「働けば働くほど生産性が上がる」は大間違い…脳科学者が明かす「休むほど仕事の質が上がる」理由
成果を出そうと懸命に働けば働くほど、実は仕事の質は下がっていく――。ある研究により、「作業時」に非活性化し、「休息時」に活性化する脳の重要な領域が存在するという衝撃の事実が明らかになった。限界を迎えた脳も身体も巻き返しを図ることができる、科学的に正しい「脳の休め方」について解説する。※本稿は、『何もしない時間 脳の隠れた機能を最大限生かす』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
遊びによるリラックス効果は一瞬
過労は身体のあらゆる臓器にも影響を及ぼす。長時間のデスクワークを続けると、ほかのリスク要因がなくても、心臓発作や脳卒中などの循環器疾患につながる。
また、きつい仕事に就いている人は、2型糖尿病、高コレステロール、呼吸器疾患、胃腸の不調、頭痛、慢性疼痛、筋疾患、骨関節疾患のリスクがはるかに高くなる。
多くの場合、仕事に一所懸命な人は遊びにも一所懸命で、飲酒、喫煙、娯楽目的の薬物、不健康な食生活、運動不足などが懸念される。
こうした行為は、その瞬間は気分がよくなるものの、長期的に見れば過労によって健康に悪影響を及ぼすだけの自己鎮静(セルフ・スージング)にすぎない。
だからといって、悲観することはない。
じゅうぶんな休息をとり、デフォルトモード・ネットワーク(DMN=電気信号や化学信号で情報をやり取りする脳細胞である“ニューロン”によってつくられた回路)を活性化させるだけで、脳も身体も巻き返しを図ることができる。
大変な作業をすると脳のある領域が非活性化する
その仕組みを理解するために、現代を代表する神経学者で科学者のマーカス・レイクルに話を聞いた。2001年にデフォルトモード・ネットワークを発見したレイクル教授は、85歳になる現在も学生を指導し、頭の中に隠された謎の解明に挑んでいる。
ワシントン州フッドカナルの海岸にある小さなボートハウスで椅子に腰かけると、マーカスは笑みを浮かべて話しはじめた。
「言ってみれば偶然なんだ」上品な西海岸訛りだった。
「何かの作業をしていると、とくにそれが大変な作業だと、脳のその領域が非活性化することに気づいた」
まったく予想外の現象で、該当する脳の領域には名前さえついていなかった。
そこでマーカスは、とりあえず「謎の頭頂葉領域」と呼ぶことにした。
驚きと疑念を抱きつつ、彼の研究チームは何年もかけてこの発見が間違っていることを証明しようとした。一部の研究者に指摘されたように、実験ミスであることを明らかにするために。
ところが、意に反して謎の領域が消えることはなかった。
誰の脳をスキャンしようと、どんな作業が行われていようと、結果はつねに同じだった。
作業を始めると、調光スイッチのつまみをいちばん下まで下げたように脳の働きが鈍くなり、逆に作業をやめると、調光スイッチのつまみをいちばん上にしたように脳が刺激された。
休息時に活発になる脳の領域がある
「どういうことなのか、さっぱりわからなかった」マーカスは信じられないといった様子でかぶりを振った。
「あの発見が何を意味するのか、ちっとも理解していなかった」
理解を阻んでいたのは、2つの大きな疑問だった。作業をすることで何が抑えられ、休むことで何が刺激されているのか。簡単にいえば、私たちが気づかないうちに、脳は舞台裏で何をしているのだろうか?
