【A4studio】「談話室滝沢」閉店から20年…似たコンセプトの「椿屋珈琲」の業績が絶好調、「高価格喫茶店」がいま支持されるワケ

写真拡大 (全4枚)

グループで52店舗(2026年7月現在)構えている「椿屋珈琲」は、異色の存在のコーヒーチェーンだ。ブレンドコーヒーは1杯1000円以上。効率化を進める多くの外食チェーンとは対照的に、内装にも接客にもコストをかけているように見える。

運営会社の東和フードサービスは2026年4月期に過去最高の売上高を更新。椿屋珈琲グループの売上高も60億9900万円と前期を上回った。物価高で節約志向が強まるなか、なぜ価格帯の高い椿屋が選ばれるのか。外食ビジネスアナリストの三輪大輔氏に聞いた。(以下「」内は三輪氏のコメント)

記事前編は【異色のチェーン「椿屋珈琲」が過去最高の売上高を更新…コーヒー1杯「1000円超え」なのに人気を集める「独自の立ち位置」】から。

高価格帯喫茶店が再び支持されるワケ

東京にはかつて、椿屋珈琲と似た役割を担った高級喫茶チェーンがあった。“街の応接室”と呼ばれた「談話室滝沢」である。

新宿や池袋、御茶ノ水などに店舗を構え、ビジネスパーソンやマスコミ関係者らが、待ち合わせや商談、打ち合わせに利用していた。コーヒーの価格は安くなかったが、長く滞在でき、接客も行き届いていたのである。

しかし、2005年に全店が閉店。

「談話室滝沢が全盛の時代は、喫茶店そのものが仕事のインフラでした。携帯電話がまだそこまで普及していませんでしたから、待ち合わせにも、商談にも、外回りの途中の時間調整にも使われた。ところが通信手段や働き方が変わり、“街の応接室”としての役割は小さくなってしまったのです」

一方、滝沢が姿を消してから約20年経った現在、同じように高価格帯で広い空間や接客を売りにする椿屋珈琲は、都市部を中心に店舗を構えている。一度は時代に取り残されたかに見えた高価格帯の喫茶店が、なぜ現在は再び支持されているのか。

喫茶店に求められる役割の変化に加え、三輪氏が両者を分ける要因として挙げるのが、椿屋を運営する企業の経営基盤だ。

「椿屋のような店を喫茶店事業だけで続けていたら、ここまでの展開は難しかったかもしれません。アミューズメントという別の事業の柱があることは大きかったのでしょう」

とはいえ、椿屋が別事業に依存して成り立っているという意味ではない。実際、椿屋珈琲グループの売上高は前期を上回っていることを考えると、やはり椿屋を道楽で営業しているなんてことはなく、二本柱の経営が強みになっている可能性があるという。

両事業のつながりは資金面だけではない。淘汰が進むパチンコ業界では、接客やサービス、人材教育を重視する企業が増えている。そこで培われたノウハウと、椿屋が重視するテーブルサービスには、少なからず親和性があると三輪氏はみる。

「高コスト」に見えて、実は冷静な経営

もっとも、経営基盤があるだけで、都心の好立地に広い店舗を構え、席数を詰め込み過ぎず、接客にも人手をかける業態を続けられるわけではない。重要になるのは、椿屋という店そのものをどう採算に乗せるかだ。

「椿屋の最大のコストは、都心の駅前に広い店舗を構えるための家賃のはずです。広い店にして長居を許容すれば、売上効率も下がりかねません。それを高い客単価で吸収しながら、店内の雰囲気も維持する必要があります」

こうした業態で採算を確保するうえで重要になるのが、どこにコストをかけるかという判断。椿屋は一見、コーヒー豆や料理に原価を惜しまない店に見えるが、三輪氏いわく「むしろ投資先を冷静に選んでいる」とのこと。

コーヒーや料理に際限なく原価をかけているわけではないでしょう。内装や食器、制服、接客など、お客さんが価値を感じやすい部分へ投資している。ですから、決して数字を見ずに経営している店ではないと感じます」

値上げの限界は「ホテルラウンジ」価格

椿屋は今後も値上げできるのか。

三輪氏は、一定の余地はあるとみる。周辺のファミリーレストランや飲食店も価格を引き上げているため、椿屋だけが極端に高いとは感じられにくくなるからだ。

ただし、当然ながら際限なく上げられるわけではない。

「基準になるのはホテルラウンジでしょう。椿屋の価格がホテルラウンジに近づき過ぎれば、『それならホテルへ行こう』となります。ホテルより気軽で安いという差を保てる範囲が、価格の上限になるでしょう」

そして物価高でも椿屋が支持される理由は、単に「高級感があるから」ではない。

都心の好立地に広い店舗を構え、落ち着いて過ごせる環境を提供する。その価値に見合った価格を設定し、高い家賃を吸収する収益設計も組み込まれている。一見すると採算度外視にも映る店づくりは、実際には綿密な計算の上に成り立っているのだろう。

「確実に座れる」「ゆっくり会話できる」という価値

そして、もう一つ見逃せないのが、椿屋を取り巻く環境そのものの変化だ。

かつて喫茶店に求められた待ち合わせや喫煙といった役割は薄れ、いまでは「どこで、どのように時間を過ごすか」が店選びを左右するようになった。安さだけでなく、確実に席を確保できることや、周囲を気にせず会話できることにお金を払う人もいるのである。

三輪氏は、こうした変化を踏まえて次のように話す。

「椿屋が急に変わったわけではありません。各社が店内での過ごし方を競うようになり、消費者も時間や場所にお金を払うようになった。“時代のほうが椿屋に追いついてきた”という見方のほうが、このチェーンの分析として正しいのではないでしょうか」

談話室滝沢が姿を消してから約20年。高価格帯の喫茶店が再び支持されている背景には、単なる「高級志向」では片づけられない変化がある。

椿屋が長く磨いてきた店づくりと、消費者が喫茶店に求める価値が重なり始めた――。「時代が追いついた」という三輪氏の言葉は、物価高のなかでも椿屋が選ばれる理由を端的に表しているのかもしれない。

(取材・文=森田浩明/A4studio)

【もっと読む】絶好調のコメダ珈琲店が“ニュータウンシニア”の楽園になっていた…病院がたまり場の高齢者が思わず飛びつく「したたかな戦略」

【もっと読む】絶好調のコメダ珈琲店が”ニュータウンシニア”の楽園になっていた…病院がたまり場の高齢者が思わず飛びつく「したたかな戦略」