熊本地震による観光の窮状を訴える旅館「青風荘」の河津社長。地震後、予約キャンセルが相次いでいる(6日、熊本県南阿蘇村で)

写真拡大

 熊本地震は観光業にも大きなダメージを与えている。

 余震の不安などから熊本県内で被害が比較的小さかった地域も観光客が減り、県全体の宿泊予約キャンセル金額は20億円を超えた。隣県の鹿児島、宮崎にも波及している。観光関係者からは影響の長期化を懸念する声が上がっている。(姫野陽平、高城琴音、渡部優斗)

 全国に知られる観光地の熊本県・阿蘇地域。地震で同地域の阿蘇市、南阿蘇村は最大震度5弱を観測した。大きな被害は確認されなかったが、観光に従事する人の表情は暗い。

 同村の老舗旅館「地獄温泉 青風荘」は安全確認と余震警戒で3日間自粛した後は営業を続ける。地震直後から余震の不安などを理由に宿泊キャンセルが相次ぎ、14日までに約100組。12月の予約もあった。損失額はすでに900万円以上となっている。青風荘は2016年4月の熊本地震で宿泊棟や温泉に被害が生じ、20年に復旧。コロナ禍も乗り越えたところでの地震だった。河津誠社長(64)は「自粛ムードがあるのではないか。復興のためにも安全が確認された地域に足を運んでほしい」と気丈に話した。

 阿蘇市の「道の駅阿蘇」も地震直後に利用客は例年からほぼ半減した。2週間以上たっても7、8割にとどまり、広報担当の荒木和行さん(63)は「今年の夏は混雑を心配していたほどなのに……」と嘆いた。

 熊本県によると、地震発生当日の7月28日から8月6日に受け付けた、ホテルなど宿泊キャンセル金額(暫定値)は、県全体で20億6300万円に上った。

 地震被害は宇城市、八代市など県中部から南部にかけてのエリアで大きかった。一方、北東部の阿蘇地域のキャンセル金額は7億8800万円で全体の4割を占めた。西部の天草地域も2割にあたる4億6500万円に上り、県は「県全体の観光に影響が出ている」と懸念する。広範囲に及んでいる要因には余震の不安と、九州新幹線、南九州道の一部区間の運休、通行止めについて再開のめどが立たないこと、それに伴う道路渋滞など交通事情が悪化していることがあるとみている。

 熊本県南部と接する鹿児島県の観光地では交通アクセスの制限が響いている。

 「いおワールドかごしま水族館」(鹿児島市)は、例年は夏休みの親子連れで混雑するが、地震発生1週間の来館者数は前年比で約3割減。同館企画営業課の検見崎温久(けんみさきはるひさ)課長(60)は「明らかに来館者が少ない」と肩を落とす。城山ホテル鹿児島(同)も10日時点で、9月までの約5300人分の予約がなくなった。運営会社の渡千左代(わたりちさよ)専務執行役員は「新幹線が全線復旧しないと秋の行楽シーズンまで影響が長引く」と不安を口にした。

 宮崎県も客足が遠のいており、県ホテル旅館生活衛生同業組合によると、3日時点で宮崎市など県内116施設で約1万人分の宿泊キャンセルが出た。

行政に支援要望

 観光事業者からは行政に支援を求める動きが出ている。12日には熊本県のホテル・旅館関係者が県に対策を要望した。

 県の資料によると、16年4月の地震では、翌5月末までの県内の宿泊キャンセルは33万人超、経済損失額(推計)は380億円超に達した。県は、今回も同様の事態が起きることを警戒し、国と連携した観光への支援を検討。木村敬知事は「熊本に『来て応援』をしてほしい」と訴える。鹿児島、宮崎両県も支援を検討している。

 24年1月の能登半島地震で被災した石川県でも、県全体の観光に影響が出た。その際、県は国の助成を受け、宿泊費の補助事業を展開。8か月間で延べ約49万人の客が利用した。県観光戦略課は「旅行需要の喚起に役立った」と話す。

 東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害リスク学)は「観光は被災地の経済を元気づける支援になる。観光客を受け入れられる自治体は歓迎していることを積極的に発信し、国も宿泊費助成などを迅速に行うべきだ」と話している。