【南 和行】「ADHD税」を知っていますか?気づかずに払っている「莫大なコスト」があった
「ADHD税」とはなにか
「なぜか毎月お金が残らない」
「大きな買い物をしたつもりはないのに、気づくと出費が増えている」
「また解約を忘れて、使っていないサービスにお金を払っていた」
そんな経験はないでしょうか。ADHDの特性がある人の中には、収入が極端に少ないわけでも、大きな浪費をしているわけでもないのに、なぜかお金が減っていくと感じている人がいます。
記事【毎月、カードの請求額に呆然…ADHDの人が「贅沢していないのになぜかお金がない」状況に陥りやすい理由】では、ADHDの人がお金の管理でつまずきやすい背景として、衝動的な買い物、支払いの先延ばし、将来の見通しの立てにくさなどを取り上げました。
このような、ADHDの特性によって少しずつ積み重なる余計な出費は、当事者の間で「ADHD TAX」と呼ばれることがあります。ADHD TAXとは、正式な医学用語ではありません。直訳すると「ADHD税」という意味ですが、実際に税金を払うということではありません。
忘れやすさ、失くしやすさ、先延ばし、衝動性、管理の苦手さによって、本来なら払わなくてもよかったはずのお金が、少しずつ出ていってしまうことを指す俗語です。
大切なのは、これを「だらしない」「自己管理ができていない」とだけ見ないことです。もちろん、出費を見直すことは必要です。しかし、ADHD TAXの背景には、本人の性格の問題ではなく、ADHDの特性が関係していることがあります。
ADHD専門のカウンセリングルーム「すのわ」の代表であり、臨床心理士・公認心理師の南和行さんが、ADHDの人に起こりやすい「見えない出費=ADHD TAX」について、架空事例を交えながら、その背景と日常生活でできる工夫を解説します。
気づかないうちに出費が増えてしまう
たとえば、20代会社員の佳奈さんの例を考えてみます。佳奈さんは、決して高価なブランド品を頻繁に買っているわけではありません。大きな買い物をしている自覚もなく、本人としては「普通に生活しているだけ」のつもりです。それでも月末になると、なぜかお金が残っていません。
給料が入った直後は、「今月こそちゃんと管理しよう」と思います。けれども、以前登録した動画配信サービスや音楽アプリ、無料トライアルの自動更新がそのままになっていて、気づかないうちに毎月いくつものサブスク料金が引き落とされています。支払い通知のメールも届いていますが、あとで確認しようと思っているうちに、他のメールに埋もれてしまいます。
朝、急いで家を出ると、バッグの中にイヤホンが見つかりません。仕方なくコンビニで安いイヤホンを買います。雨の日には傘を電車に置き忘れ、また買い直す。交通系ICカードを見失い、再発行や一時的な切符代がかかる。どれも大きな出費ではありませんが、何度も重なると、じわじわ家計を圧迫していきます。さらに、先延ばしによる出費もあります。以前からスマホ料金を見直そうと思っていたのに、手続きが面倒で後回しにしていました。
参加したい講座も、早めに申し込めば割引があったのに、「あとでやろう」と思っているうちに期限を過ぎ、通常料金で申し込むことになりました。仕事で疲れた日には、帰り道にコンビニへ寄ります。買うつもりがなかった新作スイーツやカフェラテを手に取り、「今日くらいいいか」と思って買ってしまいます。
SNSで見かけたコスメや雑貨も、「限定」「セール」「残りわずか」という言葉を見ると、ついその場で注文してしまいます。買った瞬間は気分が少し上がりますが、数日後には「そこまで必要ではなかったかも」と感じることもあります。
冷蔵庫の中にも、使い切れなかった食材が残っています。安いと思って買った野菜を腐らせてしまう。家に洗剤のストックがあるのに、見つからずにまた買ってしまう。似たような文房具やコスメが、引き出しの奥からいくつも出てくることもあります。
佳奈さんは、浪費しようと思っているわけではありません。むしろ毎月、「今月こそちゃんとしよう」と思っています。けれども、忘れる、失くす、先延ばしする、衝動的に買う、管理しきれない。こうした小さなつまずきが積み重なり、気づいたときにはお金が残らなくなっているのです。
佳奈さんに起きているのは、単なる無駄遣いではありません。ADHDの特性によって、本来なら払わなくてもよかったはずのお金が、少しずつ生活の中から漏れていく状態です。これが、いわゆるADHD TAXです。
ADHDの特性によって生じる「見えにくい出費」