すぐれた神経科学者なら当然のことだが、マーカスは脳が驚くほど活発な器官であることを理解していた。全体重の2%の重さしかないにもかかわらず、身体のエネルギーのじつに20%も使っている。
そして、すぐれた神経科学者なら当然のことだが、マーカスは脳がさまざまな「ハウスキーピング機能」を実行していることも理解していた。
つまり、人間が起きているあいだに蓄積される毒素や老廃物を取り除く分子の入れ替え作業のことだ。
だが、こうした事実のせいで、この発見はさらに不可解なものに思えた。
まず、大量のエネルギーを必要とする器官が、活動中よりも休息時により活発になるはずがない。さらに脳のハウスキーピング機能では、これほど強力で広範囲にわたる神経活動を説明することはできなかった。
まるで自転車で加速するためにブレーキをかけ、減速するためにペダルを踏むような常識破りの現象だったからだ。
これはぴったりのたとえだ。というのも、人間の脳はつねに活動と休憩のサイクルを繰り返している。考え、熟考し、想像し、新たなアイデアを生み出し、神秘のベールに包まれた意識でさまざまなことを行うためにである。
「私たちには、自分にとって興味深いことをじっくり考える時間が必要だ」とマーカス。
「みずからを戒め、心のなかで起きていることに耳をかたむける必要がある」
努力とリラックスのバランスをとる
懸命に努力して休みなく働くことが確実な成功への道だという考えには、皮肉と悲劇の両面がある。
皮肉なのは、私たちが絶え間なく働いて成功を追い求める一方で、休息によってデフォルトモード・ネットワーク(DMN)を活性化できないために、疲れ果てて仕事の質が低下するということだ。
そして悲劇は、働きすぎが身体的な疲労だけでなく、脳に想定外の負担がかかるせいで精神的に追いつめられ、早死にを引き起こすということだ。
あくまでも仕事に全力を尽くすことに価値があるとする労働倫理を貫きたいのなら、そうしてもかまわない。
だが、本当の意味で長期的な生産性の向上を目指すのであれば、わき目も振らずにあくせく働くよりも、「やり方」(スキルやテクニック)と「あり方」(どのような気持ちで関わるか)、努力とリラックスのバランスをとることのほうが大事だ。
どんなときにCEN(セントラルエグゼクティブ・ネットワーク=目標の達成や高次の認知機能を要する作業を担う脳のネットワーク)を活用し、いつ休ませて回復させるのかを理解する。たとえわずかな時間でも作業から離れれば、その後は驚くほど長く集中することができる。
生産性を持続させるコツは、働くことではなく休むことなのだ。
DMNに活動を行わせるために
<実践するためのヒント>
・1日に20分はぼんやりする時間をつくる。何も考えずに頭を休ませ、心をさまよわせながら、鼻からゆっくり深呼吸をする
・毎日、少なくとも数分間は通常のルーティンや思考から離れてみる。頭をリフレッシュさせ、DMNに活動を行わせるためには、折に触れて脳を休める必要がある
・長い散歩に出かけたり、電車やバスで窓の外をながめるのもいい。私はアイデアが必要になると、目的地を決めずにバスに乗ることもある
・バスタブがあれば、シャワーよりも湯に浸かることをおすすめする。筋肉痛をやわらげたり、血糖値を下げたりするだけでなく、考えを自由にさまよわせることができるため最高の思考力が生まれる
文/ジョセフ・ジェベリ 写真/shutterstock
何もしない時間 脳の隠れた機能を最大限生かす(かんき出版)
ジョセフ・ジェベリ (著), 清水 由貴子 (翻訳)

2026/6/17
1980 円(税込)
320ページ
ISBN: 978-4761278786
樺沢紫苑氏 絶賛!
\「休むこと」は、最高の脳の戦略である/
なぜ、散歩中にひらめくのか?
なぜ、ぼんやりするほど脳が冴えてくるのか?
なぜ、何もしないことで集中力と創造性を取り戻せるのか?
その答えは、
“休息時”に働く、脳の隠れた機能にあった。
現代人は、働きすぎている。
メール、会議、SNS、
終わりのない煩雑な仕事の処理……。
私たちの脳はつねに「集中モード」を強いられ、
気づかぬうちに疲弊している。
しかし、最新の神経科学は、
驚くべき事実を明らかにした。
脳は、「何もしていないとき」にこそ、
・記憶を整理し
・感情を回復し
・創造性を育て
・人生を変えるアイデアを生み出している
本書では、神経科学者である著者が、
世界最先端の研究と自身の体験をもとに、
・なぜ、「ぼんやりする時間」が創造性を高めるのか
・なぜ、自然の中では脳が回復するのか
・なぜ、ひとりの時間が認知能力を強くするのか
・なぜ、睡眠が脳を修復するのか
・なぜ、遊びや運動が脳を鍛えるのか
・なぜ「何もしない時間」が人生を整えるのか
を、豊富な神経科学の研究とともに解き明かしていく。
さらに、
・海馬
・前頭前皮質
・扁桃体
・デフォルトモード・ネットワーク(DMN)
など、脳の重要な部位がどのように働き、
私たちの思考、感情、集中力、
幸福感に影響を与えているのかを、
具体的なエピソードとともに、
驚くほどわかりやすく紹介。
「脳科学なのに圧倒的に読みやすい」
「読みながら、自分の人生を変えたくなる」
そんな知的興奮と実用性を兼ね備えた一冊。
さらに本書では、
・なぜ、過労は脳を壊すのか
・なぜ、現代人は休めなくなったのか
・なぜ、“生産性の罪悪感”を抱えてしまうのか
・なぜ、休むほどパフォーマンスが上がるのか
についても、世界最先端の研究をもとに解説する。
休息は、怠惰ではない。それは、
脳の機能を最大限に引き出し、
創造性・集中力・幸福感を取り戻すための
「積極的な技術」なのである。
仕事、創造性、人間関係、メンタルヘルス――。
疲れ切った脳を回復させ、
本来の力を取り戻したいすべての人へ。
