人口減少が進む中、地域の病院を維持することが難しくなっています。その影響は病院だけではなく、命を運ぶ救急隊にも、大きな負担となって現れています。

1分1秒を争う、救急の現場。しかし今、この地域では“命を支える医療”が揺らいでいます。

「市役所の近く、下呂市の中心部です。ここにあった休日診療所は廃止され、このあたりにあった看板はすでに撤去されています」(アナウンサー)

人口減少と高齢化が進む岐阜県下呂市。医療体制の変化は、救急隊員にも重くのしかかっています。

そして起きた、救急車の単独事故。事故の背景には、隊員個人のミスでは片づけられない、“地域医療のひずみ”がありました。

隊員24人が所属する下呂市消防本部中消防署。1日約7人の隊員が24時間態勢で市民の安全を守っています。

救急隊長の大森圭朗さん、41歳。この日も朝から交通事故などへの出動があり、昼食の時間がようやく訪れました。手作りの弁当で、疲れた体に力を蓄えます。

「転職して地元に帰ってきた。ここだとみんな地元が多い」(下呂市中消防署 救急隊長 大森圭朗さん)

休憩も束の間、出動要請が入ります。より高度な治療を受けるため病院から別の病院へ患者を搬送する「転院搬送」です。

向かった先は、消防本部からほど近い「下呂温泉病院」です。受診した高齢男性が「脳梗塞」と診断され、専門医がいる病院へ送られることになりました。

午後1時ごろ。患者と医師、看護師を乗せて緊急走行で向かいます。

消防本部によりますと、「転院搬送」は統計を取り始めた2021年は132件、その後高止まりが続き去年は149件ありました。

医師不足で長距離の搬送が常態化

人口が減る一方で、救急隊の負担は増えています。そこで起こったのが…。

2024年12月10日。運転していた救急隊員がガードパイプに衝突する事故を起こし炎上。

現場には黒く焼け焦げた下呂市消防本部の救急車が。乗っていた隊員や医師・看護師の3人がけがをしました。

事故が起きたのは、午前5時前。当時運転していた29歳の隊員はメ~テレの取材に対し…。

「事故直前に眠気を感じました。 注意力が散漫になり前方不注意によりハンドル操作を誤りました。とんでもないことをしてしまったと思いました」(文書の回答)

なぜ事故は起こったのか…。その経緯は?

運転していた隊員は、午前8時半から勤務を開始。

日付が変わった午前0時半に仮眠に入りましたがわずか20分後に出動。

下呂温泉病院に搬送しましたが高山赤十字病院で治療が必要となり、午前3時ごろ、下呂温泉病院を出発。

片道 約50キロを走行し、高山赤十字病院に到着したのは、午前4時ごろでした。

そして、事故は下呂市内に戻る最中に起きました。

往復100キロの長距離運転。下呂市では、長距離の転院搬送が常態化しているといいます。

市議会で指摘された要因は―。

「今回の事故は医師不足により下呂温泉病院の機能が十分発揮されず市外への転院搬送が増え、隊員の負担が増していることも一因のようです」(市議)

病院同士の“役割分担”も

「下呂温泉病院」は地域医療を支える中核病院で、2010年には、地方独立行政法人になりました。

ただ院内に入って目立つのが外来の休診を知らせる看板です。この日は複数の科が休診していました。

産婦人科は医師の高齢化などにより、分娩を休止していて、下呂市の妊婦が高山赤十字病院へ行く最中、車の中で分娩したケースが2件起きました。

「専門医がここの病院をなかなか選んでくれない。地域の病院だと子どもの教育問題とか、買い物とか住居面でどうしても都市部とはハンデがある」(下呂温泉病院 森田浩之 院長)

独立法人化した当初、常勤医師は28人いましたが、現在は16人に。

大学病院から派遣される医師も減り、十分な診療体制を維持することが難しくなっています。

「他院で行ったほうが、より患者のためであると判断した場合には、躊躇なく救急搬送をお願いすることにならざるを得ないですね。医師不足を打開していくためには、他院に助けを求めていくこともやっていかないといけない。病院はなくなってしまうことになるだろうと思っている」(森田院長)

こうした中、地域医療を守ろうという動きがあります。鍵となるのが、病院同士の“役割分担”です。

症状によって異なりますが、脳の手術など高度な治療は高山赤十字病院などが担います。一方、下呂温泉病院は、手術を終えた患者を受け入れ、退院に向けたリハビリなどを担当しています。

自宅への復帰を支える「地域包括ケア病棟」は高齢者の利用が増える見込みで今後、病床を増やす予定です。

Q.ここにきてどうですか?

「最高、人は優しいし空気もきれいで静か」(高山赤十字病院で治療を受けた患者)

「地域ならではのというか、看護師や先生も大変ご苦労されていると思いますが、それでも優しく接してくださいますし、私たちにとってはとっても大切で必要な病院ですね」(患者の家族)

地域医療を支えるための人材育成

こうした地域医療を支えるため、病院は人材育成にも力を入れています。

「同期が少ないので自分でなんとかしなくてはと。今は救急だが外科や内科に呼ばれることがあるので、そういう意味では医者として初期研修を送る上ではメリットかと思います」(研修医1年目 村中慶太さん)

今年4月に採用された研修医は2人。少人数だからこそ、救急から薬の処方まで幅広い経験を積み、地域医療を担う力を養っています。

一方、看護師の今井さんは地元に貢献したいと下呂温泉病院に就職しました。

スタッフステーションでは、少しでも早く独り立ちできるように習得した処置内容を一覧で共有し、病院全体で新人を育てています。

「未見学のものがあったら他の看護師に呼んでもらえる。いろんな人に見守られながら働いている。自分もやれていないからやろうとか把握できやすいのですごくいい」(看護師1年目 今井南里さん)

救急隊員を守る新たな対策

地域医療を支えるには、人材の確保が欠かせません。それは、消防も同じです。

下呂市消防本部では人材確保に加え、隊員を守る新たな取り組みが始まっていました。

昼食をとっている最中に転院搬送の要請があった「下呂市中消防署」。

患者を高山の病院へ送り届けた後、寄ったところは…。

「よーし、休憩していきましょう」

以前は、すぐに本部に戻り次の出動に備えていましたが事故を受けて、市外に搬送した際には帰る途中で5分ほどの休憩を取ることがルールになりました。

「エナジードリンクを買った。『よし、頑張るぞ』という気になる」(下呂市中消防署 救急隊長 大森圭朗さん)

隊長の大森さんは、運転する隊員が眠くならないように大好きなラーメンの話をしていました。

この日、昼食の続きを口にできたのは、午後4時でした。

「こういった側面もあるけどやりがいはあるかなと思います。(やりがいとは?)自分の地元を守るんや!っていう思いですかね」(大森さん)

地域を守りたいという一人一人の思いが、きょうも命をつないでいます。