ADHD TAXとは、ADHDの特性によって生じる「見えにくい出費」のことです。たとえば、サブスクの解約を忘れる。支払い期限を過ぎて延滞金が発生する。鍵や傘、イヤホンを何度も失くして買い直す。買ったことを忘れて、同じものをまた買ってしまう。食材を使い切れずに腐らせてしまう。
一つひとつの出費は、そこまで大きくないかもしれません。しかし、これが毎月、毎年と積み重なると、かなりの負担になります。
しかも、ADHD TAXは本人にも見えにくいのが特徴です。大きな買い物なら、「あれに使った」と覚えています。しかし、延滞金、買い直し、解約忘れ、食品ロス、少額の衝動買いは、日常の中に紛れ込んでしまいます。そのため、「何に使ったかわからないけれど、お金が残らない」という感覚になりやすいのです。
解約忘れなどによる「うっかり出費」
一つ目は、忘れることで発生する出費です。たとえば、サブスクの解約を忘れて、使っていないサービスに何か月も料金を払い続けてしまう。無料トライアルを試したものの、解約日を忘れて自動更新される。支払い期限を忘れて、延滞金が発生する。
ADHDの人は、不注意やワーキングメモリの弱さによって、「あとでやろう」と思ったことが抜け落ちやすいことがあります。本人は、決して払わなくてよいお金を払いたいわけではありません。
しかし、日々の仕事、家事、予定、スマホ通知などに注意が移っているうちに、支払い、解約、更新期限などが頭から抜け落ちてしまうのです。
このタイプの出費に必要なのは、「次は忘れないようにする」という反省だけではありません。むしろ、忘れても大丈夫な仕組みを作ることです。
たとえば、支払いは自動引き落としにする。サブスクに登録したら、その場で解約予定日をカレンダーに入れる。無料トライアルは原則使わない。更新日が近づいたら通知が来るように設定する。「覚えておく」ことに頼らない仕組みが、ADHD TAXを減らす第一歩になります。
鍵や傘、イヤホンなどを買い直す「なくし物出費」
二つ目は、失くすことで発生する出費です。鍵、傘、イヤホン、充電器、交通系ICカード、財布、書類などを失くして、そのたびに買い直す。外出先で必要なものが見つからず、急きょ同じものを購入する。
一つひとつは数百円から数千円の出費かもしれません。しかし、同じような買い直しが何度も起こると、年間ではかなりの金額になります。
ADHDの人は、注意が移りやすく、物を置いた瞬間の記憶が残りにくいことがあります。また、片づけや整理が苦手な場合、物の定位置が決まらず、「どこに置いたかわからない」が起こりやすくなります。
このとき必要なのは、「ちゃんと片づけよう」と気合いを入れることではありません。失くしやすいものほど、置き場所を一つに決めることです。鍵は玄関のトレー。イヤホンはバッグの内ポケット。充電器は職場用と自宅用を分ける。傘は高価なものを一本だけ持つより、安いものを定位置に複数置く。
大切なのは、毎回考えなくても戻せる状態にすることです。
先延ばしによって高くつく「あとでやる出費」
三つ目は、先延ばしによって高くつく出費です。早めに申し込めば安く済んだ講座や旅行が、期限を過ぎて通常料金になる。早割を逃す。書類の提出が遅れて手数料がかかる。修理を後回しにして、結果的に費用が大きくなる。
ADHDの人は、面倒な手続きや、すぐに結果が見えない作業を後回しにしやすい傾向があります。「あとでやろう」と思っているうちに期限が近づき、気づいたときには選択肢が少なくなっている。その結果、本来なら安く済んだはずのものが高くついてしまいます。
これは、時間の先延ばしがお金の損失に変わるパターンです。対策としては、締め切りそのものではなく、「着手する日」を決めることが大切です。たとえば、申し込み締め切りが月末なら、カレンダーには月末ではなく、その1週間前に「申し込む」と入れる。修理や手続きは、「調べる日」「電話する日」「申し込む日」に分ける。
ADHDの人にとっては、「いつかやる」は危険です。「何日の何時に、最初の一歩だけやる」と決めることで、先延ばしによるADHD TAXは減らしやすくなります。
衝動買いによって発生する「今ほしい出費」
四つ目は、衝動買いによって発生する出費です。SNSで見かけた商品をすぐに買う。セールや限定品に弱い。コンビニに寄るたびに予定外のものを買う。ストレスがたまると、ネットショッピングで気分を紛らわせる。
ADHDの人は、目の前の刺激や「今ほしい」という感覚に引っ張られやすいことがあります。買った瞬間は、気分が上がります。しかし後から、「なぜ買ったのだろう」「そこまで必要ではなかった」と感じることもあります。
