【愛知学院大が5年追跡】重度の「歯周炎」と「脳卒中」に関連の可能性 予防のポイントを歯科医が解説

毎日何気なく行っている歯みがき。その積み重ねが将来の健康に意外な影響を及ぼすかもしれません。近年では、歯周病と脳卒中との関連も注目されるテーマの一つです。
今回、愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座の研究グループが、歯周病と脳卒中の発症、医療費や入院期間との関係を調べた研究結果を発表しました。この内容について菱川先生に伺いました。

監修歯科医師:
菱川 敏光(ひしかわ歯科)

長崎大学歯学部卒業。愛知学院大学大学院歯学研究科修了。愛知学院大学歯学部歯周病学講座講師(2020年3月まで)。 愛知学院大学歯学部歯周病学講座非常勤講師。ひしかわ歯科院長。

研究グループが発表した内容とは?

編集部

愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座の研究員らが発表した内容を教えてください。

菱川先生

歯科健診時に重度の歯周炎があると分類された人は、歯周炎がないと分類された人と比較して、その後の脳卒中発症との統計学的な関連が認められました。さらに、脳卒中を発症した人のうち80歳では、歯周炎がある人の方が脳卒中に関連する月当たりの医療費が高く、入院期間も長いという関連が見られました。一方、75歳では明らかな差は認められませんでした。
この研究では、2014年に歯科健診を受けた75歳と80歳の高齢者約2000人を対象に、その後5年間の医療データを追跡し、歯科健診時の歯周状態と脳卒中の発症、発症後の医療費や入院期間との関係を調べています。歯周状態の分類には、歯科健診で使われるCPI(歯周病を評価する指標)を用いました。
ただし、この研究で歯周状態を調べたのは歯科健診時の一度だけです。その後5年間の歯周病の変化や、歯周病治療を受けたかどうかを追跡した研究ではありません。

歯周病の予防法とは?

編集部

今回のテーマに関連する歯周病の予防法について教えてください。

菱川先生

予防の基本となるのは毎日のセルフケアです。歯周病は、歯垢(プラーク)の中の細菌によって起こる炎症性疾患のため、原因となる歯垢をどう取り除くかが重要になります。歯ブラシをきちんと使うことはもちろん、清掃しにくい歯と歯の間には歯間ブラシやデンタルフロスを使うことが大切です。こうした道具を使っていても、意外とプラークを十分に落とせていないことがあるため、歯科医院で磨き方を確認し、必要な指導を受けることも欠かせません。また、喫煙や糖尿病など、歯周病の発症や進行に関係する要因にも注意が必要です。歯周病は自覚症状が少ないまま進行することも多いため、定期的に歯科医院で状態を確認し、毎日のケアを続けましょう。

内容への受け止めは?

編集部

愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座の研究員らが発表した内容への受け止めを教えてください。

菱川先生

今回の研究は、一度の歯科健診の結果とその後の医療情報を組み合わせ、高齢者の歯周状態と脳卒中の発症、さらに発症後の医療費や入院期間との関連を示した、公衆衛生の観点から重要な研究だと思います。
一方、この結果を一人ひとりの健康にそのまま当てはめるには注意が必要です。歯周病の評価には歯科健診用の指標が使われており、歯周病の治療を目的とした精密な検査とは異なります。歯周病の重症度や炎症の程度まで細かく評価するものではなく、一定の基準に従ってスクリーニング(ふるい分けの検査)したものです。また、歯周状態を調べたのは健診時の一度だけで、その後の変化や治療については追跡されていません。
研究対象も、歯科健診の対象約3万3000人のうち実際に受診した約15%から、脳卒中の既往(過去に脳卒中にかかったことがあるかどうか)や残っている歯の本数などで絞り込んだ約2000人です。そのため、一般的な75歳、80歳の人にそのまま当てはまるわけではありません。
ですから、「歯周病があるから脳卒中になる」「歯周病を治療すれば脳卒中を予防できる」ということではありません。今回の結果だけを見て、「脳卒中を予防するために歯周病を治療しなければ」とまで考える必要はありません。ただ、今後研究が進めば、歯周病が全身の健康に与える影響がさらに明らかになる可能性もあります。歯周病そのものが自覚症状の少ないまま進行する病気であることを考えると、重度になるまで気付かずにいるのは望ましくありません。まず自分の状態を知り、必要な治療やセルフケアを行っておくことが大切だと思います。

編集部まとめ

今回、歯周病と脳卒中との関連を示す研究結果が発表されました。歯周病と全身の健康との関係については、まだ分かっていないことも多く、現在も研究が続けられています。必要以上に心配するのではなく、まずは自分の口の状態を知り、毎日のセルフケアと必要な歯科治療を続けるきっかけにしてもらえればと思います。