(※画像はイメージです/PIXTA)

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内閣府の『令和7年版高齢社会白書』によると、日常生活に制限のない期間を示す「健康寿命」は、令和4年時点で男性が72.57年、女性が75.45年となっています。この統計が示すとおり、70代半ばに差し掛かる親世代は、日常生活は自立して送れていても、少しずつ体力や免疫力の低下を自覚しはじめるデリケートな過渡期にあります。そのような親にとって、子ども家族帰省は、嬉しいだけではない気持ちもあるようです――。Aさん親子の事例から、お互いに無理のない持続可能な帰省ルールを探っていきます。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。

孫の顔を見せたい…お盆に「サプライズ帰省」を実行

Aさん(40歳)は、都内のIT企業で働く会社員です。お盆を控え、1年ぶりに青森の実家に帰省することにしました。妻のBさん(35歳)と、やんちゃ盛りの5歳の息子と3歳の娘を連れての大移動です。

「突然だけど、明日帰省するよ。子どもたちも連れていくから楽しみにしてて」

前日、夫Aさんは実家の母親にLINEを送りました。

母親には日ごろから子どもたちの様子を写真や動画で伝えています。「かわいいわね」「会いたいな」と時折反応をくれる母親に、サプライズをしようと思ったのです。新幹線の予約は1ヵ月前からしていましたが、前々から予定を伝えると、掃除をしたり買い物をしたり準備で負担をかけてしまうという思いもありました。

帰省に対する返事はなく、「あれ、どうしたのかな?」と思いましたが、電話などで確認を取ることなく当日を迎えました。

帰省当日、東京駅のホームは、うだるような暑さです。同じようにキャリーケースを持った人混みのなか、家族全員汗だくで東北新幹線に乗り込みます。

新幹線内も乗車率は120%、デッキまで人が溢れています。退屈でぐずる子どもたちをあやしながら、3時間半。終着駅の新青森駅で降りてから、さらに電車に乗り換えて30分、実家の最寄り駅からさらに徒歩15分。ようやく実家に着いたときには、家族――特に妻Bさんには疲労と苛立ちが募っていました。

「やっと着いたからね、お疲れ様」

夫Aさんは家族を労う声をかけましたが、妻は無言。というのも、夫がいきなり押しかけたことを、妻は心配していたのです。

「いきなり帰省して大丈夫なの? ちゃんと確認とったの?」帰省前にBさんはAさんに何度も尋ねましたが、Aさんは気にしません。「老眼だからね、たぶんLINEにメッセージを打ち込むのもやっとなんだ。都合が悪いなら電話がかかってくるはずだよ。もし両親が外出してたら、僕らだけで過ごせばいいし」「それならいいけど……」

そんなやりとりがありました。

実家の玄関に姿を見せた両親の“意外な表情”

玄関を開けるなり、子どもたちは元気よく両親を呼びました。

「じいじ、ばあば、来たよー!」

先に姿を見せたのは、母親でした。しかし、予想していた満面の笑みではなく、どこか引きつった表情です。遅れて出てきた父親は無表情で、孫の顔すら見ません。

「……もしかして、いきなり泊まりで来たのか」

「昨日の夜、お母さんにLINEしたじゃん。返事来なかったけど。孫の顔を見たら喜ぶと思ってさ」

笑いながら大きなキャリーケースとお土産を玄関にどさっと置くと、子どもたちは楽しそうに奥の部屋へと走っていきます。母親が少しため息をついたのを、Bさんは聞き逃しませんでした。

爆音のYouTube、脱ぎっぱなしの靴…遠慮ない態度に緊張感の漂うリビング

「久しぶりの実家は落ち着くね」と夫Aさん。広くもない実家のリビングで2台のキャリーケースを広げ、子どもたちのためにYouTubeをテレビに繋ぎ、騒がしい音声が家中に溢れました。その後、動画に飽きた子どもたちはソファを飛び跳ね家中を走り回りますが、Aさんが注意することはありません。

それだけでなく、Aさん自身もまた、一つひとつの言動に遠慮がありません。玄関のドアは開けっ放し、スリッパや靴は揃えられず乱雑に散らかっています。

さらに、Aさんは「子どもが熱中症になったら大変だから」と冷房を20度に設定。冷え性の母親は、35度を超える真夏だというのにカーディガンを羽織り、膝掛けをかけて耐えるしかありませんでした。「寒いから少し温度を上げてもいい?」と母親が遠慮がちに聞いても、「子どもがいるから無理だよ」のひと言で押し切られてしまいます。「年寄りはすぐにエアコンを切りたがるよね。だから熱中症になるんだよ」という始末。

