こちらは、アメリカ・ハワイ州の「ダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡」が2025年4月14日に観測した、太陽の表面(光球)の様子です。


【▲ ダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡が観測した太陽の表面。ケルビン・ヘルムホルツ不安定性に由来する渦や縞模様が捉えられている(Credit: NSF/NSO/AURA/MPS)】

人間には紫色に見える波長416nmの観測データをもとに作成されたこの画像は、NSO(アメリカ国立太陽天文台)によると太陽表面としては史上最高となる解像度約19kmを実現しており、磁場が集中する領域の縁に沿って、無数の渦や極めて細かい縞模様が入り組んでいる様子が捉えられています。


イノウエ太陽望遠鏡は、ハワイ・マウイ島のハレアカラ山(標高3084m)山頂に建設された、直径4mの主鏡を備える世界最大の太陽望遠鏡です。名称は、ハワイ州出身で日系アメリカ人として初めてアメリカ合衆国上院議員を務めたダニエル・イノウエ氏に由来しています。2020年に最初の画像が公開されて以来、黒点などの高解像度画像が公開されてきました。


今回、NSOのDavid Kuridze氏およびFriedrich Wöger氏をはじめとする国際的な研究チームは、これまで理論的に予測されてきた太陽表面の現象が実際に起きていることを特定したとする研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Nature」に掲載されています。


【▲ 長さ500kmのスケールバー(右上)とハワイ諸島の島々の輪郭(中央)を追加したバージョン(Credit: NSF/NSO/AURA/MPS)】

渦は「ケルビン・ヘルムホルツ不安定性」に由来

NSOによると、冒頭の画像に写る渦や縞模様は「ケルビン・ヘルムホルツ不安定性(Kelvin-Helmholtz Instability)」と呼ばれる現象によるものです。ケルビン・ヘルムホルツ不安定性とは、速度の異なる2つの流体が接する境界面で、微小な擾乱(じょうらん)が渦状に成長していく現象です。


身近なところでは、地球の大気中で雲が波状に連なる現象があげられます。また、巨大ガス惑星である木星や土星の大気でも見られる、流体力学上よく知られた普遍的な現象です。


別の言い方をすれば、私たちにとって身近な現象と同じ仕組みが、太陽の磁場とプラズマの間でも起きているということになります。太陽ではこれまでにも太陽大気でケルビン・ヘルムホルツ不安定性が観測されたことはありましたが、NSOによれば太陽表面におけるケルビン・ヘルムホルツ不安定性がこれほど鮮明に捉えられたのは今回が初めてだといいます。


イノウエ太陽望遠鏡による観測データと数値シミュレーションによる再現結果を研究チームが比較したところ、渦どうしの間隔は観測とシミュレーションの双方で50〜65kmとよく一致しており、観測された渦が確かにケルビン・ヘルムホルツ不安定性によって生じたものであることが裏付けられました。


【▲ 太陽表面の実際の観測結果(上段左)とそのクローズアップ(下段左)、シミュレーション結果(上段右)とそのクローズアップ(下段中央)、およびシミュレーションでマッピングされた太陽表面磁場(下段右)を示した図(Credit: NSF/NSO/AURA/HAO)】

太陽の磁場エネルギーの起源を解く鍵に

太陽表面の磁力線は、表面に接する部分の動きによって次第に絡み合い、エネルギーを蓄積していきます。このエネルギーが解放される際には、小規模なナノフレアから大規模な太陽フレアやコロナ質量放出(CME)に至る、爆発的な現象が引き起こされると考えられています。ケルビン・ヘルムホルツ不安定性に由来する渦は太陽表面のいたるところで常に発生しているとみられることから、磁力線を絡み合わせる仕組みの一端を担っている可能性があると研究チームは指摘しています。


また、太陽の外層大気であるコロナが100万℃を超えるほどの高温になる仕組みは、長年の謎とされています。さらに、太陽の磁気活動は約11年という周期で移り変わりますが、その間に蓄積した磁束を効率よく分散させる仕組みも、既存のモデルでは十分に説明できていません。今回特定された太陽表面のケルビン・ヘルムホルツ不安定性は、太陽にまつわるこうした謎を解く鍵になるのではないかと期待されています。



【▲ 太陽の表面をクローズアップした冒頭の画像の領域と、さらに拡大した3箇所の観測データを使って作成した動画(Credit: NSF/NSO/AURA/MPS)】


Kuridze氏は、「太陽の磁場は、自転エネルギーを磁場に変換するダイナモ過程によって生み出されています。しかし、太陽磁場のサイクルは宇宙的な時間スケールでは驚くほど短いわずか11年という周期であり、生成された磁束は効率よく散逸しなければなりません。従来のモデルはこの急速な拡散をうまく説明できていませんでしたが、今回発見した光球のケルビン・ヘルムホルツ不安定性は、この足りなかった磁場拡散の重要な要因になり得ます」と述べています。


Wöger氏も、「今回のケルビン・ヘルムホルツ不安定性の発見が、磁化したプラズマの運動と太陽大気上層へのエネルギー輸送・放出との関係の理解にもたらす広範な影響について、私たちはようやく認識し始めたばかりです」と述べています。太陽表面で日々起きている“ミクロ”な渦は、太陽全体の“マクロ”な活動を左右する仕組みの起点になっているのかもしれません。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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