並んでまで食べたいが消えた日…。首都圏ラーメンフェスの崩壊前夜

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普段は遠くて足を運べない人気店の味が一度に楽しめるフードフェス。なかでもラーメンフェスは根強い人気があり、首都圏では週末ごとに各地の公園や広場で開かれているほど身近になった。会場のにぎわいを見る限り活況に映るが近年、今までの首都圏のラーメンフェス大半が開催されず、現在継続しているものは数えるほどになってしまっている。

2009年、国内のラーメンフェスの黎明期に「大つけ麺博」を立ち上げ、長年業界を見てきた株式会社ブルースモービル代表の井上淳矢氏は、「参入が相次いだ拡大期を経て、現在は淘汰の段階に入った」と捉えている。

ラーメンフェスの開催自体が珍しかった時代から、取り巻く環境も大きく変わった。そんなラーメンフェスの現場で、いま何が起きているのか。

コロナ禍後、フェス業界に新規参入が相次ぐ

井上氏は、もともとテレビ番組の制作を手掛けていた。フードイベント事業へ進出するきっかけとなったのが、食べ歩き番組の制作などで知り合ったラーメン経営者とのつながりだった。日本各地の人気つけ麺店やラーメン店を集結させた「大つけ麺博」を2009年に初開催。以降開催を重ね、来場者数は累計300万人を超える大規模フェスへと成長させた。現在はラーメンだけでなく、餃子や唐揚げ、カレーなど、年間30本程度のフードフェスを手掛けている。

「当時は大規模フードフェスの開催がほとんどなく、運営モデルも確立されていませんでした。ガスや電気、給排水、プレハブの厨房設備など、営業に必要な事業者を訪ね歩き、企画から説明して開催に漕ぎ着けました」と井上氏は振り返る。一から構築した運営の仕組みはその後、フードフェス全体の基本形にもなっている。

ラーメンフェスが盛況さを増したのは、コロナ禍が明けてからだ。行動制限の反動もあり、各地で屋外イベントが相次いで復活。ラーメンフェスへ新たに参入する事業者も増えた。ただ、開催数に比例して来場者数も増えるわけではない。同じ週末に近隣で似たようなフェスが開かれれば、お客はおのずと分散する。

誘致する店舗に違いはあっても、人気店を集めて会場内で食べ歩くという基本的な仕組みは共通している。来場者から見れば、数あるイベントの中から特定のラーメンフェスを選ぶ理由が分かりにくくなってきた。

新たに参入したものの、想定したほどの利益を上げられず、継続を断念する事業者も出てきている。井上氏は「拡大期を経て、現在は生き残るイベントが選別される段階に入ったと思います」と語る。

容器は約3割上昇、一杯800円から1200円に

競合の激化に加え、主催者を圧迫しているのが運営コストの上昇だ。ラーメンフェスを開くには、会場と出店店舗を確保するだけでなく、プレハブ厨房やガス、電気、給排水を通す必要がある。さらに客席や警備、清掃、ごみ処理にも費用がかかる。

近年は容器や割り箸などの消耗品も値上がりしている。井上氏によると、プラスチック容器の価格は約3割上昇。以前は1膳で約1円だった割り箸も、約2円になったという。数万食を提供するイベントでは、わずかな値上がりも大きな負担となり、販売価格に転嫁せざるを得ない。

実際に大つけ麺博では2009年の開始当初、一杯800円で販売していたラーメンが今後1200円程度になる予定だという。通常の店舗なら1200円は珍しい価格ではなくなったが、複数のラーメンを試すことが魅力のひとつでもあるフェスでは、購入杯数の減少にもつながりかねない。通常の店舗なら1200円は珍しい価格ではなくなった。一方、複数のラーメンを試すことが魅力のひとつでもあるフェスでは、購入杯数の減少にもつながりかねない。価格へ転嫁すれば来場者は食べ比べを楽しみにくくなり、据え置けば主催者や出店者の負担が増す。