Aさんはリビングのソファに足を広げて座り、スマホを眺めながら「お母さん、冷たいお茶ある?」「今日の夕飯なに?」と、まるで中学生のよう。そんな夫の様子を見ていたBさんは、このままではまずいと、当初の不穏な空気に確信を持ちます。夫に対し「あなたの家じゃないんだから、もう少しお客さんの態度をして。もうこの家の人じゃないでしょ?」と注意しますが、Aさんは納得がいかない様子です。

「え? だって俺んちじゃん。実家なのに他人行儀っておかしくない?」

Bさんは夫の幼稚な考え方に呆れ、「いい加減にして。私が気まずいの」と耳打ちしますが、夫は理解できない様子。子どもたちを誘って庭に出て、プールを出して水道から水を大量投入。子どもと一緒になって大きな声を出し、水をかけ合い、遊びはじめました。

そんな様子を黙って見ていた父親は憮然とした表情で新聞を読んでいますが、家のなかはどんどん緊張感が漂います。

「お義母さん、私なんでも手伝うので」とBさんは立ち上がりましたが、義娘に気を遣っているのか、「東京から来て疲れているでしょうから、手伝いはいらないわよ」と断ります。「それに、お盆に実家に帰ったら召使いのようにいろいろ手伝わされたって人多いじゃない? 私はそんなことしないから安心して」。そういわれると、Bさんも返す言葉がありません。

そんなやりとりの最中も、夫Aさんは、冷蔵庫を開けてなにやら断りもなく食べはじめる有様です。「ウィンナーがたくさんあるけど、こんなの毎日食べてるの? 加工肉は年寄りにはよくないよ」などと論評まで加えながら。

母親流のもてなし

Aさん一家の滞在中、母親の朝は5時に始まりました。孫が起きる前に朝食の下ごしらえを済ませ、洗濯機を3回まわし、日差しが強くなる前に洗濯物を干します。妻Bさんも朝早くに起きて、手伝おうとしますが、母親は断固拒否。「嫁にはやらせない」の一点張りです。

皆が朝食を終えるころには、猛暑のなか、大人4人と幼児2人分の食材を求めてスーパーへ歩いて通いました。普段は夫婦2人分、カゴ半分で済む買い物が、両手いっぱいのレジ袋に変わります。袋が手に食い込み、痛いのです。

帰宅しても休むことなく昼食の支度が始まり、片付けが終われば夕食の仕込みが待っていました。孫が喉に詰まらせないよう野菜は細かく刻み、アレルギーはないかと気を配り、息子にはビールとつまみを用意します。父親が、母親に「がんばるな、あいつらにやらせろ」と声をかけます。しかし母親は、帰省してきた子ども家族にやらせるのは、親としての恥だと考えているようでした。

夜になれば、重い客用布団を4組引きずり出し、一人で敷いて回りました。持病の腰の痛みを堪えながらシーツを整え、翌朝にはそれを畳んで押し入れに戻そうとしていましたが、そこは妻Bさんが黙って勝手に手伝いました。Aさんはいいます。

「母さんのやり方があるんだから、無理に手伝わなくていいよ。Bもゆっくりしなよ」

それを聞いた妻Bさんは、さすがにカチンときました。

「だったら、あなたがやってよ! 子どもみたいに無神経にくつろいで、本当に40歳の大人なの? その幼稚な振る舞いに私もううんざり! 先に東京に帰っていい? もう嫌だ!」

ものすごい剣幕に驚く夫Aさん。「母さんからなにか嫌なこといわれたの?」と妻に聞きます。

「違う! あなたのその幼稚な態度にうんざりしてるのよ!」

夕食時に起きた“事件”

そして、その日の夕食時、事件は起こりました。

母親は「せっかく帰ってきたのだから」と、鶏の唐揚げと煮物を仕込みました。Aさんが子どものころから好きだった料理なので、孫たちにも喜んでもらえると思ったのです。鶏肉に下味をつけて寝かせ、油の温度を見ながら二度揚げし、彩りに夏野菜の素揚げも添えます。テーブルに並んだ料理は、どれも手間のかかったものばかりでした。

