〈副首都は本当に大阪でいいのか?〉危機管理の見地から浮上する“意外な都市”…「今夜にも使える」政府拠点の実力とは
政府・与党が掲げる「大阪副首都構想」は、本当に大災害への備えとして最適なのか。そう疑問を投げかける声がある。災害時に重要なのは「第2の首都」を新たにつくることではなく、政府機能を止めないための実効性あるバックアップ体制だという。その観点から浮かび上がる意外な都市の名前とは。
【画像】大阪でも名古屋でもない…副首都にふさわしい意外な都市
副首都に相応しいのは大阪でも名古屋でもなく
副首都を大阪に置くという話には、どうしても順番の悪さを感じる。東京が危ない。だから遠く離れた大阪に第2の首都を造る……というものだが、災害が起きた直後に問われるのは距離ではない。
総理、閣僚、官僚、自衛隊、警察、消防が何時間で集まり、どの通信設備を使い、どこから全国へ命令を出すのかである。
そこまで考えると、必ずしも副首都が大阪でなければならないとは思えない。むしろ、東京都の立川市のほうが相応しいのではないか。
副首都という言葉が出た途端、議論は大阪の地位や知事選、大阪都構想へ流れていく。だが、政府が止まる非常時に、大阪維新の政治的な野心は何の役にも立たない。
必要なのは権威ある第2都市ではなく、電気があり、通信がつながり、担当者が迷わず入れる予備の司令室である。
副首都法は、異なる2つの政策を1つに束ねた。大災害時に首都中枢機能を代える防災政策と、人口や企業を分散させて多極分散型経済圏をつくる経済政策である。法律上の「副首都」は、首都機能の全部または大部分を代替し、経済圏の中核にもなる道府県とされた。
政府の無駄遣いに、国民が付き合わされているだけ
東京都内の立川は、この定義には入らない。
だが、それは立川の機能が足りないからではない。地域振興まで副首都という箱に詰め込んだため、すでにある政府の予備拠点が箱から外れただけである。何のことはない、政府の無駄遣いに、国民が付き合わされているだけなのだ。
政府の災害対策本部は、原則として首相官邸に置かれる。官邸が使えなければ内閣府、次に防衛省、それも使えなければ立川広域防災基地へ移る。
立川には自衛隊の航空施設、警察、消防、医療、食料備蓄、防災要員の宿舎が集まり、基地は約115haある。隣の昭和記念公園まで含めれば約300haの活動空間になる。
内閣府は約500人が1週間執務できる体制を整え、24時間要員を置いてきた。2017年と2018年には、中央省庁を立川周辺へ移す準備訓練も実施した。大阪は「これから整える場所」だが、立川は「今夜にも使える場所」なのである。
「今夜にも使える場所」がすでにあるのに、別都市に新官庁街を造る不自然
内閣府が2013年に札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、福岡などを比べた代替拠点調査でも、立川は候補から落ちたのではない。すでに緊急対策本部を置く広域防災基地だったため、候補地の比較から外されている。
ある意味では、政府は長年かけて“答え”を造ってきたのだ。その答えを使わず、別の都市に新しい官庁街を造る方が不自然である。
大阪が遠いから安全だという話も粗い。湾岸部や低地、河川沿いには津波、浸水、液状化、防潮堤沈下の危険がある。大阪府が2013年にまとめた南海トラフ巨大地震の最大想定は、死者約13万4000人、経済被害28.8兆円だった(迅速に避難できた場合は死者約8,806人まで減る想定)。
国家の予備装置に必要なのは「東京と同時に揺れないこと」だけでもない。
大阪が先に被災している時、東京で別の危機が起きることはある。東海道の鉄道、高速道路、空港、港が広域に傷つけば、東京から大阪へ人と機材を送ることも難しくなる。
大阪1カ所を唯一の副首都にする設計は、東京の危険を消すのではなく、別の危険へ積み替えるだけだ。
