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毎年お盆になると、家族で実家に帰省する人たちの姿をよく見かけます。とても微笑ましい光景ですが、帰省してきた家族を「出迎える側」は、いろいろと思うこともあるようです。島根県の実家に家族で里帰りをしている西尾玲子さん(仮名・42歳)の事例を見てみましょう。

2泊3日の里帰り。毎年ごちそうを用意してくれる母

福岡県に住む西尾玲子さん(仮名・42歳)は、お盆になると家族4人で玲子さんの実家に帰省しています。玲子さんの実家があるのは島根県の温泉街。帰省すると家族みんなで温泉に行き、湯冷ましに外を散策しながら夕焼け色の湖を見るのが毎年の恒例行事となっていました。

「今年もばぁばと温泉に入れるぞ〜」

「やったー! 早くばぁばに会いたい!!」
 

高速道路を走りながら、玲子さんの夫が後部座席に座る娘たちに話しかけます。唯ちゃん(仮名・小学3年生)と瀬菜ちゃん(仮名・小学1年生)は、2人ともばぁばのことが大好き。2泊3日でばぁばと一緒に過ごせるとあって、今日はいつにも増して元気です。

実家に着くと、玲子さんの母・千代子さん(仮名・65歳)が玄関の前で出迎えてくれました。

「いらっしゃい。遠くから疲れたでしょう。ちょっと早いけどお夕飯にしましょ」

玲子さんたちが家に上がると、和室にある大きな座卓に、お寿司やフライドチキン、ピザ、スイカなどが用意されていました。千代子さんは、玲子さんたちが帰省するたびにごちそうを用意してくれるのです。
 

「お母さん、いつもありがとうね」

玲子さんが感謝を伝えると、千代子さんは「いいのよ。夕飯が済んだら温泉に行きましょう」とにこやかに返しました。

温泉代や外食費は玲子さんが負担

千代子さんに甘えてばかりもいられないと思い、温泉代は千代子さん分も含めて玲子さんが負担しています。せっかく来てもらってるのに悪いわよと遠慮する千代子さんに、玲子さんは「ご飯も用意してもらってるんだから、これくらいさせて」と半ば強引に払っているのです。大人3名、子ども2名で5,000円もかからないため、特段負担のかかる金額ではありませんでした。

2日目はお墓参りのあとにショッピングモールで昼食をとります。フードコートのうどんやカレー、ハンバーガーなどを注文することが多く、玲子さんは千代子さんの食べたいものが被ったときは、必ず千代子さん分の昼食代も払うことにしています。夕食は千代子さん宅でお世話になるため、スーパーで軽く食材を調達して帰ります。この日も肉、魚、野菜、パン、お米、娘たちのお菓子など、合計8,000円以上を玲子さんが支払いました。

「年金暮らしのお母さんに無理をさせるわけにはいかない。払えるところは払わなくちゃね」

玲子さんは、千代子さんに金銭的な負担をかけないように配慮を重ねていたつもりでした。

福岡の自宅に戻ると、母から〈まさかの電話〉が

3日目の朝、千代子さんが唯ちゃんと瀬菜ちゃんにポチ袋を渡しました。
 

「はいこれ。少ないけど、おもちゃでも買ってね」

ポチ袋の中には、小学3年生の唯ちゃんに5,000円、小学1年生の瀬菜ちゃんに3,000円のお盆玉が入っていました。2人とも「ばぁば、ありがとう〜!」とうれしそうです。

千代子さん宅をあとにするとき、車の窓を開けて「ばぁば、またね〜!」と手を振る唯ちゃん・瀬菜ちゃんに優しくほほ笑みながら、千代子さんは玲子さんたちの車が見えなくなるまで見送ってくれました。

「今年も楽しいお盆を過ごせたな」と思いながら車に揺られていた玲子さんですが、福岡の自宅に到着した2時間後、玲子さんの携帯に千代子さんから電話がかかってきました。

「もしもしお母さん? 今日はありがとうね、どうしたの?」

玲子さんが電話に出ると、千代子さんは「こちらこそ遠くからありがとう。――あのね……」と言いにくそうに切り出します。

「ずっと言おうか迷ってたんだけど、毎年お盆になるとあなたたちを出迎えてお盆玉まで上げてるんだから、仕送りくらいしてくれてもいいんじゃないかなって」

「月10万円」は、高齢者単身世帯の可処分所得を下回る

千代子さんの生活費は、老齢基礎年金と遺族年金を合わせて月12万円。手取りの金額もほぼ変わりません。

総務省統計局「家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)」によると、65歳以上の高齢者単身無職世帯の可処分所得は11万8,465円です。千代子さんは月12万円の可処分所得があるため、これだけを見ると貯金を取り崩すほと生活に困るレベルではないように見えるかもしれません。

出典:総務省統計局「家計調査報告〔家計収支編〕 2025年(令和7年)65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)の家計収支 −2025年−」

しかし、玲子さん家族が帰省してきたときの食事代や孫へのお盆玉・お年玉などのお金を確保するために、千代子さんは月10万円で生活していると言います。

「私たちを迎えるために、お母さんが生活を切り詰めていたなんて……」

千代子さんに仕送りをしたい気持ちはやまやまですが、玲子さん家族にも余裕があるわけではありません。住宅ローンを毎月10万円返済しており、子どもたちの学資保険も月3万円払っています。玲子さんの夫は正社員として働いていますが、玲子さんは週3日・一日4時間のパート勤務。近くに子育てを頼れる人もいないため、子どもたちが小学校を卒業するまではフルタイムで働くのが難しい状況です。

申し訳なく思いながらも「今すぐの仕送りはできなさそう」と伝えると、千代子さんから「今まであなたにたくさんお金をかけてきたのに。習い事だってやらせてあげたし、私立の学校にも行かせてあげたのに」と小言を言われてしまいました。

そこで玲子さんは思わずムキになり、「それならもう来年から帰らないから安心して!」と返してしまったのです。

「お母さんの気持ちもわかるんです。でも、恩着せがましいことを言われてイラっとしてしまったんですよね……。しかも、帰省中はお母さんに負担をかけないように温泉代や外食費を私が払っていたのに、それに対しては何も思わないのかなって」

数週間後、玲子さんは旦那さんと話し合い、これから千代子さん宅にお世話になるときは、千代子さんに3万円を包んでもっていくことに決めました。お盆玉やお年玉をなしにしてもらうことも考えましたが、子どもたちの楽しみを奪いたくなかったと語ります。千代子さんとの間にわだかまりを残さないために、帰省のたびに現金を渡すのは解決策の一つなのかもしれません。