【中村 清志】「かつやに客が全然来ない」店から姿を消した紙の100円割引券が引き金に…?アプリ移行で”無限ループ”文化が喪失

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本当に「値上げ」だけが客離れの原因なのか

かつてぜいたく品だった「カツ丼」をワンコインで気軽に食べられるようにしたことで、圧倒的な支持を受けてきた「かつや」の客離れが止まらない。とんかつをファストフード化した先駆者として今なお、業界トップクラスの店舗数(513店舗、2026年7月時点)を誇る同チェーンにいったい何が起こっているのか。

目に見えた閉店などは取り沙汰されていないものの、顕著なのが客数の減少だ。運営元であるアークランドサービスホールディングスの売上高前年同月比推移表によれば、かつや既存店の2026年12月期(2026年1月〜12月)の上期(1月〜6月)実績は、売上高96.5%、客数93.9%と、どちらも前年割れを起こしている。

こと客数の推移を見ると、その落ち込みは深刻そのもの。1月から前年比で《95.0%→92.1%→95.8%→94.4%→91.4%→94.6%》。終わりの見えない“客離れ”から抜け出せない状況は今も続いており、下期に入ったばかりの直近7月も客数は91.3%と大幅減を示した。

すでに一部メディアでも、一連の「かつや」の状況を報じる記事をしばしば見る。今回の客離れに関して、まず原因として話題に挙がるのが、シンプルに値上げの影響だ。2025年10月に実施された価格改定により、同チェーンの最安メニューである「カツ丼(梅)」は590円(税込649円)→620円(税込682円)へと変更。上述した“ワンコイン”のイメージが消失したことが大きい、というものである。

だが本当に理由はそれだけなのだろうか。昨今、物価高を背景にあらゆる外食チェーン店が値上げを余儀なくされる中で、「かつや」だけがこれほど影響を受けるとは考えにくい。何かもっと別の要因があるのではないだろうか――。

紙からアプリクーポンへ移行するも…

そこで筆者が着目したのは、「かつや」を「かつや」たらしめた所以である割引券だ。

かつや」のヘビーユーザーである方ならご存じの通り、同チェーンでは店内飲食もしくはお持ち帰りの会計時、レジで紙の100円割引券をもらうことができる。この100円割引券は次回以降の来店時、税込500円以上の商品1品につき1枚使用することができるという仕組みだ。

この紙の割引券、要するに一度来店してもらうと、有効期限内に使おうとして再来店→また割引券をもらう→再来店→……というある種の“無限ループ”が生まれるので、一部界隈では「無限割引券」という名称で親しまれてきた。ところが、体感では2〜3年前頃から、各店舗でこの100円割引券が消えつつあるというのだ。

なぜなら、スマホアプリ「かつやアプリ」のアプリクーポンの導入が積極的に進められているからだ。同社によれば、2025年3月末までは東京・千葉・埼玉・神奈川・新潟の1都4県のみがアプリクーポン券の対象エリアだったそうだが、その後、対象エリアを拡大。全国的に紙からアプリへの移行が進められてるという。

確かに、これまでの100円割引券は「手元にない」「気付いたら期限切れになっていた」といったような声が寄せられるなど、紙ゆえに欠点もあった。その問題解消のためにアプリクーポンへと移行を進める理屈は納得できる。

だが、ここに客離れにつながる大きな“落とし穴”があったのではないか。

そして“無限ループ”という文化は消えた

同じ有効期限付きクーポンとはいえ、アプリクーポンは紙の割引券と違って、定期的に配信される仕組みだ。つまり仮に有効期限が切れても、次のクーポン配信を待てばいい。実質、無期限の代物となっている。

その結果、多くの「かつや」ユーザーは、「いつでも行けるから」という考えに至り、店に行く優先度が低下。いつしか来店機会を失い、リピート客も減り、今回の客離れに至ったのではないだろうか。

外食業界において有効期限付きクーポンは、来店を促す強力な心理効果、売り上げの平準化と利益率の最適化など、多くのメリットがあることで知られる。それが、紙からアプリに移ったことで、期限切れという概念が顧客の中で消えたのはもちろん、「そもそもアプリをダウンロードしてまで行く必要はない」という考えの顧客を生んでしまったとも考えられる。

かつや」も焦りからか、これまで月間共通20枚の配信だったアプリクーポンを、今年7月1日より毎週店内専用3枚・持ち帰り専用5枚の配信へと変更している。実質的な配布枚数を増やすことで、顧客へのアピールを目指しているのだろう。だが、これが根本的な解決に至るとは考えにくい。

紙の100円割引券廃止が全国の「かつや」店舗で広まったタイミングは2025年4月から。そして客数の減少が表れ始めたタイミングは同年秋頃から。はたしてこれは偶然なのだろうか――。そう考えると、「かつや」のアイデンティティを支えていたものとは、カツ丼そのものや値段以上に、長年にわたり愛されてきた「紙の100円割引券」だったのかもしれない。

【後編記事】『「かつや」はなぜ後輩「松のや」に敗北したのか…お株だった“ワンコイン”のイメージすら奪われて』へつづく。

【つづきを読む】「かつや」はなぜ後輩「松のや」に敗北したのか…お株だった”ワンコイン”のイメージすら奪われて