他県の7倍もうどんを食べる「うどん県」といえば?……讃岐うどんの本場・香川県であるのは、言うまでもない。そんな香川県を“原点”と位置付ける、うどんチェーンの2大勢力「丸亀製麺」「はなまるうどん」が、香川回帰に、あの手この手を尽くしている。

【なぜ?】“うどん県”香川関係者が明かす「丸亀製麺の問題点」

 うどんチェーンとして不動の1位の丸亀製麺は、香川県内に限っては大半が閉店するような大苦戦。上戸彩さん・松岡昌宏さんなどを次々と投入して現地で「うどん祭り」を開催するなどイメージアップを狙うも、明確な勢力拡大には結びついていない。対する2番手のはなまるうどんも香川県への本社再移転・オリジナル店舗開設などを行い、香川県民のさらなる取り込みに力を入れてきた。

 香川県は大都市圏でもなく人口が少ないため、この地で販売を強化しても収益的なインパクトは小さい。にもかかわらず、なぜ両社は「讃岐うどんの原点回帰」にこだわるのか……丸亀・はなまる、2社の戦略を分析してみよう。


うどん業界の1位をひた走る丸亀製麺(筆者撮影)

絶対王者・丸亀製麺が「うどん県」香川で大苦戦

 両チェーンの店舗数を見ると、丸亀製麺が約900店、はなまるうどんが約420店でそれぞれ国内1位、2位だ。売り上げでは3〜4倍の差があり、丸亀製麺がはなまるうどんを突き放している事実はゆるぎない。

 ところが香川県では、この構図が逆になる。

 はなまるうどんが県内14店舗を展開しているのに対して、丸亀製麺は2007年に開業した「亀坂製麺 イオンモール高松店」(この店舗のみ別屋号、閉店時には「丸亀製麺」)や「栗林公園店」はどちらも撤退し、いまは高松市内の「高松レインボー通り店」しか生き残っていない。

 なお閉店した2店舗について、別チェーンのうどん店や「コナズ珈琲」に転換されたあとは賑わっており、「丸亀製麺だったから苦戦した」としか解釈しようがない。香川県は現状で、佐賀県(3店舗)、鳥取県(2店舗)よりも店舗が少なく「日本一の『丸亀製麺過疎地』」ということになる。

 いったいなぜ、絶対王者が苦戦しているのか。メディアでは「讃岐うどんなのに、香川県発祥の企業ではないから」(2000年11月・兵庫県加古川市で創業)と言われるが、原因はそこではない。

なぜ、香川県民は「丸亀製麺」に行かないのか?

 理由はシンプルで「香川県内で丸亀製麺が避けられている」ことに他ならない。筆者は香川県出身だが、県民が丸亀製麺に違和感を持つ理由はよく分かる。

 例えば、丸亀市の製麺所で修業して海外でオープンした個人店に、丸亀製麺が「丸亀」という名前の使用を差し止めるべく動いた「丸亀もんぞう」事件は、いまも多くの香川県民に印象を残している。

 この事件は「今後アクションを起こさない」という丸亀製麺側の声明で収束したが、県内のうどん・製麺関係者や「うどんブーム」の立役者であったタウン情報誌の関係者までもが激しく憤った結果、SNSでも大きく取り上げられてしまった。

 それ以外にも「根本的な問題」を丸亀製麺は抱えている。

丸亀製麺が「香川県民ウケしない」根本原因

 まず絶対的な問題として、味が違う点はよく話題になる。県内の讃岐うどん店と丸亀製麺の大きな違いは「カタクチイワシ(いりこ)」だ。

 香川県のうどん店は、いりこを出汁のメインに使うことで、その強い香りを生かしている。対する丸亀製麺は、看板に「讃岐うどん」の表記を掲げてこそいるが、いりこを使用していない。手に取ったかけうどんの香りを嗅いだ瞬間、さっき看板で見た「讃岐うどん」の呼称に疑問を抱いてしまう人は少なくないはずだ。

 讃岐うどんの出汁に関する問題は、ChatGPTやGeminiなどのAIツールに聞いても「いりこがメイン」と一致するほどに、当たり前の話だ。もし丸亀製麺に「讃岐うどん」の表記がないなら「別物だけど、美味しいうどん」として歓迎されるだろう。しかし、丸亀製麺は看板だけでなく店内には香川を代表する山・讃岐富士と呼ばれる飯野山の写真など”讃岐要素”を随所にちりばめている。なのに、出汁が違う。

 もう1つ、今の丸亀製麺は「日常食」としての県民の相場と合わない。香川県ではうどん価格に対する認識が昭和末期〜平成初期の「うどん1杯100円、天ぷら60円」で止まっている人々も多い。実際、はなまるうどんも2000年5月の創業当時は「うどん1杯105円」であった。

