響く
誰かのためにかけた言葉が、巡り巡って自らを救うことがある。
参考:timelesz 寺西拓人の“色っぽさ”は唯一無二 『ラストノート』澄晴に視聴者が惹かれる理由
『ラストノート』第8話では、葵(内田有紀)が周囲の声にのみ込まれ、自分の気持ちを見失いかける。そんな彼女の迷いをほどいたのは、かつて自身が澄晴(寺西拓人)にかけた言葉だった。
これまでは「変化もサプライズももういらない」と、自分の気持ちを飲み込み、現状維持の日々を送ってきた葵。それでも、“大人だから”という理由で諦めるのをやめ、20歳年下の澄晴との交際に踏み切った。
だが、莉奈(桜井日奈子)は「背負えるの? 今から、30の男の未来を?」と葵に迫る。一方、元夫の奥田(徳井義実)は「30の男なんかに50歳の現実を受け止めきれるわけない」と断言。正反対の立場から投げかけられた言葉が、年齢の離れた2人が人生をともにする難しさを突きつけた。さらには、優子(坂井真紀)に促された眞澄(佐々木蔵之介)から、澄晴と別れてほしいと迫られ、葵の心は揺らいでいく。
もちろん、彼らを動かしているのは、葵や澄晴を思う気持ちだけではない。それぞれの言葉には、嫉妬や執着が多分に入り交じっている。けれど、だからといって、その忠告をすべて聞き流すこともできない。30歳と50歳の間には、気持ちだけでは埋められない20年の隔たりがある。2人がこれから直面する現実も、背負うものも、決して同じではないのだ。
その違いを浮かび上がらせたのが、奥田の母親をめぐるエピソードだ。母親が倒れたという連絡を受け、急いで大阪の実家へ向かった奥田。幸い大事には至らなかったが、いざというときに心残りがないよう、大阪の営業所への転勤を希望する。一方、葵は小学生の頃に父親を亡くし、母親もすでに他界していた。「寂しくて壊れそうだった」と話す彼女にとって、親との別れは遠い未来の話ではなく、身に染みて知る痛みだ。
対して澄晴は、眞澄の「俺はもう長くないんだ」という言葉を、自分たちを引き離すための嘘だと決めつけた。眞澄への不信感に加え、母親を亡くしてからも当たり前にそばにいた父親までいなくなる未来を、まだ受け止められなかったのかもしれない。
年齢を重ねるほど、自分の老いだけでなく、親の介護や死など、抱える問題は増えていく。そうした現実を、同世代で元夫婦の葵と奥田は多くを語らずとも分かり合えるのだろう。奥田は、「全部リセットしてやり直さへんか?」と葵に大阪行きを持ちかける。葵にとって、それは甘い誘いだった。奥田についていけば、今ある煩わしい現実から逃れられるのだから、心が揺れるのも無理はない。
■“葵”内田有紀の迷いをほどいた“澄晴”寺西拓人の言葉 そんな葵に、澄晴がかけたのが「自分の声は聞こえてる? 自分を信じて。じゃないと後悔する。そう教えてくれたのは、葵さんでしょ?」という言葉だ。かつて自社のパフュームブランド創設プロジェクトに調香師として携わっていたが、周囲の意見を真面目に聞きすぎるあまり、自分を見失ってしまった葵。あのときの後悔があったからこそ、澄晴には自分の気持ちを信じるよう伝えたのだろう。ところが、葵はまた同じ過ちを繰り返そうとしていた。澄晴の言葉でそのことに気づいた葵は、今度こそ周囲の声に惑わされることなく、自分たちの声を信じて前に進むことを決める。
一方、2人の交際に反対していた周囲にも変化が訪れる。葵に大阪行きを断られた奥田は澄晴への負けを認め、「これからも俺は葵の味方やから」と彼女の選択を受け入れた。別れの原因を作った本人が復縁を持ちかけるのは虫がよすぎる気もするが、最後には彼なりに過去へのけじめをつけたのだろう。
莉奈もまた、これまで相談に乗ってくれていた葵にひどい言葉をぶつけてしまったことを後悔していた。そんな莉奈の本心を見抜いたのは、やっぱり龍太(草川拓弥)だ。「わかるんだよ、ずっと莉奈のこと見てたから」と、ついに一歩を踏み出した龍太の存在が、莉奈を前へ向かせる力になることを期待したい。
そして眞澄も、なおも食い下がる優子に「いや、俺はもういい」と告げ、2人を別れさせることを諦める。さらに、息子をこれ以上苦しませまいと病気を明かさず、緩和ケア病棟で一人、最期を迎えることを決めた。一見すると唐突な改心にも映るが、オレンジの缶ジュースにまつわる記憶をたどれば、眞澄が不器用ながらもずっと澄晴を思い続けてきたことが分かる。
幼い澄晴の大好物だったオレンジジュースを、眞澄が買うのは特別なときだけ。入院している母親に会いに行く日も、葬儀の日も、その手にはいつもオレンジジュースがあった。澄晴がもういい大人になってからも、会うたびに持参していたそれは、どうしようもない父親なりの、不器用な愛の象徴だったのだ。ラストでは、その眞澄が倒れてしまう。残されたわずかな時間の中で、すれ違い続けてきた父と息子は、今度こそ互いの本当の声を届け合うことができるのだろうか。(文=苫とり子)

