神奈川県相模原市緑区の宇宙関連企業交流拠点「KANAGAWA Space Village(KSV)」で2026年7月8日、神奈川県宇宙産業参入促進セミナー「ベニバナ・サットプロジェクト -山形から宇宙へ- 山形大学と宇宙新規参入を目指す地域企業のチャレンジ」が開催されました。


登壇したのは、山形大学工学部情報・エレクトロニクス学科の横山道央教授と、アルセンス株式会社代表取締役の滝口收氏です。講演では、山形大学と地域企業が連携して超小型人工衛星「ベニバナ・サット」の開発に挑むプロジェクトの概要と、参画企業のこれまでの活動や今後の展望が語られました。


【▲ KANAGAWA Space Village(KSV)の外観(Credit: sorae編集部)】

山形から宇宙産業を育てる「ベニバナ・サット」プロジェクト

「ベニバナ・サット」プロジェクトは、一般財団法人森の学校の寄附により運営される山形大学「ソーシャル・イノベーションDX」寄附講座の産業創出の取り組みとして進められている、超小型人工衛星の開発・製造・運用プロジェクトです。山形大学によると、同プロジェクトは「山形の産業へ」「山形に人材を」「山形を元気に」の3つを基本理念に掲げ、山形に宇宙機器開発の技術基盤を築くことを目指しています。


開発するのは、1Uサイズと呼ばれる一辺約10cmの超小型人工衛星です。県内企業と大学の学生・研究者が連携し、設計から製造、試験、打ち上げ後の運用までを一貫して手がけることで、地域に宇宙機器開発のノウハウを蓄積していく計画です。


山形大学は、ベニバナ・サットの打ち上げを2028年度までに実現することを目指しています。1号機では、技術試験・検証、宇宙利用の啓発、山形の産業啓発を目的として、「宇宙から山形を見る」「山形から宇宙・衛星を見る」に関するミッションが検討されています。


【▲ プロジェクトの概要について講演する山形大学の横山道央教授(Credit: sorae編集部)】

産業振興・人材育成・地域活性化を一体で進める

ベニバナ・サットは、人工衛星を1機打ち上げることだけを目的としたプロジェクトではありません。公式サイトでは、2035年に山形へ宇宙産業のエコシステムが根づいている未来像を掲げ、その実現に向けた10年プロジェクトとして位置づけられています。


柱は大きく3つあります。1つ目は、人工衛星を地域で作る技術とサプライチェーンを育てる「サプライ基盤の構築」です。山形の企業が持つ金属加工や電子部品、電池関連の技術を活かし、衛星開発に必要な技術を地域に蓄積していきます。


2つ目は、衛星を使った事業を地域に生み出す「デマンド創出」です。衛星データの活用先としては、農業、林業、酪農、防災、インフラ監視などが想定されています。衛星を作るだけでなく、衛星を使ってどのような価値を生み出すのかを考える取り組みです。


3つ目は、若い世代の育成です。中高生向けのミッションアイデアコンペや探究学習支援などを通じて宇宙を身近に感じる機会をつくり、将来の地域産業を担う人材の育成につなげていく構想が示されています。


地域企業とパートナー企業が支える開発体制

セミナーでは、宇宙開発の経験がない大学や地域企業が、どのようにチームを構築し、プロジェクトを進めてきたのかについても紹介されました。


滝口氏が代表を務めるアルセンスは、音響・振動解析を中心とした事業を展開する企業です。滝口氏は2025年から山形大学客員研究員を務め、ベニバナ・サットプロジェクトではCTOとして開発を牽引しています。


また、山形県米沢市の株式会社ソアーは、2025年9月にベニバナ・サットプロジェクトへ参画し、構造設計と、真空・振動といった宇宙環境を想定した試験解析・評価技術を提供しています。サクサグループで有機ELデバイスの開発・製造や開発・製造受託サービス(ODM/EMS)を手がける企業で、「ベニバナ・サット01号 地上試験モデル」の開発にも携わりました。宇宙以外の分野で培った設計・製造のノウハウが衛星開発に活かされており、地域企業が宇宙機器開発のサプライチェーンに加わる具体例となっています。


山形大学はSpace BD株式会社とも「超小型人工衛星(ベニバナ・サット)プロジェクト支援業務」の契約を締結しています。Space BDは、衛星開発の技術伴走や打ち上げに向けた支援、人材育成プログラムの提供を通じて、山形大学と地域企業が将来的に自走して衛星開発を進められる体制づくりを支援しています。


【▲ 参画企業のこれまでの活動と今後の展望について語るアルセンスの滝口收氏(Credit: sorae編集部)】

地域発の宇宙産業をどう根づかせるか

このプロジェクトが最終的に目指しているのは、山形に宇宙産業を定着させることです。山形大学は、人材や技術のハブを大学内に形成し、持続的な人材育成や小型衛星関連産業の展開につなげることを狙いとしています。


宇宙産業への参入には、専門知識や開発プロセス、試験、打ち上げ手続きなど、多くのハードルがあります。一方で、超小型衛星の普及によって、大学や地域企業が宇宙開発に参加する機会は広がりつつあります。


会場には、宇宙産業への参入や新規事業の創出に関心を持つ企業関係者が集まり、講演後には交流会も行われました。山形大学と地域企業が進めるベニバナ・サットプロジェクトは、地方発の宇宙産業づくりを実践する取り組みとして、今後の展開が注目されます。


関連画像・映像

【▲ KANAGAWA Space Villageのベニバナ・サットプロジェクトの展示ブース(Credit: sorae編集部)】
【▲ KANAGAWA Space Villageに展示されていたベニバナ・サットの模型と地上局用ソフトウェアの画面(Credit: sorae編集部)】

KANAGAWA Space Villageとは

KANAGAWA Space Village(KSV)は、神奈川県が相模原市緑区橋本に設置した宇宙関連企業交流拠点です。宇宙関連企業や宇宙産業への参入を目指す企業、大学・研究機関、自治体、金融機関などの交流を促し、県内における宇宙関連産業の参入や共創を後押しすることを目的としています。


施設はミウィ橋本2階にあり、コワーキングスペースやギャラリースペース、セミナーやイベントに対応する設備などを備えています。KSVでは、宇宙産業参入に関するセミナーやマッチング、相談対応、イベント情報の発信なども行われています。


KSVの所在地


文・編集/sorae編集部


 


参考文献・出典ベニバナ・サット(公式サイト)神奈川県 - 宇宙関連企業交流拠点「KANAGAWA Space Village」主催セミナーPeatix - 神奈川県宇宙産業参入促進セミナー ベニバナ・サットプロジェクトサクサ株式会社・株式会社ソアー - 山形大学の超小型人工衛星「ベニバナ・サット」プロジェクトに参画Space BD - 山形大学「ベニバナ・サット」プロジェクトの支援事業を受託KANAGAWA Space Village