特に現代は、衝動買いが起こりやすい環境です。スマホを開けば広告が出る。SNSではおすすめ商品が流れてくる。ネットショップではワンクリックで購入できる。支払いもクレジットカードや後払いで、買った瞬間にお金が減った実感が薄くなりやすい。
これは、ADHDの衝動性と相性がよすぎる環境とも言えます。衝動買いを減らすには、買う瞬間に我慢するよりも、買うまでの距離を長くすることが有効です。ネットショッピングのアプリを削除する。クレジットカード情報を登録しない。欲しいものは一度メモに入れて、翌日まで買わない。コンビニに寄る回数を減らす。
「買わないように頑張る」のではなく、「すぐ買えない状態」を作ることが大切です。
余計に買ってしまう「管理しきれない出費」
五つ目は、管理しきれないことで発生する出費です。冷蔵庫の食材を使い切れずに腐らせてしまう。家にあるものを把握できず、同じものをまた買ってしまう。洗剤や文房具の在庫があるのに、見つからずに追加で買ってしまう。保険や通信費、サブスクなどの固定費を見直せず、割高な契約を続けてしまう。
このタイプのADHD TAXは、非常に見えにくいものです。なぜなら、本人には「無駄遣いをしている」という感覚があまりないからです。必要だと思って買っている。安いと思って買っている。足りないと思って買っている。けれども、家の中や契約状況を把握しきれていないために、結果として余計な出費が増えていきます。
ADHDの人は、複数の情報を頭の中で整理し、必要なタイミングで思い出すことが苦手な場合があります。そのため、「何が家にあるか」「いつまでに使う必要があるか」「どの契約が必要で、どれが不要か」を管理し続けることが難しくなりやすいのです。
この場合も、完璧な管理を目指す必要はありません。まずは、持ち物や契約を減らすことです。冷蔵庫の中を少なめにする。日用品のストックは一種類につき一つまでにする。サブスクは月に一度だけ見直す日を決める。固定費は年に一度だけ確認する。管理するものが減れば、管理の負担も減ります。
大事なのは「反省」より「仕組み」
ADHD TAXは、本人のだらしなさだけで起こるものではありません。
忘れやすい。
失くしやすい。
先延ばししやすい。
衝動的に買いやすい。
管理しきれない。
こうした特性が、日常生活の中で少しずつ金銭的なコストになって現れているのです。
もちろん、だからといって何もしなくてよいわけではありません。けれども、「次から気をつけよう」と反省するだけでは、同じことが繰り返されやすいのも事実です。必要なのは、特性に合った仕組みを作ることです。
忘れるなら、自動化する。
失くすなら、定位置を作る。
先延ばしするなら、着手日を決める。
衝動買いするなら、買うまでの距離を長くする。
管理しきれないなら、持ち物や契約を減らす。
フィナンシャルプランナーの岩切健一郎さんは、『発達障害かもだけど、お金のことちゃんとしたい人の本』の中で、「意思ではなく、仕組みや人で対策を立てる」と述べています。これは、ADHD TAXを減らすうえでも、とても重要な視点です。
「次は絶対に忘れないようにしよう」「もう二度と失くさないようにしよう」と自分に言い聞かせるだけでは、同じことが繰り返されやすくなります。むしろ、忘れても困らない仕組み、失くしても見つかる仕組み、先延ばししにくい仕組みを作ることが大切です。
また、どれだけ工夫しても、ADHD TAXを完全にゼロにすることは難しいかもしれません。だからこそ、岩切さんの言うように、「そんなこともあるよね」と自分を笑ってあげることも大切です。
大事なのは、失敗した自分を責め続けることではありません。
「今回はどこでつまずいたのか」
「次はどの仕組みを変えればよいのか」
そう考えることです。
まずは、自分がどのタイプのADHD TAXを払いがちなのかを知ること。そして、一番よく起きるものから一つだけ対策する。自分を責めるより、仕組みを変える。それが、見えない出費を減らし、未来の自分を守るための現実的な一歩です。
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引用文献
『発達障害かもだけど、お金のことちゃんとしたい人の本』岩切健一郎
〈著者〉南和行(臨床心理士)
1979年石川県生まれ。カウンセリングルーム「すのわ」sunowa.net 代表。早稲田大学第一文学部心理学専修を経て、ミシガン州立大学大学院カウンセリング心理学科修士課程修了。ADHD(発達障害)・トラウマ改善のカウンセリングを専門に行う。

