広末涼子、深津絵里、新垣結衣、松坂桃李、風間杜夫…お盆に観たい「亡くした大切な人との映画」5選
お盆の時期、故郷に帰省して何かしらの行事に参加した人も多いだろう。日本を含む東アジアでは故人の魂を尊ぶ傾向がひときわ強く、ときに生者を導く存在とみることもある。日本映画に「亡くなった人と生者」を描く良作が多いのは、そんな文化的背景もあるはずだ。映画解説者の稲森浩介氏がこの時期に観るべき5本をセレクトする。
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妻が抱えていた“秘密”
〇「秘密」(1999年)
亡くなったはずの妻が、娘の身体の中に生きていた。夫婦はこれからどうやって暮らしていくのだろうか。
妻の直子(岸本加世子)と娘の藻奈美(広末涼子)がスキーバスの事故で病院に運ばれた。夫の平介(小林薫)が駆けつけると、直子は息を引き取るが藻奈美は一命をとりとめる。しかし、藻奈美の身体の中には直子の人格が宿っていた。

外見は娘なのに中身は妻という現実に戸惑う平介。だが、妻はその環境に慣れるにつれ、高校生だった娘の身体を借りてこれまでできなかったことを実行する。大学の医学部に進学後、ヨット部に入部し先輩に好意を持たれるなど人生をやり直し始めた。しかし、次第に娘の人格が戻り始めて……。
最後に“秘密”が何であるかが明らかになる。それを知った時、観る者はこれまでのストーリーを思い起こすだろう。主演の広末は、同年公開の「鉄道員(ぽっぽや)」で雪の中から現れる高倉健の娘役で話題になり、本作では外面は娘なのに内面は40歳の妻という難度の高い役を演じ多くの賞を受賞した。
原作は東野圭吾氏の同名小説。“秘密”の明かされ方が映画とは違うので、ぜひ比べてみてほしい。東野氏が大ベストセラー作家の道を歩み始める記念碑的作品だ。本作では藻奈美(中身は直子)が通う大学の教師役で出演している姿も見られる。
この原稿を書いている時に東野氏の訃報が流れた。心よりご冥福をお祈りします。
死んだ夫と旅をする
〇「岸辺の旅」(2015年)
亡くなった夫と残された妻が旅をするロードムービー。黒沢清監督がメガホンをとった。
ピアノ講師の瑞希(深津絵里)が家で食事をしようとすると、3年前に失踪した夫・優介(浅野忠信)が現れた。夫は「俺死んだよ、富山の海でね」と話す。優介は仕事に悩んで自死したのだった。
優介は妻が作ったぜんざいを食べ始める。このシーンを見て、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の名作「ブンミおじさんの森」(2010年)を思い出した。ブンミが夕食をとっていると、亡くなった妻がふと現れるのは同じだ。本作と違うのは、現れ方がこの世のものとは思えない怖さを纏っているところだ。本作では、妻はごく普通に夫を受け入れていて恐怖感が全くない。
2人は優介の辿った道のりを訪ねる旅にでる。最初は新聞配達所で、そこにいる島影(小松政夫)もこの世に思いを残す死者だった。その後も大衆食堂を営む夫婦や、山奥の農園の家族など優介が世話になった場所を訪れる。
画面には常に死の影がひそみ、どこまでが彼岸と此岸なのか判然としない。瑞希はその2つを往還しているのだろうか。やがて夫婦は、これまで知らなかった相手の内面を知り、慈しむようになる。だが、別れの時が近づいていた。
深津はキャリアが長いわりには出演本数が少ない人だ。しかし、作品選びにはこだわりが窺える。「(ハル)」(1996年)、「博士の愛した数式」(2006年)、「悪人」(2010年)。いずれもタイプは違うが人間を深く掘り下げる作品だ。根強いファンが多い深津、次作ではどんな人物を演じるのか楽しみだ。
亡くなった夫が側で見守る
〇「トワイライト ささらさや」(2014年)
亡くなった落語家の夫・大泉洋が、この世に残した妻・新垣結衣の元に現れるファンタジックな人情劇。
売れない落語家・ユウタロウ(大泉洋)と妻・サヤ(新垣結衣)は息子を授かり幸せな日々を送っていた。だが、ユウタロウはトラックに轢かれて亡くなってしまう。妻子が心配で成仏できない夫は、人の身体を借りて側で見守ることに……。サヤがささらという町に移り住むと、ユウタロウはサヤを助けたい時や、伝えたいことがあると町の誰かに乗り移る。