しかしAさんは、唐揚げを一口かじるとこう言い放ちました。

「あー母さん、Bが最近オーガニックにハマっててさ。こういう濃い味付けとか揚げ物、子どもに食べさせないようにしてるんだよね」

その瞬間、食卓の空気が凍りつきました。隣で妻Bさんは驚いてしまいます。「そんなことありません! おいしくいただいてますから!」と少し大きな声で取り繕いますが、母親の顔からはすっと血の気が引いていました。

「……じゃあ、食べなくていいわよ」

母親は料理をテーブルから下げはじめました。向かいで黙って聞いていた父親が、孫2人に違う部屋でYouTubeを見なさいと促しました。孫が違う部屋に行くのを確認すると、息子を指さし怒鳴ります。

「おまえ、いますぐ荷物をまとめて東京に帰れ!」

Aさんとしては予想外の両親の反応に、つい言い返します。

「なんだよ急に! 孫を会わせに来てやったんだろ!!」

「誰が孫に会わせてくださいとお願いしたんだ、おまえは何様なんだ! 孫を見せたら母親を召使いにしても当然なのか!」と父親は息子にまくしたてます。母親はすでに台所のほうに消えていました。

「お義父さん、ごめんなさい。本当にごめんなさい」と妻Bさんは謝りますが、父親は「Bさんを驚かせて申し訳ない。Bさんを責めてはいない。こんな息子で申し訳ない。気を遣って居心地が悪くなっていただろう。全部このバカ息子が悪いんだ」とAさんを睨みます。

Aさんは怒って、外に飛び出してしまいました。父親に叱られるとすぐに家を飛び出す習性は、中学生のころから変わっていないようです。

実家に帰ると「子ども返り」する夫

その後、妻Bさんは義両親の負担を考え、子どもたちと近くのホテルに泊まると申し出ます。母親は妻Bさんに謝りつつも、そのほうが息子も反省するかもしれないと賛成しました。

父親がBさんに10万円を渡し、「これで孫を遊びに連れていってくれ」と頼みました。知人だという経営者を通して近隣の人気温泉旅館も予約してくれ、そこの代金も払っておくとのこと。「Bさん、あなたがお金を出したことにしなさい」といってくれました。父親の軽自動車を貸してくれ、チェックアウトのときに、鍵をフロントに預けておいてくれたら、父親が引き取りに行ってくれるという配慮までしてくれました。

夫の行方を心配するBさんに、近所のコインランドリーにいるはずと母親がいいました。子どものころから家出をすると必ずそこにいたのだとか。夏はエアコンが効き、冬は暖房があって、家出する子はみんなコインランドリーにいるものだと、母親が笑って教えてくれます。

妻Bさんが荷物をまとめて車で、子どもたちとともにコインランドリーに行くと、案の定、夫はふてくされた様子で座っていました。妻Bさんは「なんだこの人……」と、深いため息が出ます。

父親に怒られたショックで妻Bさんに八つ当たりする夫Aさん。妻は冷静に、いまから一人で東京に帰るよういいました。

「私と子どもたちは遊んでから帰るから。そんなガキみたいな姿の父親は子どもには見せられません。それと、帰ったら今後のことを少し話し合いましょう」

Bさんは、動揺するAさんを新青森駅に強引に降ろしました。最終便なら間に合う時間です。あまりにも幼稚な夫の姿に自分の結婚を後悔したそうです。その夜は父親が払ってくれた温泉旅館に泊まりました。温泉に浸かりながら、「最初からここに泊まって、実家に少しだけ顔を出していればこんなことにならなかったのに」と反省しました。

実家とはいえ、いつまでも自分を無条件で歓迎してくれる場所とは限りません。当然ながら、子世代も気遣いすることが大切です。今後一層年を重ねたら、両親の体力としては、せいぜい2時間くらいの滞在がベストなのかもしれません。それ以上は疲れるだけでしょう。

帰省する予定も、数日前などではなく、数ヵ月前から伝えておくべきです。旅行もしたいからホテルに泊まるなどと、気遣いをしつつ距離を置くことも重要です。親がいつまでも若くないのだと理解できないままでは、いつか親からの強い拒絶を受けるのも当然かもしれません。

長岡 理知

長岡FP事務所

代表