「甘利事件」のキーマンが現場事務所に自ら火をつけ…56年間未開通の「塩漬け道路」で起きていること
「甘利事件」の渦中の建設会社で起きたトラブル
この写真は、工事現場の仮囲いなどに掲げられた垂れ幕を写したものだ。そこには「抗議の自決を決行します」「税金から儲けようとしてる悪い奴ら」「自分の恨みを晴す為に私を利用し金を取った一番悪い奴 一色武」など、特定の個人や行政の対応を非難する文言が記されている。
千葉県白井市。56年間にわたり未開通となっている「千葉ニュータウン北環状線」の予定地に建つ建設業者の事務所で、6月23日の朝、放火とみられる火災が発生した。この場所に会社を構え、長年立ち退きを拒んできた薩摩興業(現・睦建設)の代表・寺床博好氏が、自身の事務所に火を放ち、焼身自殺を図ったとみられている。火災が起こったこの薩摩興業こそ、かつて政界を揺るがした「甘利事件」において、不透明な補償交渉の舞台となった現場そのものである。
北環状線とは、千葉ニュータウンエリアを横断し、印西市と白井市を結ぶ都市計画道路だ。しかし、道路予定地に隣接する形で薩摩興業が事務所や資材置き場を構えており、地中の産業廃棄物撤去や道路工事を進めるうえで同社の建物が干渉して工事がストップ。およそ450mにわたる区間が、そこだけポツンと未開通のまま放置されてきた。
地元の白井市の市議・柴田圭子氏はこう語る。
「北環状線は、市の中心部とニュータウンエリアを短時間で結ぶ重要な大動脈となるはずの道路です。開通すれば周辺の慢性的な渋滞解消や、防災・防犯力の向上にもつながるため、私自身、過去に市議会の一般質問で早期開通を取り上げてきた場所でもあります」
長年、この区間の開通を阻む最大の障害となっていたのが、まさにこの薩摩興業の立ち退き拒否問題だった。
火災が発生する直前、寺床氏は自身のX(旧Twitter)アカウントに、自死をほのめかす内容を投稿していた。投稿には《今日自決します。俺を自決に追い込んだのは……》とあり、千葉県企業局の担当者、UR(都市再生機構)側の代理人弁護士、地主などの実名が挙げられていた。そして、その中で「一番悪い奴」として垂れ幕でも名指しされたのが、「甘利事件」で告発者となった一色武氏だった。
「甘利事件」とは、千葉県から道路建設に伴う移転補償交渉の実務を委託されていたURと、薩摩興業との間で行われていた立ち退き交渉を巡り、当時の甘利明経済再生担当相(76)やその秘書らが、薩摩興業側から多額の現金を受け取ったとされる口利き疑惑のことだ。一色氏はこの事件で、「総務担当者」として薩摩興業の窓口になり甘利氏側とのパイプ役を務めた。しかし、いつまで経ってもURとの追加補償交渉がまったく進展しない。それなのにカネばかり要求し続ける甘利氏側の秘書たちの姿勢に業を煮やし、金銭授受を裏付ける録音データなどを『週刊文春』に持ち込み、告発に踏み切った人物である。
本サイトは一色氏に直接話を聞いた。
「垂れ幕の写真を見てカチンときましたよ。なぜ私が悪者にされるのか。悲しいし、彼が私を恨む理由がわからない。これまでずっとやり取りをして、『助けてくれ』と言われて甘利先生を紹介したのも私ですし、土地のトラブルを解決してくれと頼まれたのも私です。ずっと手を差し伸べてきたのは私ですから……」
一色氏は、寺床氏からの要請を受け、トラブル解決に向けて対応していたと説明した。
当日も二人で会う予定だった
もともと、薩摩興業が使用していた問題の土地は、地主から借りている「借地」だ。当初、同社はUR側と社屋の建て替え補の償金として約2億2000万円の支払いで合意し、すでにこれを受け取っていた。しかし、URが行った工事の影響から事務所や資材置き場などを別の場所へ丸ごと移転させる必要が生じたため、’15年から追加補償に関する協議が始まった。
ところが協議中の’18年、地主が第三者との間で売買予約を交わし、その第三者が、薩摩興業が借りているその土地に仮登記(所有権移転請求権)を設定してしまう。するとUR側は、この仮登記を理由に「地主と仮登記権利者である第三者との話し合いがまとまるまでは、借地人である寺床氏への追加補償契約は締結できない」と主張し、それまで進んでいた追加補償の交渉を全面的にストップさせてしまったのである。
この複雑な「借地」を巡る利権関係について、一色氏は次のように語る。
「6月13日にも神奈川県内のファミレスで寺床氏と会い、解決に向けた具体的な提案をしました。URは仮登記を付けた第三者との解決を条件にして追加補償の交渉を拒んでいますが、仮登記が付いたのは’18年であり、補償の話し合いが始まった’15年よりも後の話です。後付けの仮登記を言い訳にするURの主張はおかしく、時系列の矛盾を盾に交渉を再開させるため、火災の当日(23日)に二人で千葉県知事の秘書課に行って直談判する手筈になっていたんです」
一方で、寺床氏に近い人物はこんな見方をしている。
「地主側から起こされていた明け渡しの裁判の控訴審で、5月下旬に彼は敗訴しています。月18万円ほどの地代を1年以上支払っていない状況で、最初から負けが決まっているような裁判でした。立ち退きの強制執行は時間の問題でした」
寺床氏が完全に行き詰まっていたことだけは間違いなさそうだ。
自らの事務所に火を放った寺床氏の現在の状態について、一色氏によると「無菌室に入っており面会謝絶と聞いています」という。
都市計画決定から半世紀以上が経過した現在も、一部区間が未開通のまま放置されている北環状線。関係者らの思惑が複雑に交錯するこの現場は、今回の事件を経てもなお、早期開通に向けた出口を見出せないままでいる。
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・いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)
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