バックアップは立派な都市を1つ選ぶ競争ではない。初動用、長期退避用、通信データ用を分け、同時に失わない形で重ねる仕事である。
立川は近いから初動に強い。大阪などの遠隔地は遠いから長期退避に使える。役割の違う拠点を無理に「副首都」1カ所へまとめるから、施設も組織も過大になり、平時には何の役にも立たない第2霞が関ができる。
防災予算が莫大に積み上げられてきた東京
では東京は安全なのか。もちろん違う。2025年12月に国が更新した都心南部直下地震の想定では、死者は最大約1万8000人、全壊・焼失は約40万棟、経済被害は約83兆円である。
前回想定の死者約2万3000人、全壊・焼失約61万棟から減ったが、国家級の被害である。東京だけで全てを抱える設計は危険だ。
ただし、東京は危険を放置している都市でもない。小池百合子東京都知事の肝いり政策「TOKYO強靱化プロジェクト」において、防災予算が莫大に積み上げられてきており、例えば、東京都は2026年度予算で、地震対策4650億円、風水害対策2119億円、電力・通信確保2501億円などを積み上げた。
東京が毎年数千億円規模で耐震化、不燃化、河川、下水道、無電柱化、非常電源、通信の多重化を進める財政力を持つことは明白である。東京を捨てて同じ設備を大阪にもう1組造るより、東京をさらに強くし、その内側に立川という予備司令部を置く方が安く、早い。
「東京から機能を移せば日本が成長する」という証拠は?
東京一極集中も、政治がつくった事故ではない。企業と人が集まる方が、取引先を探しやすく、人を採りやすく、専門家に会いやすく、鉄道や通信設備を多くの利用者で共有できるから集まった。
内閣府の「地域の経済2012」では、事業所密度が高い地域ほど労働生産性が高く、2001年の都道府県データでは、事業所密度が2倍になると労働生産性が約12%上がる関係が示された。
RIETI(独立行政法人経済産業研究所)の森川正之氏による1990~2009年の賃金データ分析でも、人口密度が高い都市ほど、知識の波及や企業と労働者のマッチングを通じて生産性が高まる結果が出ている。
「東京から機能を移せば日本が成長する」という証拠はない。確認できるのは、密度に生産性上の利益があり、分散にはその利益を失う費用があるということだ。市場が選んだ集中を税金で逆向きに動かすなら、効果を証明する責任は分散を求める側にあろう。
しかも、官庁だけを移しても企業は自動的についてこない。取引先、人材、大学、金融、文化、生活サービスまで重なって初めて集積は働く。
役所を数棟建て、補助金で職員を動かす政策は、都市を育てる政策ではない。東京の厚みを少し削り、大阪に薄い行政機能を足すだけなら、両方の効率を落とす。
巨大な第2霞が関も、唯一の副首都という看板も要らない
大阪を成長させるなという話ではない。大阪は規制を減らし、税を軽くし、交通と国際業務を強くし、民間企業が自分の金で集まりたくなる都市を目指せばよい。東京の官庁を分けてもらわなければ成長できないという発想は、むしろ大阪を見くびっている。
現実的な形は単純である。平時の政治、行政、金融、企業活動は東京に集め、防災投資を続ける。官邸と霞が関が止まった直後は立川で政府を動かす。首都圏全体が長く使えない場合に備え、名古屋、大阪、広島、福岡などへ小さな遠隔拠点を複数置く。大阪はその1つで十分ではないか。
巨大な第2霞が関も、唯一の副首都という看板も要らない。
副首都の看板を争う政治より、既存設備をつなぎ、実際に動かす方が国家には重要である。副首都を新しく造るのではない。すでにある立川を完成させればよい。防災では初動が速く、経済では東京の集積を壊さず、財政では重複投資を抑えられる。大阪副首都論より、よほど地に足がついている。
文/小倉健一 写真/shutterstock
