VR技術を活用 新たな被爆体験継承の形
被爆者から直接話を聞ける機会が少なくなる中、その体験を未来へ伝える方法も変わり始めています。被爆3世の大学院生が取り組んでいるのはVR=仮想現実を使った新たな継承です。
■「ご無沙汰してます。どうぞお上がりください。失礼致します。」
8月1日、広島市東区に住む被爆者の田中稔子さんのもとを訪れたのは、東京大学大学院の片山実咲さんです。
片山さんは、尾道市出身の被爆3世です。高校生平和大使を務めるなど平和活動に取り組んできました。
「戦争を経験された方々、どうか私たちにお話を聞かせてください。私たちは知りたいです、そしてつないでいきたいです。」
この日は、片山さんが所属する研究室の渡邉英徳教授もオンラインで参加し、田中さんの過去の体験などに耳を傾けました。
■田中稔子さん
「人間のあまりの死を6歳の時に見てしまったので、あそこでみんな死んでしまうというね、分かっちゃったんですよね。」
田中さんの81年前の記憶・・・
被爆したのは、6歳の時。爆心地から2.3キロ。牛田の自宅の近くにいた時でした。
■被爆者・田中稔子さん
「『敵だー』という声がするので、桜の木の陰から出て、見たら2機の飛行機が見えたんですね。その飛行機がB29。そしたらピカッときましたから、そのピカッときた瞬間にこうやったんですね、そうすると、腕と頭とそして、 首の後ろを火傷したらしいんですね。」
何とか自力で自宅にたどりついた田中さん。
■被爆者・田中稔子さん
「壁土の中にトマトが1つ転がっていたんですよ。のどが渇いていたんでしょうね。トマトにかぶりついちゃったんですよ。壁土だらけなんだけど、きれいにして。それがどうしても食べたかったんですね。もしかしたらそのおかげで助かっているかもわからないですね。
東京大学大学院の渡邉研究室では、田中さんの被爆体験をVRで再現する取り組みに携わっています。最新技術を使い被爆体験を継承する取り組みです。
■東京大学大学院 渡邉英徳教授
「対面でお話をお聞きするというのが、だんだんできなくなるとしたら、その方が体験した出来事そのものも追体験できるような方法が必要になってくるわけですよね。
まさに被爆81年を迎えて、最新技術を使って、語り部の方が体験したものを、とても本当の体験には至らないかもしれないけれど、ある意味再現する挑戦だと思っているわけです。」
7月下旬、渡邉教授と片山さんは、子どもたちが戦争や平和について学ぶイベントに参加しました。
■片山さん
「戦争という言葉が出てきたら、同時に平和という言葉も出てくると思うんですけど、平和って聞いたら何をイメージしますか?」
■子ども
「安全」
「にぎやか」
被爆体験を未来につなぐ。その方法も時代ごとに変化しています。
■渡邉教授
「時代ごとに必ず新しいテクノロジーとか、表現の方法があらわれてくるので。」
■片山実咲さん
「50年先を見据えた取り組みとかチャレンジとか、なんかもっと息の長い視点でやっていけたらすごい素晴らしいですよね。」
VRでの再現に向け、制作に携わる関係者が、田中さんから詳細を聞き取ります。
■説明
「一番痛々しいところになりますが、手です。こんな感じで、ただれたような印象に・・・」
■被爆者 田中稔子さん
「もうちょっと上まででしたね。手首の方はないんですけど、肘のあたりからこう。あんまり大した痕はもう残ってはいないんですけど、ちょっと変ですよね、この辺。この辺まであるんですよ。肘の外側と言いますかね。ここをやられているわけですよね。こうなっていますからね。こっちから来たんですよね。」
その2日後。東京の撮影スタジオ。
被爆当時の田中さんの役を演じる役者には、やけどや衣類の様子が再現されていました。
田中さんの被爆後の様子を演じていきます。
■子役
「おかあちゃん~」
田中さんが希望を持った瞬間も再現されました。
■田中稔子さん
「ぐちゃぐちゃの中でね、天井が大きくさけてて、青空が見えたんですねすごい昨日と同じね、きれいな青空がある、きれいと思ったんですね。もしかしたら明日があるかもしれない。青空が同じなんです、きのうとね。だからそれが元気をつけてくれたと思っていますね。今があると思っていますけどね」
現代の技術を取り入れてつなぐ被爆体験。田中さんも期待を寄せています。
■被爆者 田中稔子さん
「実際にあったことをですね、そのままより近い形で展開されるということ。これがどんどん進んでいけば、遠い81年の過去のことも今の出来事になっちゃうと思うんですよね。そうするとほうっておけませんよね。そういう気持ちにみんながなって、やっぱり戦争があるとこういうことになるというね、そこに気持ちが集約されるようになれば、私にとっては死んでも死にきれますね。」
VRでつなぐ被爆体験、完成は26年11月の予定です。
■片山実咲さん
「次の100年で生き続ける、魂の残っているコンテンツとか伝え方とか、そういうところにきっとチャレンジしていかないといけない。」
2026年8月6日 放送

