「全身が動かせなくなっても挑戦は終わらない」障害の有無を超えた健康づくり――絶望の診断から生まれた新たな使命
東京ビッグサイトで開かれた、国内最大級のスポーツ・健康産業の展示会。鹿屋体育大学もブースを出し様々な企業や団体とのつながりを広げています。そうした大学の取り組みのキーマンとなるのが、特任研究員の竹尾 賢二さんです。
「まさか自分がこういう指定難病になるとは思っていなかったんですけど…」
治療法が確立されていない難病、ALSと闘いながら「健康」について発信し続けるその姿を追いました。
■研究を社会に届ける鹿屋体大の挑戦
「1,2,3,4…」
鹿屋体育大学の教室に響くのは――。地域のお年寄りが参加する体操教室。フレイルや認知症予防のための運動を学生が指導します。
(参加者)
「休みたくない楽しくて」
(参加者)
「1楽しみです。毎週、金曜日が(学生さんに教えてもらうのは?)最高です。可愛い孫みたい」
国内唯一の国立の体育大学、鹿屋体育大学。アスリートのパフォーマンス向上を支える最先端の設備が、整っています。こちらの陸上トラックの下には、足の力のかけ方を測定する機器が、50メートル敷かれています。
(鹿屋体育大学・前田明副学長)
「どんなスタートをしたら、うまく持って行けるか。一人一人、課題を解決している(科学的にデータを見て自分の走りを修正していく?)そうです。世界に多分一つだけの施設なので、国内のトップスプリンターも、海外の選手もお見えになる」
産学官で連携し研究成果を社会に還元することに近年、一層力を入れています。そのひとつが、鹿屋市と一体となって地域のスポーツ振興や健康づくりを進める「KANOYAモデル」です。
(鹿屋体育大学・中垣内真樹教授)
「虚弱にならないようにということ。健康寿命日本一を目指して、鹿屋から作ったプログラムを、あちこちに波及させたい」
高齢者の体操教室は、今や80か所以上に広がっています。
■ALSと向き合いながら つなぎ続ける人と社会
こうした取り組みを進めるキーマンがこの日、大学を訪れました。特任研究員の竹尾賢二さんです。大学の研究を、社会の様々な課題解決に生かすため、外部の企業や団体との橋渡し役を担っています。
長年フィットネス業界に身を置き、運動とDXを掛け合わせたアプリの開発など時代に先駆けて取り組んできました。“健康時間の創出”をライフワークにしてきた竹尾さんの体に異変が現れたのは、一昨年の春です。急に頭が上がらなくなったり、転倒したりして精密検査を受け、筋萎縮性側索硬化症、ALSと診断されました。筋肉を動かす神経が、障害を受け全身の筋肉が萎縮し体を動かせなくなっていく難病です。
(鹿屋体育大学・竹尾賢二特任研究員)
「まだ、治るってことが定まっていない指定難病と言われたときに、これからどうしていくべきかなって」
進行は速く、診断から1年で上肢・下肢を動かすことが出来なくなりました。呼吸器も欠かせません。
(鹿屋体育大学・竹尾賢二特任研究員)
「(大丈夫?)大丈夫でーす」
去年の春から週に3回、自宅でリハビリに取り組んでいます。
(理学療法士・土屋洋二さん)
「筋肉が縮こまって、固くなっちゃうので、痛みのない範囲で曲げ伸ばしして」
(鹿屋体育大学・竹尾賢二特任研究員)
「週に何回か動かすというアプローチをしていただくことによって、体と精神的な気持ちも復活する。モチベーションも上がるので、本当ありがたい時間」
(鹿屋体育大学・竹尾賢二特任研究員)
「ロードバイクとサッカーをやってたから、下肢は強く動かして(また復活をイメージして)」
大好きなロードバイクで再び走ることを夢見て、大学の治験などにも積極的に参加しています。
「はい一口…OK?。もうちょっと肩をあっちに押して頂いて…」
(鹿屋体育大学・竹尾賢二特任研究員)
「自分で全て何もできない。ただ、ご縁と、いろんな皆さんのサポートがあるので、それが、本当にありがたい。基本、ポジティブ思考なので、何とかいろいろとチャレンジしていければというのがベースにある」
■ALSと向き合いながら つなぎ続ける人と社会
7月8日。
(山下香織キャスター)
「東京ビッグサイトで3日間開かれているSPORTEC。スポーツ・健康産業に関わる企業が集まり、熱気に包まれている」
3日間で4万4千人が来場した国内最大級の専門展。鹿屋体育大学は毎年ブースを出展し、様々な企業にアプローチしています。竹尾さんも会場に駆け付けました。
さらに、強力な助っ人も。身体拡張技術を研究している安藤さんです。脳波を用いて操作するロボットアームを装着すれば、自分の意志で手を振ったり、指し示したりすることができます。
(鹿屋体育大学・竹尾賢二特任研究員)
「手も上げられない状況なんですけど、ロボットアームを使わせて頂くとリアクションが出来ますから、最高です」
副学長や鹿屋市の担当者とともに、大学の取り組みや成果を発表します
(鹿屋体育大学・竹尾賢二特任研究員)
「いろんな社会課題の解決を、大学の研究機構と民間企業・団体と進めていくことを推進する役割を担っているので、今日ご参加いただいている皆さんの中で、こういうことを解決したい、大学とこういうことを実現したいことがあったらお越し頂ければ」
講演は盛況に終わりました。
(鹿屋市スポーツ振興課・中倉俊郎課長)
「ここまで地域と大学が、密接に連携しながら様々な事業をやっている例はないと私たちは思っている」
講演後、鹿屋体大のブースには次々と人が。
(竹尾さんに話しかける参加者)
「障害のある子だけの水泳のクラスとか勉強しながらやっていて…。 めちゃくちゃ興味ありました30分では足りなかった」
新たな出会いも広がります。竹尾さんは、もうひとつ個人として講演を依頼されていました。テーマは「動けなくなって、見えたもの」。体を動かすことが好きで、人々の健康づくりに取り組んできた竹尾さんが、ALSになって、今、感じること。
(鹿屋体育大学・竹尾賢二特任研究員)
「フィットネス業界って、健康になることがベースにありながら、やはり体を動かせる方に通って頂くことがベースだが、障害をお持ちの方も、ジムに行くことで何かしら情報を得られたり、身体や精神的な状況が改善できる。そういう新しい価値観の創出に私も貢献できれば」
障害の有無に関わらず全ての人の「ウェルビューイング」の追求。やりたいことが次々生まれます。
(鹿屋体育大学・竹尾賢二特任研究員)
「普通だと動かない状態だと動けなくなっちゃうと思うんですけど。私は、逆にこういう状況だからこそ外出したり、コミュニケーションをリアルにとってというところから、また次の一歩に向かって上を向く」
(鹿屋体育大学・竹尾賢二特任研究員)
「障害を持っている方でも、どこでもいろんなアクションが取れるという環境づくりにも寄与できればと思っています」
体が動かせなくても、人とのつながりで前へ進める。竹尾さんの挑戦はまだまだ、これからです。
(KYT news.everyかごしま 26年7月29日放送)
*竹尾賢二さん(49)は2026年8月18日にご逝去されました。
謹んでご冥福をお祈りいたします。

