残念ながら「古典コンピュータでは、理解できない」…心という「不思議な存在」。量子コンピュータなら「説明できる可能性を秘めている」と言われるわけ

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AIの「次にくる時代」に備えよう!

急速に広がり、すでに生活のあらゆる場面に浸透しつつあるAI。一方で、その限界を指摘する声も聞こえてきます。そんななか、政府が技術イノベーション戦略として掲げ、超複雑な計算も瞬時にこなすその処理能力の高さから、産学各方面より注目を集めるのが「量子コンピュータ」です。

とはいえ、今までのコンピュータとどう違うのか、複雑な計算はできても単純計算に不向きとはどういうことか? データのコピーなどはできるのか、量子機器につきものの「量子エラー」って何? ……と、まだまだわからないことだらけと感じている人も少ないはず。

“すごそうだけど、まだよくわからない”量子コンピュータを、日米での量子コンピュータの関連特許を発明した著者が、懇切丁寧に解説する『量子コンピュータに何ができるか 知識ゼロから理解できる原理としくみ』が登場し、刊行前からすでに大きな注目を集めています。

「産業革命以来のインパクトをもたらす」とまで言われる量子コンピュータの本質を、量子力学の基本から解説する本書から、必読の最新トピックをご紹介していきます。

今回は、プレリリースとして好評を博した連載に続き、「量子コンピュータ」とはなにか、どのようなことが期待されているのか、について解説します。

*本記事は、『量子コンピュータに何ができるか 知識ゼロから理解できる原理としくみ』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

量子コンピュータは「言葉」の本質をあばく

私たちが日常的に使っている言葉は、「自然言語」とよばれます。プログラミング言語に代表される「人工言語」に対する名称ですが、じつは自然言語の正体は今もって理解されていません。

最近の研究で、量子力学は論理やトポロジーと同じような数学的構造(「圏論」とよばれるもの)をもっていることが明らかになってきました。そして、論理は言葉につながります。つまり、量子コンピュータは人間のように言葉を扱うことができるかもしれないのです。

それに関連して、2021年10月にケンブリッジ・クオンタム(Cambridge Quantum、現クオンティニュアム:Quantinuum)が世界最初の量子自然言語処理のツールキットとライブラリを発表したというニュースがありました。

このツールキットとライブラリは、「Python」というプログラミング言語を使って量子力学の圏論的な情報処理を量子コンピュータで扱えるようにするものです。特に、自然言語処理に対して応用されており、古典コンピュータを超えた自然言語処理を実現できる可能性を秘めています。

「脅威を与える」水準に達した生成AIの能力

また、古典コンピュータを使った自然言語処理に関しては2022年11月、生成AIの代表格として今では誰もが知る存在となった「ChatGPT」が発表されています。

ChatGPTは、ユーザーのテキスト入力に応じてテキスト生成をおこなう対話型自然言語処理アプリで、生成される文章がまるで人間が書いたものであるかのような自然さで驚きを与えました。

2023年4月には、当時の東京大学副学長が、ChatGPTなどの生成AIの能力の向上が人間社会に対して脅威を与える水準にまで達したとして警鐘を鳴らしています。

ChatGPTをはじめとする生成AIは、今後ますます私たちの生活に入り込んでくるでしょう。 そして、その性能のさらなる向上のカギとなるのが「量子コンピュータ」なのです。

量子コンピュータと「心」

ChatGPTは、たしかに人が書いたような文章を生成します。しかし、その文章の意味を理解しているわけではありません。

それでは、文章や言葉の「意味」とはなんでしょうか?

文章や言葉が担う「意味」には、人間の意識、つまり「心」が関係していると考えていいと思います。量子コンピュータを介した言葉の理解は、「心」とよばれる不思議な存在を物理学で説明する可能性を秘めています。

「見えない、聞こえない、話せない」という三重苦に苛(さいな)まれたヘレン・ケラーの著書『私が生きている世界(The World I Live In)』中の「心が現れる前(Before the Soul Dawn)」と題された章は、「先生が来る前、私は私であることがわかりませんでした。私は、世界でない世界に住んでいたのです(Before my teacher came to me, I did not know that I am. I lived in a world that was a no-world.)」と始まります。

家庭教師として彼女の前に現れたサリバン先生ことアン・サリバンのおかげで言葉を獲得することができたヘレン・ケラーには、「心」が現れ、少しずつ周囲の世界を理解できるようになったのでした。

「心」とはいったい、なんなのでしょうか。

それは、「言葉」と関係がありそうです。

量子コンピュータは物理学を進化させる

「心」の問題は歴史的に、哲学の世界で議論されてきた「形而上学(metaphysics)」のテーマです。形而上学は物理学(physics)の前提となるもので、物理では理解できないと考えられてきました。

しかし、量子コンピュータの登場により、形而上学の問題が物理学に還元される可能性が出てきています。量子コンピュータは物理学を進化させる存在なのかもしれません。

それはいったい、どういう意味なのか? 量子コンピュータとはなにか。量子コンピュータに何ができるか。

このような深い問題について、考えていきたいと思います。

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