バレーから転向、日本一に ベンチプレス30kg→95kgに3年間で覚醒…陸上の魅力は「頑張るほど…」――鹿児島南・坂口はな
「THE ANSWER 陸上PLUS|STORY」 滋賀インターハイ・平和堂HATOスタジアム(7/30〜8/5)
ベンチプレス95キロを挙げる逸材が日本一に輝いた。女子ハンマー投げで初優勝を飾ったのは坂口はな(鹿児島南3年)。バレーボールと掛け持ちした中学時代を経て、高校から陸上に本格転向。陸上界にその名を刻んだ。(取材・文=THE ANSWER編集部・戸田 湧大)
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174センチの長身から放つ4キロの鉄球は高く、彦根の夜空へと舞い上がった。
大会4日目の女子ハンマー投げ決勝、ライバルに逆転された直後の最終5投目。坂口はメガネの奥の目を鋭くした。ハンマーを地面に擦らせるようにして体の重心を低く回転させ、鉄球が大きく円を描く。
「今までやってきたことの全力を出し切ることが一番」
3年間の全てを込めた高校最後の1投。電光掲示板に「57m44」と表示されると、背後から大きな歓声が聞こえた。ドラマチックな逆転V。振り返ると、視界に飛び込んできたのは声を枯らして応援してくれる仲間や鹿児島から駆け付けた家族、涙を流す後輩……。
「あぁ、良かったな」
陸上を選択しなければ味わえなかった光景だった。
競技に初めて触れたのは中2の頃。170センチを超える恵まれた体格に惚れ込んだ校長からの熱烈なラブコールに根負けし、砲丸投げを始めた。
当時はあくまでバレーボール部との“掛け持ち”。普段は体育館でスパイクを打ち込む中、陸上の大会1週間前に校長からマンツーマン指導を受ける日々を過ごした。
「当時は楽しい感情は無くて。『出ないといけない』というマイナスな気持ちの方が大きかった」
転機は高校入学直後に訪れた。
今では転向に感謝「バレーだったら、インターハイ出場も無理だった」
両親や周りの勧めで陸上に本格転向した。
初めてジムで筋力トレーニングをした時、細身の先輩が自分の体重を遥かに上回る重量のベンチプレスを軽々と挙げる姿に衝撃を受けた。かたや自分はベンチプレス30キロ。バーベルスクワットは60キロすら挙がらない。鼻をへし折られた気分だった。
「すごい先輩が多かったので。そういった方々に感化されて徐々に成長することができた」
悔しさを糧に猛練習を積み、今では95キロのベンチプレスを挙げるようになった。140キロのバーベルスクワットもお手のもの。パワークリーンは90キロを挙げる。5月の県記録会では高校歴代3位の57メートル56をマークした。
そして今夏、大会2日目の砲丸投げ13メートル17で3位に入り、ハンマー投げで日本一を掴み取った。「凄くうれしいのと、ワクワクというか、まだ実感できていない」と独特な鹿児島訛りで喜びを表現した。
「陸上じゃないとここまで来られなかった。バレーのままだったら、インターハイ出場も無理だったと思うので」
改めて今、競技転向を勧めてくれた先生や家族に感謝の気持ちを込める。それ以上に坂口自身が陸上の面白さを知った。
「バレーは団体競技なので、自分がどう頑張っても出来ない部分もある。個人競技は自分との闘い。頑張れば頑張るほど記録が応えてくれる。そこが楽しいし、やりがいです」
次に狙うのは高校記録。10月のU20日本選手権(静岡)で、2021年に村上来花が樹立した62メートル88の更新を目指す。「最初からちゃんと試合の流れを作っていけるような選手になりたい」。日本一はあくまで通過点。レンズの奥の瞳は、もっと先を見ている。
(THE ANSWER編集部・戸田 湧大 / Yudai Toda)

