女子3000m優勝のミリアム・ジェリ、男子5000m優勝のボイ・ビリス、女子3000mに出場したノラ・ジェロティッチ(左から)【写真:荒川祐史(ジェリ)、井上学(ビリス、ジェロティッチ)】

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「THE ANSWER 陸上PLUS|STORY」 滋賀インターハイ・平和堂HATOスタジアム(7/30〜8/5)

 遠いアフリカからやって来た高校生にも彼らの“青春”が存在している。今大会は男子5000メートルでボイ・ビリス(札幌山の手2年)、女子3000メートルでミリアム・ジェリ(仙台育英3年)が優勝するなど、ケニア人留学生が長距離種目を中心に活躍。結果だけでは見えない、彼らの奮闘に迫る。(取材・文=THE ANSWER編集部・戸田 湧大)

 彦根の夏、彼らだけが「別次元のレース」を展開していた。

 大会4日目の男子5000メートル、ビリスは序盤からキプロプ・ケンボイ(倉敷3年)と共に3番手以下を引き離した。終盤、ビリスを「歴代最強留学生」とライバル視する吉田星(東海大札幌3年)に一度はリードを許したが、残り200メートルで抜き返し、13分34秒53の大会新記録で優勝した。

「インターハイ優勝を目標に掲げていたので、チャンピオンになれて心から嬉しいです」

 大会3日目に行われた女子3000メートルでも、ジェリが圧倒的な走力を見せた。先頭集団を作ったノラ・ジェロティッチ(世羅2年)を1000メートル過ぎから突き放し、影も踏ませぬ9分02秒42の圧勝で女王の座を掴み取った。

「自分のペースで走ったので、ベストを尽くせたと思います。自分を祝福してあげたい」

 ビリスもジェリも異国の地で辿り着いた「日本一」に喜びもひとしおだった。2人に共通するのは、身体能力に裏打ちされたスピードと持久力。一方で、胸中を語る両者の表情には親元を離れて奮闘する苦労も感じ取れた。

日本で触れた「部活動」の良さ 「精神的に前向きになれる」

 15歳の若者が海を越え、遠い異国で暮らす決断を下すには、強い意志と勇気が必要になる。深い心情を知るため、ミックスゾーンでケニアの公用語である英語で聞いて回ると、それぞれの想いが見えてきた。

 ビリスは「日本に行くチャンスができた時、教育や長距離走のキャリアを求め、日本に来ることを決めました」と回顧。だが、最初の1年間は適応に苦しんだという。

「慣れるのが本当に大変でした。今は順調に物事が進んでいますが、やっぱり一番難しいのは言語ですね。日本語は特に難しいですが、一生懸命勉強しています」

 年齢より大人びた風格があるが、内面は普通の高校生。ホームシックや孤独感に襲われる夜も少なくない。そうした環境下で心の拠り所になっているのが「部活動」だ。

 男子5000メートルで7位入賞を果たしたパレイヨ・アントニーイタ(福岡第一2年)は個人種目でありながら、チーム単位で活動する部活の価値を実感している。

「1人で練習するのもいいですが、チームが一番いい。お互いに励まし合ったり、高め合ったりできる。仲間がいることで、精神的にも前向きになれます。1人だと考えすぎてしまうことがあるけど、グループの一員になれば、安心感があって思い切り走れるんです」

 ジェリも最初は言葉の壁を感じたが、今は「少し理解できるようになりました」と実感。そんな日本の生活で学んだことに挙げたのは「親切心とチームワーク」だった。

「仲間に陸上のアドバイスをもらうこともありますし、アドバイスすることもあります。力を合わせることでいいチームを作っているんです」

日本人選手が留学生に受ける刺激「常に先頭を走っている」

 陸上界では、留学生の起用を巡って競技上の公平性が議論されてきた。

 全国高校駅伝では1995年に留学生の出場が各校1人に限定され、2008年にはエースが集結する「花の1区」起用を禁止。2024年には起用区間が最短の3キロ区間のみに限定された。

 しかし、留学生がいるからこそ生まれる、より質の高い競争環境もある。同じチームで走る日本人選手には別の景色が見えている。

 女子800メートル決勝に進出したルーキーの横山海詩(仙台育英1年)は、チームメートのジェリについて「能力が高くて、練習でも常に先頭を走っている。見ていて凄いなと思います」と語る。入学からまだ4か月ながら身近にいる全国トップクラスの選手の存在をレベルアップに繋げている。

 大会では「留学生」としてひと括りに語られることがある。

 しかし、親元を離れ、日本語に挑戦し、同僚から教わり、時には自分が教える。励まし合い、同じユニホームで戦う。そんな地道な日常の先に、彼らの走りがある。日本で覚えた「ブカツ」には、思い切り走れる仲間がいた。

(THE ANSWER編集部・戸田 湧大 / Yudai Toda)