揺らいだ「フェスの価値」 投票制で品質を守る

井上氏がコストと並ぶ課題に挙げるのが、フェスで提供されるラーメンの品質だ。ラーメンフェスがまだ珍しかった頃は、店主本人が会場に立ち、自ら調理するケースが多かった。店にとっても、来場者へ名前を知ってもらう貴重な機会であり、自店を代表する一杯を提供しようという意識が強かったという。

ところが、各地でフェスイベントが増え、出店する側にも運営ノウハウが蓄積されると、フェスでの調理は弟子やスタッフに任せる例も増えてきた。

「店舗で一からスープを仕込まず、外部へ製造を委託したOEMスープを使用するケースも見られました」と井上氏は話す。効率化を追求した結果、店ならではの仕込みの工夫や味づくりへのこだわりが伝わりにくくなるという課題もあったという。

井上氏によれば、ラーメンフェス来場者の約8割は30代以上の男性だという。全国のラーメン店を食べ歩く愛好家よりも、ふらりと立ち寄るライト層が中心だ。「何店舗かをその場で食べ比べられるため、ラーメンに詳しくない人が食べても違いが分かりやすい」と井上氏。丁寧に仕込み品質を追求する店と、イベント向けの効率を優先する店が並べば、品質の差は相対的に伝わりやすい。

井上氏は出店店舗の意識を高める仕組みとして、人気投票や賞レースを取り入れてきた。順位がつけば、各店が会場でも自店らしい一杯を提供しようという意識につながる。現在、井上氏が主催するラーメンフェスでOEMスープを使う店は少なく、各店とも品質の維持に取り組んでいる。こうした対策もあり、井上氏が開催するフェスでは客足を維持できていると話す。

ラーメンフェスは本当に限界を迎えているのか?

では、ラーメンフェスはすでに限界を迎えているということなのか。

井上氏の話からは、フェス自体の可能性が失われたというより「全国の人気店を集め、ラーメンを販売すれば人が来る」という従来のモデルを見直すべき段階に来ているのではないか、という点が浮かび上がる。

前述の人気投票や賞レースは、品質向上だけでなく、来場者の参加意識を高める仕掛けにもなっている。投票制にすることで来場者はラーメンを食べるだけでなく、気に入った店を応援する側になる。店舗側も常連客やSNSのフォロワーへ来場や投票を呼び掛けるため、イベントの情報発信を担うようになる。

商品の見せ方も変化している。井上氏は「初開催の頃は、来場者がパンフレットの紹介文まで丁寧に読んでいた」と振り返る。しかし、短時間で情報を得るコンテンツが広がった近年は、会場やSNSに掲載された写真や大見出しで商品を判断する傾向が強まった。特に同一価格帯の商品では、チャーシューの多さやトッピングの豪華さなど、よりお得感をアピールした商品が選ばれやすいという。そのため井上氏は、「出店者の方には、ひと目で魅力や特徴が伝わる写真にした方がいいとアドバイスしています」と話す。

販売方法も見直した。今年の「大つけ麺博」では、通常の半量ほどのラーメンを一杯800円、二杯セットを1500円で提供する「食べ比べサイズ」を導入する。値上がりが進む中でも複数店の商品を試せるようにと、量と価格の設計を変えた取り組みだ。

誰が選んだ店なのか、何を競うのか。会場でしか食べられない商品はあるのか。価格や量のバランスだけでなく、来場者が「行ってみたい」「食べてみたい」と思える理由をどうつくるかが、これまで以上に重要になっているのだ。

ラーメンフェスの淘汰が進む首都圏に対し、地方ではどのような可能性があるのか。後編では、地方開催ならではの楽しみ方や、地域に人や消費を呼び込むための仕掛けを取り上げる。

【後編記事】「地方だから」が強みに変わる!? 来場回数は首都圏の約2倍!! 新時代ラーメンフェス必須条件とは

【つづきを読む】「地方だから」が強みに変わる!? 来場回数は首都圏の約2倍!! 新時代ラーメンフェス必須条件とは