乗り移られた人を演じる役者たちの演技が見ものだ。当時5歳の寺田心が滔々と落語家の口調で話すところは、さすが天才子役と納得するが、何と言っても富司純子のべらんめえ口調が最高だ。
「馬鹿だねえ、お前は」と言ってあぐらをかき「俺を見える人間だけに乗り移れるんだが、どうも1回だけらしいや」と説明する。やがて夫婦喧嘩となるのだが、このシーン、まるで大泉がしゃべっているように見えるから不思議だ。富司はコメディエンヌとしても一流だったのだ。
やがてお盆になり、ユウタロウとの別れがやってきてサヤは号泣する。涙の芝居は苦手だったという新垣が、このシーンは感情が入り一日中泣いていたという。ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(2016年)で全国的な人気を得る2年前の作品。初めての母親役だった。
新垣と大泉の絶妙なやり取りが、夫婦の機微を感じさせて楽しい作品だ。こんな愉快な幽霊だったら、いつでも現れてほしいものだ。
一度だけ亡くなった人に会えます
〇「ツナグ」(2012年)
もし亡くなった人に一度だけ再会が叶うなら、あなたは誰と会うことを願うだろうか。
高校生の歩美(松坂桃李)の一族は、死者との再会を仲介する「使者(ツナグ)」を務めている。両親を早くに亡くした歩美は、祖母のアイ子(樹木希林)からその役目を引き継ぐことになった。
最初の依頼者・畠田(遠藤憲一)は、母(八千草薫)に病気のことを伝えないまま死なれてしまったことを後悔していた。再会すると母は優しく言う。「私の病気のことを1人で抱えて苦しかったろう。私は幸せだったよ」と。それを聞いて泣き崩れる畠田だった。
高校生の美砂(橋本愛)は、仲違いしたまま亡くなった親友・奈津(大野いと)と話したいことがあった。サラリーマンの土屋(佐藤隆太)は、プロポーズ直後に失踪した婚約者・キラリ(桐谷美玲)が生きているかを確かめたかった。
この力を使えるのは死者も生者も1回だけ。死者の1人がこう言う。「1回しか使えないのに、私に会いたいと思って選んでくれたことが嬉しい」と。観る人の年代によってどのエピソードに魅かれるかが分かれるだろう。しかし、亡くなった人の思い出が、生きる者の中に残り続けることに変わりはない。
松坂は、生者と死者の間を行き来するという難しい役に挑み、日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。その後、幅広い役をこなせる俳優への一歩となった作品だ。来年のNHK大河ドラマ「逆賊の幕臣」では、主役・小栗上野介忠順を演じることが決まっている。
亡くなった父母と過ごす夏
〇「異人たちとの夏」(1988年)
脚本家・山田太一の小説を、大林宣彦監督が映画化。亡くなった父母との再会を描く。
お盆が近いある日、40歳の脚本家・原田英雄(風間杜夫)は生まれ育った浅草の演芸場を訪れた。すると客席に父(片岡鶴太郎)がいる。両親は英雄が12歳の時に事故で亡くなっているのに……。半信半疑のまま父に誘われ町外れのアパートに着くと、入り口から母(秋吉久美子)が「どうぞ」と言って顔をだした。英雄は「お母さん」と呟き立ち尽くす。
衝撃が伝わる感動的なシーンだ。部屋に入ると両親からやさしくされ、英雄は温かい気持ちに包まれる。ちゃぶ台、扇風機、すだれ、朝顔、風鈴。その一つ一つは家族3人がここで生活していた証しだ。
いなせな職人の父を演じる片岡の好演も光るが、母親役の秋吉が強い印象を残す。母は32歳の時に亡くなった姿のままだ。自分より若い母に何かと面倒を見られ、ドギマギする英雄。秋吉は「息子を見つめる目つきが色っぽすぎるから、もっと自然にしてほしいと大林監督に言われたことを覚えています」と語っている(「週刊文春CINEMA」2024年春号)。
英雄はマンションの住人・桂(名取裕子)と親密になる。桂は両親と会うたびにやつれていく英雄に、もう会わないことを約束させた。悩んだ末に英雄はすき焼き屋で両親に別れを告げる。2人が「お前に会えてよかったよ。お前は自慢の息子だ」と言って消えていく場面は、何度観ても泣けるという人が多い。
異人でも幽霊でもいい、もう一度会って話をしたい。親を亡くした経験のある人には、いつまでも余韻が残る作品だろう。
稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集
デイリー新潮編集部
