タピオカブームは終わったのになぜ? ゴンチャが日本で成長を続ける「3つの理由」
アメリカの大手投資ファンド、ベイン・キャピタルがティーカフェの「ゴンチャ(Gong cha)」を買収することで合意したと8月6日に発表した。ゴンチャは世界で2200店舗を展開し、日本は主要なマーケットの1つに位置づけられている。
【画像】「ゴンチャ」と絶妙に競合しなそうな業界最大手のカフェ
日本ではタピオカブームで一躍名を広めたゴンチャだが、ブーム終焉後も店舗数を伸ばして成長している。なぜ勢いを保つことができているのだろうか。
日本で十分に開拓されていなかったティーカフェ市場
ゴンチャは2006年に台湾で誕生し、2015年9月に日本に上陸した。日本でタピオカブームが巻き起こった2019年末の国内の店舗数は55店舗。2026年6月時点で約240店舗まで拡大しており、2028年までに400店舗まで拡大する目標を立てている。
タピオカブームの際は、「ジ アレイ(THE ALLEY)」「ココトカ(CoCo都可)」「パールレディ(Pearl Lady)」といったさまざまなブランドが、原宿など若者が集まる場所に出店してしのぎを削っていた。しかし、タピオカブームを代表する主要ブランドの中で、現在も国内で3桁の店舗網を維持しているのはゴンチャだけだ。
ゴンチャの成長を支えている要因は3つあると考えられる。
1つ目は日本において日常使いのティーカフェという市場を開拓したこと。2つ目はタピオカブームの際、競合がティーカフェではなくタピオカという商品に目を向けたこと。3つ目は顧客の店舗利用の敷居を下げていることだ。
ゴンチャはもともと、タピオカ屋として日本に上陸したわけではなかった。当初はドリンクの甘さや氷の量、各種トッピングができるカスタマイズティー業態としてカフェ市場に参入したのだ。タピオカはトッピングの一つに位置づけられていた。
日本にはお茶に親しむ文化があったものの、自宅で淹れて楽しむもの、ペットボトルで購入して持ち歩くものという常識が根づいていた。カフェ業態は「アフタヌーンティー・ティールーム」のような紅茶を主役とするカフェは存在していたが、紅茶と食事、スイーツなどをゆったりと楽しむティールームとしての性格が強い。
実際、ゴンチャはタピオカブームがピークを迎える前から、ティーカフェ市場の潜在性に目を向けていた。2018年には外食でお茶を楽しむ機会が少ないことなどから、国内のティーカフェ市場には1800億円程度の潜在需要があるとの見方を示していたのだ。
ゴンチャ日本法人の取締役社長を務めていた葛目良輔氏は、タピオカブームが本格化する前、商業施設新聞のインタビューでこう話している。
コーヒー主体のカフェチェーンは、現在スターバックスを筆頭に大きなポジションを得ているが、必ずしもコーヒーが好きなわけではなく、カフェという場所へ行くスタイルが好きな、いわば“コーヒー苦手なカフェ好き”という顧客層が多いのではないかと感じていた。(「人気の台湾ティーカフェを展開 コーヒー苦手なカフェ好きに照準 20年末に100店体制確立」)
日本でカフェと言えば、コーヒーが常識化していた。顧客の好みに応じてカスタマイズができ、店内での利用も持ち歩きも可能な日常使いのティーカフェは、日本において空白の市場だったのだ。
タピオカブームがゴンチャに与えた恩恵
ゴンチャはタピオカブームという偶発的な出来事により、二重の恩恵を得た可能性が高い。1つはブームを背景に店舗数を拡大できたこと。もう1つが競合の視線をティーカフェからタピオカ専門店へと逸らしたことだ。
ティーカフェという業態そのものを模倣すること自体は、そう難しいことではないはずだ。飲食店は人気の業態が生まれると瞬く間に模倣されるという宿命を背負っている。設備と原材料を調達し、人を集めて店舗を構えれば似た商品を販売できるからだ。ヒット業態は模倣店に悩まされることが多い。
ゴンチャのブランドが日本で浸透した2018年から2019年ごろ、参入した競合の多くはタピオカという商品に目をつけた。東京商工リサーチによると、タピオカ専業および関連事業を営む企業は2019年8月の60社から2020年8月には125社へと倍増した。2019年4月から2020年8月までの約1年半では約4倍に増えたという。
2019年12月、タピオカブームがピークを迎えていた時期にゴンチャの日本法人の社長に原田泳幸氏が就任した。日本マクドナルドホールディングスのトップなどを歴任した実力者だ。原田氏の就任後も、ゴンチャはタピオカをあくまでトッピングの一つと位置づけ、ティーカフェというブランドの軸を崩さなかった。
ゴンチャはタピオカブーム時もその後も、お茶の品質や店舗サービスに磨きをかけ、ティーカフェ業態としての強みを磨いていたのだ。
いっぽう、新規参入したタピオカ屋の多くはブーム終焉によって姿を消した。
スターバックスにはない強みとは
カスタマイズに強みを持つゴンチャは、価格の幅も広い。ブラックティーのSサイズは税込み290円だ。スターバックスのブリュードコーヒーショートサイズが394円である。アイスティーブラックのショートサイズは445円だ。
ベーシックな一杯の価格はゴンチャの方が安い。ただし、好みのトッピングをするとスターバックスとの価格差はほとんどなくなってくる。
ゴンチャは国内400店舗体制を構築しようとしているが、出店拡大のカギとなるのは多様な利用シーンに対応することだ。ブラックティー290円という価格設定は、ちょっとした休憩での利用を促しやすい。自分好みにカスタマイズしたいというファン以外の需要を獲得できる。
スターバックスと真正面からぶつからないのもポイントだ。ゴンチャは「おしゃべり歓迎」というコンセプトを掲げている。スターバックスが幅広い過ごし方を受け止める「サードプレイス」を掲げるのに対し、ゴンチャは「おしゃべり歓迎」を前面に出すことで、友人同士などのカジュアルな利用をより明確に打ち出している。ゴンチャはカジュアル路線なのだ。
店舗形態も、カフェとテイクアウト中心のティースタンドの2つを設けている。出店候補地の立地特性や面積に応じて店舗スタイルを変えられるため、出店可能な物件の幅を広げやすい。
ゴンチャはベーシックな一杯の価格、ブランドコンセプト、出店形態の多様性という3軸で店舗利用の敷居を下げることに成功しているのだ。
ゴンチャはタピオカブームで知名度を高めながらも、ブランドの軸を日常使いのティーカフェから動かさなかった。結果として、ブーム時に大量に現れた競合の多くが姿を消す中、ゴンチャは店舗数を4倍近くに増やすことに成功している。
ベイン・キャピタル傘下での次の成長局面に向け、ゴンチャは世界での成長を目指すことになる。すでに世界33市場に展開するゴンチャが、日本を含む主要市場で築いた成長モデルをどう磨き、次の世界展開につなげるのか。今後の動向が注目される。
取材・文/不破聡 写真/shutterstock
