「まさか家じゅうに…」年金13万円・資産5,000万円、一人暮らしの88歳祖母のもとへ帰省。夏休み中の孫を連れた51歳娘が慌てふためいた〈実家の現実〉
「親には十分な資金があるから、老後は安心だろう」――そう思い込んではいませんか。しかし、高齢の親が直面するリスクは「お金」だけとは限りません。配偶者との死別や一人暮らしをきっかけに、本人が気づかないうちに生活環境や日々の習慣が変化し、思わぬトラブルにつながることもあります。本稿では、88歳のモトコさんの事例をもとに、子ども世代が知っておくべき「親の老後の本当のリスクと見守り方」について、ファイナンシャルトレーナーFP事務所の森逸行氏が解説します。
夏休みの帰省で起きた予想外の出来事
「こんなことになるなんて思ってもいませんでした」
モトコさん(仮名/88歳)は3年前に夫を亡くし、現在は千葉県郊外にある戸建てに一人暮らしです。住宅ローンはすでに完済し、年金は月13万円ほど。さらに、夫婦で長年かけて築いた約5,000万円の金融資産もあり、経済的に不安はありません。
娘のミヨさん(仮名/51歳)は今年の夏休み、子どもたち(モトコさんの孫)を連れて、モトコさんの家を訪ねました。
久しぶりに孫たちも集まり、家族でゆっくり過ごすはずだったその日。夜になると、中学生の孫がいいました。
「なんか足がかゆい」「赤くなってる」
最初は蚊に刺された程度だと思っていました。しかしその後、ミヨさんもミヨさんの夫にも、足や腕に赤い発疹が現れます。原因を探していると、リビングの絨毯の上で小さく跳ねる虫が目に入りました。それは、ノミでした。家の中では大量のノミが発生していたのです。
原因は、父の死後に始まった小さな変化
原因を調べるうちに、家族は一匹の猫に目を向けました。父が元気だったころ、猫は庭にある猫小屋で飼われていました。しかし、3年前に父が亡くなってから状況は変わります。「一人だと寂しいからね」そういって母は、それまで猫小屋で飼っていた猫を家の中で一緒に暮らすように。猫は母にとって、寂しさを紛らわせてくれる大切な存在だったのでしょう。
一方で、高齢になるにつれ、掃除や衛生管理、猫の健康管理、ノミ予防などを以前と同じように続けることが少しずつ難しくなっていたのかもしれません。その小さな生活の変化が、家の中の住環境を少しずつ変え、家族全員がノミに刺されるほどの状況につながっていたのです。
「そんなのいるわけないよ」ノミの存在を認めない母
「家の中にノミがいるよ」
家族は母に事情を説明しました。家族が刺された足を見せても、母は、不思議そうな表情でこう答えます。
「え〜そうなの? 私は刺されてないし、大丈夫じゃない?」と、あまり気にしていない様子でした。
実際には、家族全員がノミに刺され、部屋のなかでもノミの姿を確認しています。それでも母は、「問題が起きている」という認識を持っていませんでした。長年暮らしてきた家。毎日過ごしている環境。少しずつ変化していく生活は、本人にとっては「いつもの日常」になってしまうことがあります。そのため、家族との認識に大きな差が生まれることは決して珍しくありません。
「資産5,000万円」老後資金は十分でも安心できない理由
今回、印象的だったのは、母がお金に困っていたわけではないということです。住宅ローンはなく、年金収入もあり、金融資産も約5,000万円。一般的には、「老後資金は十分に準備できている」と考えられる状況でしょう。
しかし、老後の課題は資産額だけでは測れません。配偶者との死別、一人暮らし、加齢による身体機能や生活習慣の変化。こうした変化は、どれだけ資産があっても自然に起こり得るものです。
老後に本当に必要なのは、「資産」と「見守り」の両方
今回の出来事は、家族が夏休みに帰省したことで初めて気づくことができました。もし誰も訪れていなければ、住環境の変化はさらに進んでいたかもしれません。老後資金を準備することは、とても大切です。しかし、それだけで安心とはいえません。
親の老後を資金面だけでなく生活面からも守るために、帰省時などに家族がチェックしたいポイントは次の5つです。
・住まいの環境に変化はないか
・健康状態や体力に変化はないか
・食事や掃除など、日常生活を無理なく送れているか
・ペットや庭など、身の回りの管理ができているか
・困ったときに頼れる家族や周囲とのつながりがあるか
老後への備えというと、多くの人は「お金」を思い浮かべます。しかし、本当に大切なのは、安心して暮らし続けられる生活環境や、人とのつながりを維持できることではないでしょうか。
高齢の親と会う機会があれば、預貯金の額だけでなく、住まいの様子や日々の暮らしにも目を向けてみてください。その小さな気づきが、大きなトラブルを防ぐきっかけになるかもしれません。
森 逸行
ファイナンシャルトレーナーFP事務所
代表

