宅配業者に暴言「使えない」「アホ」「すぐ持ってこい」、業界4割超がカスハラ経験「被害訴えにくい」
宅配の需要が伸び続ける中、宅配業務に従事する人たちへの「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が深刻化している。
厚生労働省が宅配業界で働く人たちを対象に実施した初の実態調査では4割超がカスハラを経験したと回答し、業界を問わずに行った調査より大幅に高かった。手厚い宅配サービスが逆にカスハラを招いているとの指摘もあり、毅然(きぜん)とした対応を取る企業も出ている。(西村魁、柏原諒輪)
「客から暴言を浴びるなどのカスハラを何度か経験したが、業務の委託を受けている立場なので被害を訴えにくい」。大手宅配業者の委託で、関東地方で宅配業務を行っている40歳代男性は、そう打ち明ける。
細かい時刻を指定して再配達を求める客が少なくなく、その度に断っているが、「使えない」「アホ」と罵倒されることも。午前中指定の客宅へ11時過ぎに届けた時に、「もっと早くできないのか。午前中ギリギリで届けるなんて失礼だ」と迫られたこともあった。
ただ、こうした被害を委託元に訴えると、「面倒な取引先」とみなされて契約を打ち切られそうで怖く、耐えているという。「委託元の宅配大手が配達員専用の相談窓口を設置して対策するなど、客と接する社員や委託先を守ってほしい」と願っている。
顧客に個別対応する機会が多い点などを踏まえ、厚労省は昨年9〜10月、宅配業界の企業を通じ、配達や電話応対などに従事する約2万人を対象にカスハラについての調査を実施。9割超から回答があった。
調査結果によれば、過去3年間にカスハラを受けたと回答した人は43%。担当別では電話窓口が74%と最も高く、対面窓口が64%、配達員が32%などとなった。厚労省が2024年に業界を絞らずに実施した調査ではカスハラを受けたとの回答は11%で、宅配業界の高さが際だっている。
「無料」が温床?
宅配の需要は、インターネット通販の普及に伴って拡大を続けている。国土交通省によると、24年度の宅配便の取り扱い個数は約50億3100万個と、10年前から約4割も増加。宅配ボックスの整備は進むものの再配達も依然多く、25年4月の国内大手の再配達率は8・4%だった。
国内の宅配業者は指定の時間帯に無料で再配達するのが一般的だ。厚労省の調査では、営業時間外の配達を求めたり、「今すぐ持ってこい」と要求したりする例が目立った。
ハラスメント問題に詳しい成蹊大の原昌登教授(労働法)によれば、欧米では配達日時指定などのサービスを有料とする宅配業者が一般的だ。他方、日本では1990年の規制緩和まで運送各社が自由に配送料金を決められず、各社が競い合った結果、現在の手厚いサービスが広がったとみられるという。
原教授は「日本の消費者は無料の再配達など手厚いサービスを享受する中で、事業者への敬意が薄れるようになり、それがカスハラの温床になっているのではないか」と指摘する。
「厳然と対応」
こうした実態を踏まえ、厚労省は宅配業界向けのカスハラ対策マニュアルを作成し、3月に公表した。マニュアルではカスハラに該当する言動として、細かい配達時刻の指定や配達前の電話の要求などを例示。カスハラを繰り返す客には管理職などと複数で対応し、悪質な例は警察への通報なども求めている。
宅配大手・ヤマト運輸(東京)は、独自の対応マニュアルを作成するなど対策を強化している。従業員への脅迫や不当な要求があれば配送依頼に応じない運用を取っており、カスハラをする客への配送を断ったこともあるという。
同社の担当者は「至らない点はおわびして改善に努めるが、社員らが身の危険を感じるような悪質なカスハラには厳然と対応せざるをえない」と強調する。
労災認定、昨年度127人
カスハラの被害は広がっている。2025年度にカスハラが原因で精神疾患を発症して労災認定された人は127人で、初めて集計した23年度(52人)の2倍以上に増加した。
対策強化に向け、各自治体で条例を制定する動きが広がるほか、今年10月の改正労働施策総合推進法の施行で、企業にはカスハラ防止策が義務付けられる。企業が対策を怠れば、改正法を根拠に労働者から賠償を求められる可能性もある。