 直近の客単価で見ると、丸亀製麺はコロナ前から500円台後半をキープ、はなまるうどんは400円〜500円程度。このあとに価格上昇ラッシュが続いたが、両社の客単価の差は大きい。

 きっかけの1つとなったのは2014年8月、丸亀製麺が期間限定メニューとして投入した「肉盛りうどん」だ。牛肉の煮込みを従来の2倍も盛り付けた分、価格はこれまでの限定メニューの相場であった「400円」の相場を大きく上回る「590円(並)」。あまりの高単価に社内でも議論が分かれたというが、同社初の全国テレビCMを放映する勝負に出た。

 結果的に売り上げが伸び、以降は新商品をプッシュする流れに。「トマたまカレーうどん」「タル鶏天ぶっかけうどん」などの大ヒットを連発した。ホームページに「セルフって、気軽。セルフって、自由。セルフって、本場」と明記し「うどん+天ぷら」の基本を崩していないはなまるうどんとは対照的だ。

 店内を見渡しても、丸亀製麺は高単価商品が多く、はなまるうどんは「かけうどん+α」を食べる人が多い印象を受ける。単価向上を企業の成長に繋げた丸亀製麺は全国で急成長を果たしながらも、香川県では「うどん1杯でそんなに取るんか? おっとろしげ(讃岐弁で「近寄りがたい」)やのぉ!」と見られた面もあるのではないか。

それでもほしい「香川県のお墨付き」

 丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスは、年間2787億円ほどを売り上げ、約106億円の営業利益を生み出している(2026年3月期)。47都道府県で人口ワースト10の香川県で不振であったとしても、別に対策を取らなくても良い……と考えるのは早計だ。

 讃岐うどんの本場で複数の閉店が生じてしまう現状は、本場での支持の薄さが可視化されているようなもの。ブランド戦略として不都合すぎる。創業者・粟田貴也氏はかつて自著で、香川の“製麺所型うどん店”を訪れた印象を基に丸亀製麺を創業した、と語っており、ブランドの原点が香川県にあることを隠していない。にもかかわらず、その香川県で支持が広がらないのは由々しき事態だ。

 現状を打破するための対策として、丸亀製麺はここ数年にわたり大胆な施策を打ち出している。

 例えば、2022年4月に丸亀市と「地域活性化包括連携協定」を締結、同社の研修施設がある離島へのフェリー施設の改修費用や、国重要文化財・丸亀城の石垣修復費用まで拠出している。子ども食堂へのキッチンカー提供なども行っており、松永恭二・丸亀市長いわく「申し訳ないくらいに(支援を)いただいている」そうだ。

 香川県丸亀市との協業で2025年11月に開催した「丸亀うどん祭り2025」も話題を呼んだ。

 上戸彩さん・松岡昌宏さんなどのビッグネームが次々とゲストで登壇し、「よしや」「ジャンボうどん高木」など名店のオリジナルうどんを提供しつつ、丸亀製麺のうどんを打ち出さなかった。「自社のうどんを売らずに、地域活性化に徹する丸亀製麺」の姿が印象に残るイベントであった。総勢315人が3種類のうどんを一斉に試食する「最大のうどん試食イベント」も無事にギネス記録を達成。「丸亀製麺が本場・香川でギネス達成」のニュースは全国を駆け巡った。

「包括協定による地域貢献」と「うどん祭り」など、大胆なイメージ向上策で、丸亀製麺は香川県への定着を狙っている。ただ、多くの人々が違和感を覚える味・価格帯・讃岐うどんの看板を変える様子はなく、こういった地域貢献はあくまで「自社商品を“讃岐うどん”と承認してもらうための布石」とも言えるだろう。

「はなまるうどん」社長はどう思っているのか?

 香川県内でも若い世代は、出汁・麺へのこだわりを持たない人々も増えてきた。このまま丁寧にアピールを続けることで、香川県内で「丸亀製麺讃岐うどん」と認める人々が主流になる日も来るだろう。もちろん県外では、讃岐うどんであるかどうかを気にしない人の方が大多数であり、「丸亀製麺が美味しいから行く」ファンは、しっかりと根付いている。

 オリジナリティを守りつつ、本場のお墨付きも欲しい丸亀製麺の試行錯誤は、まだまだ続くのだろう。一方で、業界2位のはなまるうどんも負けていない。丸亀製麺とは違い、讃岐うどんの本場・香川県で創業したプライドを隠さずに、県内でさまざまな取り組みを重ねながら「逆襲」のチャンスをうかがっている。

 続く記事では、そんなはなまるうどんの運営企業社長が明かす「丸亀製麺」や「資さんうどん」への思いや、捲土重来を期して香川で進める施策などを見ていく。

売り上げ規模、店舗数では丸亀製麺に“完敗”なのに…「はなまるうどん」が、香川県でだけ“圧勝”を続けられるワケ〉へ続く

(宮武 和多哉)